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なぜ「子役出身」の俳優は“潰れる”のか? 負のジンクスを〈ヒーロー映画〉で覆した名優の華麗なキャリア【9/21は「バットマンの日」】

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ライター:#谷川建司
なぜ「子役出身」の俳優は“潰れる”のか? 負のジンクスを〈ヒーロー映画〉で覆した名優の華麗なキャリア【9/21は「バットマンの日」】
『ダークナイト』© 2008 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved. BATMAN and all related characters and elements are trademarks of and © DC Comics.
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『バットマン ビギンズ』でクリストファー・ノーラン監督と邂逅

記憶障害(『メメント』[2000年])や不眠症(『インソムニア』[2002年])といった心に闇を抱える主人公を描く、一風変わった作品で注目を浴びたクリストファー・ノーラン監督。そんな彼が“バットマン”のリブート版シリーズを監督することになったとき、蝙蝠〈コウモリ〉への恐怖心から結果的に両親を目の前で強盗に殺される事態を招いたことで心に深い闇を抱えることになった主人公ブルース・ウェイン(=のちのバットマン)役として白羽の矢を立てたのが、当時30歳代に入ったばかりのベイルだった。

その作品、『バットマン ビギンズ』(2005年)は、幼くして親を失い心を閉ざした少年が、放浪の旅を経て己の心の闇に打ち勝ち、プレイボーイという表向きの偽りの姿によって友人のいない孤独な魂の中でバットマンとして戦う姿を描いて高い評価を得て、興行的にも大成功した。

それまでマイケル・キートン、ヴァル・キルマー、ジョージ・クルーニーによって演じられてきたブルース・ウェインという人物だが、葛藤を抱えつつも戦っていくその姿が改めて広く受け入れられたのは、ひとえにベイルの醸し出す存在感と、それを引き出したノーラン監督の手腕だったはずだ。

バットマン ビギンズ (字幕版)

PrimeVideo『バットマン ビギンズ (字幕版)』Rating G BATMAN and all related characters and elements are trademarks of and © DC Comics. © 2005 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

続編『ダークナイト』でのアンチ・ヒーロー像の提示

続く『ダークナイト』(2008年)では、ノーラン×ベイルのコンビはさらに一歩前へと進み、ヒーロー映画の枠組み自体を脱構築してしまう。つまり、バットマンの戦う目的が街に巣食う悪者たちを駆逐することなのだとしても、法に背いて私的制裁を加えるという点で悪者と何ら変わらない存在なのではないか、という疑問に真正面から取り組んだのだ。

ダークナイト (字幕版)

PrimeVideo『ダークナイト (字幕版)』Rating G © 2008 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved. BATMAN and all related characters and elements are trademarks of and © DC Comics.

本作では、撮影直後に亡くなってしまったことで伝説的存在となったジョーカー役のヒース・レジャーに注目が集まったが、実はジョーカーとバットマンは合わせ鏡のような表裏の存在で、どちらも深い闇を抱えた人間として描かれている。ジョーカーはバットマンがマスクを脱いで正体を明らかにするまで毎日一人ずつ市民を殺していくと宣言し、それを実行することで、「卑怯なことに正体を明かさないバットマンのせいで人が殺されていく」という市民の怒りや恨みの気持ちを喚起させる。

『ダークナイト』© 2008 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved. BATMAN and all related characters and elements are trademarks of and © DC Comics.

最後には、バットマンとともに正義の側にいた地方検事ハービー・デント(アーロン・エッカート)が恋人の死によって復讐の鬼=トゥーフェイスと化したことが市民に知られてしまえば、ゴッサムシティの市民はもはや正義を信じられなくなるからという理由で、死んだトゥーフェイスの罪をかぶって悪者として警察に追われる形で幕を閉じるのだ。

『ダークナイト』© 2008 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved. BATMAN and all related characters and elements are trademarks of and © DC Comics.

『ダークナイト ライジング』でのトリロジーの完成

トリロジーの最終作『ダークナイト ライジング』(2012年)では、ほぼ最後の瞬間までバットマン=ブルース・ウェインは負け犬であり続ける。

敵であるベイン(トム・ハーディ)には全く歯が立たず徹底的に叩き潰され、信じていた女性たちには何度も裏切られ、命を懸けて守ろうとしていたゴッサムシティの市民たちからも、警察からも極悪人として糾弾され、唯一の家族のような存在であった執事のアルフレッド(マイケル・ケイン)は彼のもとを去り、財産もすべて失ってしまう。

ダークナイト ライジング (字幕版)

PrimeVideo『ダークナイト ライジング (字幕版)』Rating G © 2012 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved. BATMAN and all related characters and elements are trademarks of and © DC Comics.

もちろん、ラストにはすべての伏線が回収されて、バットマンはゴッサムシティを救うことになるのだが、ブルース・ウェインは名誉が回復されることもなく、ひっそりと人々の記憶から消え去っていく運命にある。

このトリロジーを通じて、クリスチャン・ベイルは10代からの30代終わりまでの時期のブルース・ウェインを演じ切り、ブルースの人としての成長とリンクする形で、役者としての自身の成長をも示してきた。

演技派俳優として進化し続けるクリスチャン・ベイル

40代となったベイルは演技派俳優として『アメリカン・ハッスル』(2013年)でアカデミー主演男優賞ノミネート、『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(2015年)では同助演男優賞ノミネートと評価は高まり続け、『バイス』(2018年)では肉体改造とメーキャップでディック・チェイニー元副大統領役になりきる熱演を示し、再びアカデミー主演男優賞にノミネートされるとともに、ゴールデングローブ賞主演男優賞を受賞した。

現在製作中の新作『ザ・ブライド』(原題/監督:マギー・ギレンホール)では、フランケンシュタインの怪物役を演じているという。ベイルが、かつてその役を演じた一世代年上のロバート・デ・ニーロの後継者というポジションにあることは、ハリウッドの映画産業界の誰もが認めるところだと言えるだろう。

文:谷川建司

『ダークナイト』三部作はCS映画専門チャンネル ムービープラス「特集:バットマンの日」「ワーナー ブラザース劇場」で2024年9月放送

https://www.youtube.com/watch?v=8-LTLk1E8us

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