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アメリカで内戦勃発!資本主義の是非や報道の必要性を語る『シビル・ウォー アメリカ最後の日』監督インタビュー

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ライター:#遠藤京子
アメリカで内戦勃発!資本主義の是非や報道の必要性を語る『シビル・ウォー アメリカ最後の日』監督インタビュー
『シビル・ウォー アメリカ最後の日』©︎2023 Miller Avenue Rights LLC; IPR.VC Fund II KY. All Rights Reserved.
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『シビル・ウォー アメリカ最後の日』はアメリカ合衆国の分裂を描く、A24最大の予算を投じた大作映画だ。記者を殺害するような独裁的な大統領にテキサス州とカリフォルニア州が同盟して反旗を翻し、19州もが離脱。激烈な内戦のさなか大統領のインタビューを取るため、ジャーナリストたちがニューヨークからワシントンへ向かう物語だ。

もちろん飛行機なんか飛んでいるわけがない。彼らは道中で拷問を目撃し、狙撃手に狙われ、大量虐殺を隠す男たちに出会う……。つまり観客は、現在のシリアやガザやウクライナのようになったアメリカを目撃することになる。これまでも問題作を手掛けてきたアレックス・ガーランド監督に、着想の原点を聞いた。

アレックス・ガーランド監督 『シビル・ウォー アメリカ最後の日』©2023 Miller Avenue Rights LLC; IPR.VC Fund II KY. All Rights Reserved.

「SNSはヘロイン中毒の注射針みたいなもの」

――2022年に『MEN 同じ顔の男たち』でインタビューさせていただいた時、ちょうど『シビル・ウォー』を撮り終わってポスプロに入ったところだとおっしゃっていました。脚本を2020年から書き始められたとのことですが、2021年1月6日の親トランプ派の米議会乱入で内容が変わったところなどはありましたか。

いえ、内容は変えていません。親トランプ派の米議会乱入は、それまでに起こっていたことの証拠になっただけで何も変わりませんでしたし、それまで言われていたことがはっきり目に見える形で示されただけのことでした。議会乱入で見られたすべての問題は、もうすでに存在していたんです。実際、何年もの間、多くの人がこのまま続けばああいうことが起こるだろうと言ってきましたよね。それにトランプが選挙に負けたらああいうことをやりそうだと予想していた人も多かった。だから、あの事件で何も変わらなかったじゃないですか。

共和党の中にいくらかでも彼ら自身や国家に対して誠実な人がいれば何かするべきだったし、アメリカの政治が危険域に入ったと示されるべきだった。あの時点こそ将来こうなるだろうと予測したことが起きた時だったのに、結局彼らは現実を見ないふりをして、倫理を無視して、何も起こっていないふりをしたんです。僕は54歳だから、保守派だったロナルド・レーガン元大統領でさえ極右みたいに見えたころのことを覚えています。もしレーガンだったら、1月6日にどうしただろうか。レーガンが極右でも相当、恐怖を感じたと思います。レーガンはちゃんと選挙で選ばれていたし、いまどきの共和党政治家たちよりずっと誠実でしたけれどね。そう、つまりあれで脚本を変えたところはまったくありません。

――着想はいつごろ、どこから得られたのでしょうか。

ポピュリズムや過激主義が世界中に蔓延するようになったことからです。こういう現象は南米でも中東でも西側諸国一帯でも、アジアにも見受けられますよね。僕はこういうことはSNSと無関係ではないと思います。SNSというのはヘロイン中毒の注射針みたいなものです。SNSがポピュリズムのメッセージを蔓延させる完璧な媒介になった。そしてSNSの背後に隠れている人は社会的責任を全然、まったく負わないんです。そして、こういう最悪の事態になるんです。

『シビル・ウォー アメリカ最後の日』©2023 Miller Avenue Rights LLC; IPR.VC Fund II KY. All Rights Reserved.

「私たちは<貧困>をそのまま他国にアウトソーシングしただけ」

――本作は、戦争の悲惨な描写が多くの人々を驚かせていますが、特異なのはそれがアメリカで起こったという設定だけなんですよね。じつはどの場面にも既視感があり、いままで見たことがある映像のようでした。ヘリが河の上を飛んでいるシーンは『地獄の黙示録』(1979年)を思い出させます。最後のクレジットの写真も、同じような構図の写真を見たような気がしてしまいます。アメリカが他国に侵略したり、内戦を引き起こしてきたケースを観客に思い出させるために、あえて過去の惨状をなぞるように描写されたのでしょうか。

アメリカだけが例外ではないと思い出してもらうため、ですかね。他国にある問題はアメリカにもあります。それに、西側諸国の人たちはほかの地域の戦争の画像を見ることに慣れきっているようですが、歴史上まったく同じことが(西側諸国でも)起こってきたことを忘れています。しかも同様の脆弱さが、あちこちに残っているんですよ。実際、西側の民主主義というのはファシズムを避けるために創られたものです。民主主義がなければ英国王室がそのままファシズムに至ることもあり得たし、ヒトラーやムッソリーニやスターリンみたいな人が現れた可能性もありました。

民主主義は、過激主義やファシズムからの防御のメカニズムとして存在しています。西側の人たちは歴史を忘れてしまって、こういう問題はほかの大陸の知らない人たちの問題だと思っているようです。だからドナルド・トランプみたいな人を脅威だと思っていない。まるで自分たちは何かの魔法で守られていると思っているようですが、誰もそんなことはないですよね。

『シビル・ウォー アメリカ最後の日』©2023 Miller Avenue Rights LLC; IPR.VC Fund II KY. All Rights Reserved.

――本作のキャストであるワグネル・モウラが「テレビで見ていた遠く離れた場所の出来事がアメリカで起きるなんて」と言っていますが、日本も含め、その遠く離れた場所の悲惨さゆえに自国が豊かになっている側面もあったりするわけですよね。

まったくその通りです。西側諸国はそれを、ものすごく巧みにやってきました。1890年代のビクトリア王朝時代の英国では工場労働者に貧困が蔓延していて、賃金も非常に低く労働条件も非常に悪く、幼い子どもまで働かされていたんです。そして私たちがやってきたのは、そういう状況をそっくりそのまま他国にアウトソーシングしたということ。西側諸国の人々は、自分たちがこの搾取の関係の中に取りこまれていないと思っていますが、そんなの嘘っぱちですよ。貧困が、アジア……中国とかベトナムとか、あるいはアフリカのどこかの国にアウトソースされたにすぎない。でも120年前には、まったく同じ構造で西側諸国で起こっていたことです。それがいまだに違う場所にあるわけです。

『シビル・ウォー アメリカ最後の日』©2023 Miller Avenue Rights LLC; IPR.VC Fund II KY. All Rights Reserved.

――だからこそ、アメリカでも戦争が起こりうるということがリアルに感じられたんです。

起こりうるし、起こるでしょうし、過去にも起こりました。この映画の中に、歴史上なかったことは一つもないと思います。これはフィクションの形式を取っていますし、実際フィクションですが、まったくの絵空ごとは入れていないので、ある意味フィクションではないとも言えます。論理的に起こり得ないことは入れていない、と言うべきかもしれません。

どんな戦争でも戦争犯罪があり、どんな戦争でも大量殺戮された人が一緒くたに埋められ、どんな戦争でも難民が生まれます。どんな戦争にもプロパガンダがあります。つまり、この作品に描かれたすべてのことは紛争では当たり前のことで、紛争が当たり前になったということですね。

『シビル・ウォー アメリカ最後の日』©2023 Miller Avenue Rights LLC; IPR.VC Fund II KY. All Rights Reserved.

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『シビル・ウォー アメリカ最後の日』

連邦政府から19もの州が離脱したアメリカ。テキサスとカリフォルニアの同盟からなる“西部勢力”と政府軍の間で内戦が勃発し、各地で激しい武力衝突が繰り広げられていた。「国民の皆さん、我々は歴史的勝利に近づいている——」。就任 “3期目”に突入した権威主義的な大統領はテレビ演説で力強く訴えるが、ワシントンD.C.の陥落は目前に迫っていた。ニューヨークに滞在していた4人のジャーナリストは、14ヶ月一度も取材を受けていないという大統領に単独インタビューを行うため、ホワイトハウスへと向かう。だが戦場と化した旅路を行く中で、内戦の恐怖と狂気に呑み込まれていくー

監督・脚本:アレックス・ガーランド

出演:キルステン・ダンスト、ワグネル・モウラ、スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン、ケイリー・スピーニ―

制作年: 2024