モンキーマン=ハヌマーン?
ダニー・ボイル監督作『スラムドッグ$ミリオネア』(2008年)の主演に抜擢され、一躍世界中に顔と名前が知られるようになったデヴ・パテル。その彼が主演と共に、監督に初挑戦したのが本作、『モンキーマン』である。
“モンキーマン”と聞くと、インド人を始め、インドのことを知っている人はすぐ、「ハヌマーン」のことだ、と思うだろう。確かに、古代叙事詩「ラーマーヤナ」や「マハーバーラタ」に登場するハヌマーンは、外見は限りなく人間に近い猿で、手足のバランスも人間と同じように描かれる。
豊かな体毛と尻尾があり、顔が猿顔なのでハヌマーンとわかるが、ヒンドゥー教世界では象神ガネーシャと並び、動物由来の神様的存在として、絶大な人気を誇っている。
インド神話のヒーローと現代的ディストピアの創造
本作『モンキーマン』では、主人公キッドの母親がハヌマーンの信奉者で、幼い時から「ハヌマーン・チャーリーサー(猿神頌歌四十句)」を彼に教え、ハヌマーンの様々なエピソードを彼に語っていく。そのため、「太陽をほしがったハヌマーン」の話や、「ラーマーヤナ」のラーマに自分の忠誠心を示すため胸を切り開いて見せるハヌマーン、ラーマと共に魔王ラーヴァナ打倒の戦いを繰り広げるハヌマーン等のイラストが、劇中に次々と登場する。
その優しい母親が、村の土地を奪おうとする新興宗教教祖バーバー・シャクティ(『RRR』のペッダイヤことマカランド・デシュパンデが演じる)と、その意を受けて村人たちを追い立てる警察のラナ警部に殺されたため、成長したキッドは母親の復讐を遂げようとする、というのが本作のざっくりとしたストーリーだ。
現在のキッドが暮らすのは「ヤタナ」と呼ばれる街で、デヴ・パテルによると、これは「ムンバイのダークバージョン」だという。肥え太った金持ちや政治家が、酒とドラッグと女に溺れ、ラナ警部を始めとする腐敗警察官が彼らを守る一方で、ヤタナの街には貧しい人々が溢れる。今のムンバイから、このディストピアを彫りだして見せたデヴ・パテルの脚本には、舌を巻くしかない。
『モンキーマン』
幼い頃に母を殺され、人生の全てを奪われた〈キッド〉は、夜な夜な開催される闇のファイトクラブで猿のマスクを被り、〈モンキーマン〉を名乗る“殴られ屋”として生計を立てていた。
どん底で苦しみながら生きてきた彼だったが、自分から全てを奪ったヤツらのアジトに潜入する方法を偶然にも見つける――。
何年も押し殺してきた怒りを爆発させたキッドの目的はただ一つ「ヤツらを殺す」。
【復讐の化神〈モンキーマン〉】となった彼の、人生をかけた壮絶なる復讐劇が幕を開ける!
監督・脚本・主演:デヴ・パテル
プロデューサー:ジョーダン・ピール(『ゲット・アウト』『NOPE/ノープ』)、バジル・イワニク(『ジョン・ウィック』シリーズ)、エリカ・リー(『ジョン・ウィック』シリーズ)
制作年: | 2024 |
---|
2024年8月23日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開