ワケあり祈祷師 VS 古(いにしえ)の悪霊
本作の原題を直訳すれば、『チョン博士のお祓い研究所』、英題は『Dr. Cheon and Lost Talisman』(意:チョン博士と失われた護符)といったところか。ユーモアを維持しながらもシャープなホラーとして映像化してみせたのは、パク・チャヌク『別れる決心』やポン・ジュノ『パラサイト 半地下の家族』など大物監督の助監督として経験を積んだキム・ソンシク監督。本作の冒頭、イ・ドンフィ演じる助手のインベが依頼人の豪邸を前に「こんな家に住むには……」とボヤくシーンは(ゲストキャストも含め)、『パラサイト』へのオマージュのようでニヤリとさせられる。
『JSA』や『オールド・ボーイ』、『お嬢さん』など数々の傑作を世に送り出してきたパク・チャヌク監督も、「一味違っていた」と本作が醸し出す未知の恐怖を称賛。古くから人間の体を転々としながら霊力を狩ってきた悪鬼が、ある“目的”のため人間を器(うつわ)にして次々と憑依して襲い来る――。いつ、どこで、誰に憑依するかも分からない、まさに予測不能な<新感覚>憑依ホラーエンターテイメントに仕上がっている。
キャラ設定から退魔アクションまで見どころ満載!
ケーハクな主人公像は映画や小説、漫画で定番の設定。キャストに引っ張られやすい映像作品ではより分かりやすいギャップも求められるが、黙ってさえいればクールなイケメンであろうチョン博士=カン・ドンウォンは、観客の深読みも誘発する好キャスティングと言えるだろう。そして目の据わった星野源とでも例えたくなる独特なバイブスを持つイ・ドンフィも、シティボーイ系俳優らしいスコンと抜けた演技でドタバタ劇の側面を強調させる。
そして軽快に始まる本作にドロリとした恐怖をもたらすのが、イ・ソム演じる依頼人のユギョンと、ホ・ジュノ演じる悪鬼・梵天。物語の中盤に差し掛かる前には早々に<インチキじゃない、ほんとにヤバい悪霊退治>展開に突入し、ユギョンの素性や梵天の厄介な目的、チョン博士の真意が徐々に描かれていく。梵天(ホ・ジュノの顔面力が炸裂!)が取り憑いた人々との戦いや逃走シーンは、まるでステルスゲームのような演出がスリリング。また、博士を幼少期から知る古物商のファン社長(キム・ジョンス)は重要な役どころでありながら基本設定の解説も担ってくれるという親切ぶりだ。
ホラーが苦手でも無問題! シリーズ化にも期待のSF心霊アクション
同じく韓国の『哭声/コクソン』(2016年)のような生理的嫌悪を誘う激怖スリラーが苦手でも、例えば『霊幻道士』(1985年)や『ゴーストバスターズ』(1984年)のような退魔スリラーを楽しんできた人ならば、オカルティックかつユーモラスな演出も満載の本作を存分に楽しめることだろう。オタク心をぐっと掴まれる呪具の数々や、心霊とは無関係なガチの護身グッズなども目に楽しく、とくにチャン博士が大事にしている<剣>は公式グッズ化希望のカッコよさ。
クライマックスの総力戦も手に汗握るド派手なアクションが繰り広げられ、CGによる“捕縛”表現など見どころ満載。なお、BLACKPINKのジスが“ある重要な役”で登場するのだが、このキャスティングはソンシク監督がファンだったからというのが大きな理由とのことなので、我々もその神々しい姿を素直に拝んでおこう。原作よろしくシリーズ化も十分あり得る〆になっているので、そのあたりにも期待したいところだ。
『憑依』は2024年9月6日(金)より全国公開