「オールドデリーのあの臭いが蘇ってきて、“ウグッ”って」
――呂布カルマが初めて訪れて「人生観が変わった」というインド。その凄さ、面白さ、得体のしれないパワーの源は、いったい何なのだろうか? インドという国を実際に体験した後だから感じられるであろう、本作の背景やディテールについて聞いた。
日本とは全部、あまりにも違う。日本で育って、この国の基準が当たり前だと思っていたので、こんなに違うのか! と。僕はオールドデリーに行ったんですけど……道交法も、衛生面もぐちゃぐちゃだし東京より人口過密で、僕からしたら地獄だなと思ったんですけど。でも、そこでみんな力強く生きていて、その感じとかも衝撃的で、日本人ってすごく弱いなって感じたんですよね。とにかく衝撃でした。
キッドがクラブのVIPルームから逃げ出して、汚い市街地を戦いながら逃げていくシーンがあるんですけど、そこが僕らが見慣れていないようなスラム街で。ハリウッド映画とかでも観たことがない景色というか、その中を戦いながら逃げる姿が印象深かった。でも、「ああ~、この感じだ」というか、「汚え~!」みたいな(笑)、ホテルの部屋から一歩も出たくないと思ってしまった、あの気持ちが蘇りました。キッドがあの“終わってる川”に落ちるシーンとか、現地の臭いが漂ってくる感じがして「ウグッ」ってなりましたね。
――本作でパテルが練り上げた「架空の街」には、底辺の混沌やVIPクラブのいかがわしさなどが暗い映像で描写されている。この地における「這い上がれない人生」や「突きつけられるカルマ」には、かなりカルチャーショックを感じたようだ。
僕はあんな感じの店には出入りしなかったんですが、ああいうところは世界中にあると思うんです。そこは想像するしかないですけど、欲というか、業が深いですよね。キッドはあそこで働いているときに発作のようなものに襲われて、外のゴミ溜めみたいなところに一瞬エスケープするんですけど、「ああ、この感じ……」とオールドデリーを思い出しました。
あの世界でド底辺の生活をしている人たちと、超VIPみたいな人たちの落差ってすごいじゃないですか。生活水準も衛生意識も違うのに、それでも共存してるっていうのが結構、信じられなくて。僕が行ったのはオールドデリーの下町みたいなところだったので、「ゴミしか落ちてない」みたいな感じだったんですけど、ああいうギラギラしたところもあるんだろうなと。日本では、あそこまでの落差を感じることはないから。
(オールドデリーは)動物もたくさん道にいるし、うんこもめちゃくちゃ落ちてるし。あんなにうんこが落ちてること、今後ないだろうなと思って。そのうんこを踏んだ人が広げたうんこスタンプもめっちゃあるんですよ(笑)。常に下を見てないとうんこ踏むし、でも周囲も見ていないと人にぶつかるし、そこにリキシャが走ってきたりもする。もう本当に「怖っ!」って感じでしたね、大変です。最近は変わってきてるところもあるみたいですけど、世界で一番うんこ落ちてるらしいですよ。
「ラージャマウリ作品は“肉体の強さ”が出ている感じが好き」
――オールタイムベスト映画の候補に『マッドマックス 怒りのデスロード』と、S.S.ラージャマウリ監督の『バーフバリ』&『RRR』を挙げる呂布カルマ。かつては後味の悪さで知られる、たとえばギャスパー・ノエ作品などを好んでいたそうだが、『マッドマックス』やラージャマウリ作品によって“カタルシス”方向に好みを変えられたという。『モンキーマン』にも、それらと似たバイブスを感じたのだろうか?
ちょっと違いましたね。ラージャマウリ作品は『バーフバリ』と『RRR』しか観てないんですけど、あまりCGに頼りすぎないというか、肉体の強さが出ている感じが好きです。リアリティを度外視している部分も好きですね。
僕はインド映画マナーに慣れていないので、自分が観ている映画が実際にヘンなのか、インド映画自体がそういうものなのかが分からなくて、どっちだ? と思いながら観る面白さもある。ハリウッド映画や日本映画とはまったく違うセオリーのことをやってきたりするじゃないですか。それがインド映画にとっては当たり前のことなのかな? って。その違和感にも面白さがあって、いま新しい体験してるな、みたいな(笑)。
――パテルが観てきたであろう、往年のカンフー映画のセオリーなどもさりげなく盛り込まれている本作。劇中、タブラの演奏に合わせてサンドバッグを叩く印象的なシーンがある。ここは世界的なタブラ奏者であるザーキル・フセインの出演に驚かされたインド文化/音楽識者も多いようだが、ジャンル映画的な目線で観ると、定番の“修行”シークエンスのようでもあり、可笑しみすら感じさせるシーンである。
あそこは笑わせにきてんのかな、と思いました。「トトトン」に合わせて打つとか、しかもそれが実戦で技として活かされるっていうわけでもなく(笑)。昔のカンフー映画のトレーニングシーンも意識してるのかな? 逃げながら戦うシーンもカンフー映画を感じさせましたよね。
――本作のサントラにはラップ曲がいくつかチョイスされていて、もちろん劇伴にはインド風の楽曲も多数ある。ミュージシャンとして気になった劇中曲、使われ方で印象に残ったものはあっただろうか?
ヒンディー語っぽいラップ曲も入ってますよね。ヒップホップっぽいビートが流れたなと思ったら言葉に耳馴染みがなかったので、おおっ!? となりました。インドの映画は明らかに「インドだな」って思う音楽が多いけど、この映画の選曲は面白かったです。いわゆる“インド映画っぽい音楽”ではなくシリアスで鬱屈とした音楽が多くて、そのへんも好みでしたね。
撮影:町田千秋
▶インタビュー後編<「スカッとする“リベンジ映画”じゃない」呂布カルマが語る『モンキーマン』の“痛みを伴う”魅力とは?>
『モンキーマン』は2024年8月23日(金)より大ヒット公開中
『モンキーマン』
たった一つの小さな残り火が、すべてを燃やし尽くす。
幼い頃に母を殺され、人生の全てを奪われた〈キッド〉は、夜な夜な開催される闇のファイトクラブで猿のマスクを被り、〈モンキーマン〉を名乗る“殴られ屋”として生計を立てていた。
どん底で苦しみながら生きてきた彼だったが、自分から全てを奪ったヤツらのアジトに潜入する方法を偶然にも見つける――。
何年も押し殺してきた怒りを爆発させたキッドの目的はただ一つ「ヤツらを殺す」。
【復讐の化神〈モンキーマン〉】となった彼の、人生をかけた壮絶なる復讐劇が幕を開ける!
監督・脚本・主演:デヴ・パテル
プロデューサー:ジョーダン・ピール(『ゲット・アウト』『NOPE/ノープ』)、バジル・イワニク(『ジョン・ウィック』シリーズ)、エリカ・リー(『ジョン・ウィック』シリーズ)
制作年: | 2024 |
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2024年8月23日(金)より大ヒット公開中