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アメリカで内戦勃発!資本主義の是非や報道の必要性を語る『シビル・ウォー アメリカ最後の日』監督インタビュー

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ライター:#遠藤京子
アメリカで内戦勃発!資本主義の是非や報道の必要性を語る『シビル・ウォー アメリカ最後の日』監督インタビュー
『シビル・ウォー アメリカ最後の日』©︎2023 Miller Avenue Rights LLC; IPR.VC Fund II KY. All Rights Reserved.
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「アメリカは素晴らしく豊かな国だと思われているけど、全然そうじゃない」

――殺伐とした映画の中で、唯一、廃墟化したアメフトのスタジアムの難民キャンプでのシーンは牧歌的に描かれていました。難民キャンプを災害ユートピアとして描いたのは、なぜですか。

こういうことも現実の一部だと思うからです。紛争地に行ったら、あらゆる戦争が行われている場所で、人々が生活し続けているのが見られるでしょう。市場や店や学校がまだやっていたり、子どもたちが空き地でサッカーをしていたりするでしょう。紛争についての真実を描こうとすれば、『マッドマックス』みたいにすべてが狂った黙示録みたいになるわけではなくて、そこには子どもも家族もいて、お互いに思いやりを持って暮らしている人々もいるわけです。人間らしさを感じられる部分も、恐怖も、どちらも紛争の一部なんです。

『シビル・ウォー アメリカ最後の日』©2023 Miller Avenue Rights LLC; IPR.VC Fund II KY. All Rights Reserved.

――アメフトのスタジアムやウィンターランド(※クリスマスの飾りつけをした広場)はもともと廃墟だったとのことですが、あれを見つけられて……。

あの忘れられたウィンターランドについてひとこと言っておきたいのは、僕たちはアメリカという舞台をあるがままにドキュメンタリーのように撮りたいと思っていたので、わざわざああいうセットを用意するようなことは何もしていないということです。

アメフトのスタジアムもあんなふうに廃墟になっていて、グラフィティだらけでした。ウィンターランドもあのまんま――僕らはアトランタ周辺をロケハンしていて、まさにあの打ち捨てられたウィンターランドを見つけたんです。4月のことだったと思います。誰かが12月にあれを造って、でも破産した。そして造った人たちは、それをそのまんま放っておいた。だからこの映画のドキュメンタリー的な側面は、作りごとじゃなく本当のアメリカだということです。

アメリカ国外の人にはあまり知られていないんですが、アメリカに行くと多くの地域で……都市もそうですが、地方にものすごい貧困があるんです。考えられないような貧困、暴力、社会的不正や悲惨な生活があります。アメリカは素晴らしく豊かな国だと思われていますが、全然そうじゃないんですよ。

『シビル・ウォー アメリカ最後の日』©2023 Miller Avenue Rights LLC; IPR.VC Fund II KY. All Rights Reserved.

――あの廃墟は、私には資本主義の終焉のメタファーみたいに見えました。

そうですね、僕自身はマルクス主義者ではありません。たぶん中道左派といったところだと思いますが、それでも資本主義にはかなり問題があると考えています。この映画は資本主義への批判になっているかもしれません。

じつは、僕の過去作である『エクス・マキナ』(2015年)やテレビシリーズの『DEVS/デヴス』(2020年)でも、行き過ぎた資本主義を批判してきました。その行き過ぎた資本主義というのがまさにいまあって、アメリカのテック業界、FacebookやGoogle、イーロン・マスクみたいな人は、小国やうっかりすると大国と同じくらいの権力を握っているのに、その権力を何の責任も負わずに野放図に濫用しています。しかも投票とは関係ないから、辞任させることもできない。小さな王子や王、女王という感じですね。

『シビル・ウォー アメリカ最後の日』©2023 Miller Avenue Rights LLC; IPR.VC Fund II KY. All Rights Reserved.

「報道の力を信じている。それは国家を守ると同時に自由にするもの」

――(本作の主人公で戦争カメラマンの)リーもジェシーも「家族が内戦なんか見ないふりをしている」ことにフラストレーションを感じていますが、内戦がないふりをして日常業務に邁進するのは弱い庶民にとっての生きる知恵のようにも思います。

その通りですね。

『シビル・ウォー アメリカ最後の日』©2023 Miller Avenue Rights LLC; IPR.VC Fund II KY. All Rights Reserved.

――そうした庶民に対して報道は何ができるんでしょうか。報道の役割とは、どんなことだと監督はお考えですか。

報道が機能しないことはよくあります。ジャーナリストが報じる問題点を、しっかり考える余裕が暮らしの中にない場合もありますよね。電気代やガス代を支払えるのかというような、もっと切実な問題を心配していたりしたら……。それに、報道された事柄に恐怖を感じる人もいると思います。ジャーナリストは怖がらせようとしてやっているわけではないけれど、気候変動や政治や戦争のニュースに怯えてしまうんです。だからガザやウクライナのニュースは聞きたがらない。

この作品のプリプロダクションで、そうした実際に起こっていることを例として出していたのですが、シリアの内戦については結構な数の人が、僕が話したことをまったく知らなかったんです。虐殺についてのドキュメンタリーを見せたんですが、ある人が「これはフィクションでしょ?」と言う。「こんなことを普通の人が本当にやるわけがない」と。「何を言ってるんだ、もちろんこれは本当に起こったことだ」と言うと、「一般市民が虐殺に遭うなんて」と言っていました。それで「なんてことだ、40歳にもなって戦争で一般市民が大量虐殺されていることも知らないのか」と思って、彼に第二次世界大戦の話をしました。

数日後、彼はある本を読んだみたいで「アレックス、あなたが言う通りだった。ドイツ軍がこの村で147人を殺したと書いてあった」と言うので、「147人か。トータルでどれくらいになったか知ってる?」と聞いたんです。6000万人が亡くなっているんですよ。すると彼は驚いてしまって、また信じられないようだった。でも僕にとっては、そっちのほうが信じられないことでした。ものすごくおかしなことです、第二次世界大戦のそんな基本的な情報を知らないなんて。

「歴史を忘れれば同じ過ちを繰り返す」という有名な言葉があります。僕らはいま、まさに歴史を忘れかけている瞬間にいて、だからまた同じことを繰り返すかもしれない。人々が報道を見たがらない理由は理解できます。でも、それは間違いなんです。社会的責任として知っておくべきだし、報道を理解するべきなんです。

『シビル・ウォー アメリカ最後の日』©2023 Miller Avenue Rights LLC; IPR.VC Fund II KY. All Rights Reserved.

――ということは、監督は報道の力を信じてらっしゃるのですね?

はい。それ以上ですね。報道の力を信じていますし、報道の力とは国家を守ると同時に自由にするものだと考えています。もし誠実な報道がなければ、ひどい社会問題がすぐに起こるでしょう。法律や司法も重要ですが、報道の自由がなければめちゃくちゃなことになります。そうですね、報道の力を信じているだけでなく、報道は必須だと思います。

『シビル・ウォー アメリカ最後の日』©2023 Miller Avenue Rights LLC; IPR.VC Fund II KY. All Rights Reserved.

――私もです。(ここでタイムアップと言われて)ありがとうございました。ああ、デ・ラ・ソウルの「Say No Go」についても聞きたかったのに!

あれは、映像に合うけれどサウンドとしては合わないようでいて合うものを、呼応する場所に入れこんだということなんですよ。

――ありがとうございます!

これで大丈夫かな? また会えてよかった。

『シビル・ウォー アメリカ最後の日』は2024年10月4日(金)より全国公開

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『シビル・ウォー アメリカ最後の日』

連邦政府から19もの州が離脱したアメリカ。テキサスとカリフォルニアの同盟からなる“西部勢力”と政府軍の間で内戦が勃発し、各地で激しい武力衝突が繰り広げられていた。「国民の皆さん、我々は歴史的勝利に近づいている——」。就任 “3期目”に突入した権威主義的な大統領はテレビ演説で力強く訴えるが、ワシントンD.C.の陥落は目前に迫っていた。ニューヨークに滞在していた4人のジャーナリストは、14ヶ月一度も取材を受けていないという大統領に単独インタビューを行うため、ホワイトハウスへと向かう。だが戦場と化した旅路を行く中で、内戦の恐怖と狂気に呑み込まれていくー

監督・脚本:アレックス・ガーランド

出演:キルステン・ダンスト、ワグネル・モウラ、スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン、ケイリー・スピーニ―

制作年: 2024