• BANGER!!! トップ
  • >
  • 映画
  • >
  • ブルース・リー「イズム」継承!アジア格闘アクションへの「愛」を詰め込んだ『モンキーマン』の“志”を徹底解説【前編】

ブルース・リー「イズム」継承!アジア格闘アクションへの「愛」を詰め込んだ『モンキーマン』の“志”を徹底解説【前編】

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook
ライター:#ギンティ小林
ブルース・リー「イズム」継承!アジア格闘アクションへの「愛」を詰め込んだ『モンキーマン』の“志”を徹底解説【前編】
『モンキーマン』©2024 Universal Studios. All Rights Reserved.
1 2

アクション映画では望む役のオファーはない、ならば……

アクション映画への愛を語り、アクション映画への出演を熱望し続けていたパテルのもとに、やがて何本かのアクション映画出演の依頼が来るようになる。しかし、それは……。

アクション映画の話が来ても僕にオファーされる役は、コメディリリーフ的な脇役か、マッチョなヒーローのためにコンピューターをハッキングする天才役ばかりでした。

失礼を承知で書くが、たしかにパテルが演じたらハマりそうな役ばかり。だが当然、パテルはそれらのオファーを断った。そして、日頃から思い続けていたアクション映画に対する、ある不満が大きくなっていた。

ハリウッド映画、香港映画、ボリウッド映画に至るまで、アクション映画には自分が共感できる主人公が出てこない……。つまり、“真に弱い主人公”がアクション映画には欠けているんです。僕は、何が起きても動じずに完璧なジョークを飛ばすようなことはしない、そして筋肉隆々にも見えないヒーローを望んでいました。挑戦しては失敗し、また挑戦しては失敗する、弱い男の主人公です。

『モンキーマン』©2024 Universal Studios. All Rights Reserved.

自分が望むようなアクション映画の役のオファーは来ない。それならば役が来るのを待つのではなく、自らが主演するアクション映画にハマる役を考えよう。かくして今から10年前、『モンキーマン』が動き出しはじめた。

パテルは大好きな韓国バイオレンス映画のように、常軌を逸した復讐を描いた映画にしたいと思った。しかし、手垢にまみれた物語の復讐アクション映画にするつもりは微塵もなかった。

アクション映画というジャンルは業界によって悪用されやすく、手っ取り早い利益のために中身のないコンテンツが大量に生み出される可能性があります。しかし、このジャンルの本当のファンとして、僕はアクション映画がもっと濃い内容を扱えることを知っている。観客も、もっと多くを望んでいる。僕はカルチャーの要素をたっぷり加えて融合させているんです。

『モンキーマン』©2024 Universal Studios. All Rights Reserved.

そうしてパテルは『モンキーマン』を、大好きなアクション映画や韓国映画、ボリウッド映画に対する愛だけでなく、自分が育ったインドの文化や宗教、社会に対する考え、さらに幼少期に祖父に教えてもらったインド神話の猿神ハヌマーンの伝説も盛り込んだ、これまでにない新たな視点を持つ復讐アクション映画にしようと誓った。

このパテルのアクション映画に対する斬新かつ柔軟な発想がなければ、『モンキーマン』が映画化されることはなく、彼がアクションスターになることもなかったはずだ。

『モンキーマン』©2024 Universal Studios. All Rights Reserved.

非道な事件への「怒り」、ブルース・リー“イズム”の継承

『モンキーマン』を従来の格闘アクション映画とは違う作品にしたい、と考えていたパテルの“動機”は、「アクション映画に主演したい」という想いだけではない。2012年12月16日、インドの首都ニューデリーのバスの車内で起きた、23歳の女子大学生が男性6人に強姦され死亡した事件も大きな動機となっている。

この事件に対する怒りから『モンキーマン』の脚本は生まれました。

パテルは『モンキーマン』の脚本を書く際、韓国のバイオレンス映画の雰囲気を取り入れたいと考え、ロサンゼルスのコリアタウンに籠って執筆した。

主人公は、インドの架空都市ヤタナのスラム街で暮らす天涯孤独の青年キッド。彼はスラム街にある非合法ファイトクラブに、猿のマスクを装着して出場する負け役専門ファイターをしながら細々と暮らしている……が、この屈辱的な生活を送っているのは、長年計画していた“ある行動”を実行するためだった。

彼は幼い頃に暮らしていた集落の住民と母親を、腐敗した権力者たちに虐殺されている。その復讐だけを胸に刻みつけながら、今日まで生きてきたのだ。そして、権力者たちが巣食う、高級売春宿などがあるペントハウス<キングスクラブ>に従業員として潜入する方法を見つけた彼は、復讐を開始するのだ。

『モンキーマン』©2024 Universal Studios. All Rights Reserved.

本作の舞台はインドの架空の都市だが、パテルは現実の社会情勢を盛り込もうと務めた。車が路上で寝ている子供や家族とすれ違う様子、キッドが何十人もの労働者と一つの部屋で寝る貧しい生活ぶり、買春や人身売買が横行している街の様子、政治的・宗教的な不安や腐敗――。さらにパテルは劇中、警察などの権力サイドから疎外されている、性別にとらわれない「ヒジュラ」と呼ばれるトランスジェンダーのコミュニティを登場させて、主人公と重要な関係性を育む大きな役割を与えている。

ペントハウスに潜入した当初は己の復讐のためだけに生きていたキッドだが、権力者たちによって苦しめられている貧しい人々やヒジュラと出会い、彼らとの生活や、70年代カンフー映画を思わせつつもかなりクレイジーかつ俺ジナルきわまりない格闘スキルの修業を通して、自分の使命がさらに大きな目的を持つことを知るようになる。

『モンキーマン』©2024 Universal Studios. All Rights Reserved.

僕は、弱者が手に負えない現状に挑む物語を作りたかった。アクション映画というジャンルには、ブルース・リーが塔の各階にいる敵を倒しながら最上階を目指す『死亡遊戯』(1978年)のように、カースト制度がすでに存在していました。

『モンキーマン』ではそのカーストを、権力者たちが待ち受けるペントハウスを使って表現したら面白いことになる! と思ったんです。

『死亡遊戯』に限らず、ブルース・リー主演作はすべて、アジア人を虐げる悪い外国人を小柄なアジア人のブルース・リーが倒すという“抵抗”を描いたり、腐敗した権力者や理不尽なカーストに立ち向かうスピリッツが込められた作品ばかり。その姿が世界中のマイノリティに勇気を与えた。

そんなブルース・リーの『死亡遊戯』にインスパイアされながら、さらにカースト制度に対する怒りも込めようとするパテルの姿勢は、完全にブルース・リー・イズムを継承しているじゃないですか!

さらに本作が『死亡遊戯』からインスパイアされたシーンを挙げると、同作ではブルース・リーが身長218センチの元NBA選手カリーム・アブドゥル=ジャバーと死闘を繰り広げるが、『モンキーマン』にも2メートル超えの巨体ファイターとパテルが戦うシーンがある!

『モンキーマン』©2024 Universal Studios. All Rights Reserved.

文:ギンティ小林

『モンキーマン』は2024年8月23日(金)より大ヒット公開中!

1 2
Share On
  • Twitter
  • LINE
  • Facebook

『モンキーマン』

たった一つの小さな残り火が、すべてを燃やし尽くす。

幼い頃に母を殺され、人生の全てを奪われた〈キッド〉は、夜な夜な開催される闇のファイトクラブで猿のマスクを被り、〈モンキーマン〉を名乗る“殴られ屋”として生計を立てていた。
どん底で苦しみながら生きてきた彼だったが、自分から全てを奪ったヤツらのアジトに潜入する方法を偶然にも見つける――。

何年も押し殺してきた怒りを爆発させたキッドの目的はただ一つ「ヤツらを殺す」。
【復讐の化神〈モンキーマン〉】となった彼の、人生をかけた壮絶なる復讐劇が幕を開ける!


監督・脚本・主演:デヴ・パテル 
プロデューサー:ジョーダン・ピール(『ゲット・アウト』『NOPE/ノープ』)、バジル・イワニク(『ジョン・ウィック』シリーズ)、エリカ・リー(『ジョン・ウィック』シリーズ)

制作年: 2024