「最高裁判所から“この映画を公式上映したい”という手紙が届いたんだ!」
花嫁がベールを深く被っていたがゆえに、新婚の花嫁を取り違える事件が発生、村の若者の所には別の花嫁がやって来てしまい、本来の花嫁は行方不明に。警察に相談するが、署長も首をかしげるばかり……という物語の筋は元の脚本から大きな変更はなく、時代設定が2001年というのも元の脚本通りだという。
アーミル:脚本の大事な部分は変えていないけれど、キランも僕も、脚本に少し手を入れてくれる人が必要だとは思ったんだ。そこで、スネーハー・デサイに頼んで、登場人物を増やしてもらった。舞台が2001年というのは元の脚本のまま。2024年の現在ではインターネットやケータイが行き渡って、物事ががらりと変わったよね。物語の純粋性を出すためには、ケータイがやっと出始めた2001年の設定の方がいいと思ったんだ。
現在だと、誰かを見失うなんてことはほとんどない。ケータイを持っていれば、行方不明になるなんて不可能だよね。 でも2001年のケータイが出始めた頃には、ほんの少しの人しか持っていなかったし、特に農村部では持っている人は本当に少なかったからね。
実は私は、この映画を本年3月にインドのチェンナイで見て、観客と共に大いに笑ったクチだ。アーミルも、インドの観客の反応はとてもよかった、という。
アーミル:インドの観客はこの映画をとても気に入ってくれた。全国の映画館で公開された時も、たくさんの人が観てくれた。女性はもちろんのこと、男性もこの映画を愛してくれて、ほぼ全員一致で好意的な反応が返ってきたよ。
さらには、インドの最高裁判所が、所内でこの映画の上映を実施したという驚くべき話もある。
アーミル: (笑って)面白いよね? だって、ある日最高裁から突然「この映画を所内の講堂で、裁判官や書記官、その他の人々に見せるために公式上映したい」という手紙が届いたんだから。司法制度のもとで働く人たちにこの映画を見せたい、という話に、キランも僕も本当に喜んだよ。最高裁がこの映画の主張を認識しているという、非常に強い、前向きなメッセージを伝えられるし、裁判官や司法制度に関わる人々がこの映画を観ることで、こういった問題に敏感になってくれるだろうと思えたからね。
最高裁での上映時には、最高裁長官始め判事全員が出席してくれた。我々にとって、本当に素晴らしい経験だったよ。みんなよく笑ってくれて、とても楽しんでくれた。最高裁長官は僕らに、こういう映画こそが女性問題に対する人々の感受性を高めるのに非常に役立つ、と言ってくれたんだ。
「世界中に存在している家父長制を認識して、そこから抜け出すべきだと思う」
アーミルの製作作品は、『ダンガル きっと、つよくなる』や『シークレット・スーパースター』など、女性のエンパワーメントを促す作品が多い。彼は<映画の力は社会的に弱い立場にある人たちの地位を向上させる>と信じて、製作しているように思われる。
アーミル:家父長制は世界中に存在している。我々はそれを認識して、そこから抜け出すべきだと思う。時が経てば物事は変わっていくはずだ。ゆっくりとだけど、変化はする、時間はかかるけれど、小さな変化は起きていく。非常に力強くて、重要で、前向きな何かを伝える映画は、どれも影響力があると思う。1日目には完全なインパクトを与えることはできないかも知れないが、その後ゆっくりと、それぞれの前向きなストーリーが観客の心に影響を与えて、何らかの変化が起こり得ると思うんだ。我々はそれに貢献していきたい。
ところで、日本では“俳優”アーミル・カーンの方がよく知られており、ファンがものすごくたくさんいるのはご承知のとおり。特に、2013年に公開された『きっと、うまくいく』(2009年)は、日本のファンにも非常に愛されている。
アーミル:日本の観客で、僕の作品を観て気に入ってくれた人がいると知って、とても嬉しい。現在製作中の新しい作品は、うまくいけば今年末までに公開される予定なので、日本でも上映されるのを楽しみにしているよ。タイトルは『Sitaare Zameen Par(意:地上のスターたち)』と言うんだ。え、ストーリーかい? 少しだけ教えようか(笑)。
以前の『地上の星たち』(原題:Taare Zameen Par: Every Child Is Special)は知ってのとおり、障がい者や子どもたちが直面するさまざまな困難を描いた物語だった。今度の作品もテーマは同じで、人々が人生で抱えるさまざまな能力や問題に関する作品だよ。
ただ、今度の映画は観客を笑わせてくれる、という違いがある。『地上の星たち』はとても感動的な作品で、観た人は涙してしまうけれど、『地上のスターたち』はとてもユーモラスな映画になっている。同じ問題を扱ってはいるけれど、ユーモアたっぷり。それが違いだね。
最後に、『花嫁はどこへ?』を観る日本の観客へメッセージを語ってもらった。
アーミル:日本の観客の皆さんには、『花嫁はどこへ?』をぜひ観てもらいたいと強く願っています。とても美しい物語だと思いますし、物語の伝え方もとても興味深い作品です。日本の観客の皆さんが、この映画にどう反応して下さるか楽しみです。
文:松岡環
『花嫁はどこへ?』は2024年10月4日(金)より全国公開
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『花嫁はどこへ?』
2001年、とあるインドの村。プールとジャヤ、結婚式を終えた2人の花嫁は同じ満員列車に乗って花婿の家に向かっていた。だが、たまたま同じ赤いベールで顔が隠れていたことから、プールの夫のディーパクがかん違いしてジャヤを連れ帰ってしまう。置き去りにされたプールは内気で従順、何事もディーパクに頼りきりで彼の家の住所も電話番号もわからない。そんな彼女をみて、屋台の女主人が手を差し伸べる。一方、聡明で強情なジャヤはディーパクの家族に、なぜか夫と自分の名前を偽って告げる。果たして、2人の予想外の人生のゆくえは──?
プロデューサー:アーミル・カーン、ジョーティー・デーシュパーンデー
監督・プロデューサー:キラン・ラオ
出演:ニターンシー・ ゴーエル、プラティバー・ ランター
スパルシュ・ シュリーワースタウ、ラヴィ・キシャン、チャヤ・カダム
制作年: | 2024 |
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2024年10月4日(金)より全国公開