こんな法律に誰がGO出したんだよ!? シリーズ4作目は前日譚を描く
「1年のうち12時間だけ殺人を含むすべての犯罪が合法化! なにをしてもオールオッケー!」……という大変おっかない法律<パージ>ができてしまったアメリカを舞台に、そのパージの日を描いた大ヒット凶悪シリーズ『パージ』。
1作目『パージ』(2013年)では、パージの日を静かにやり過ごしたかったのにそうはいかなかった一家を描き、2作目『パージ:アナーキー』(2014年)では世界観を広げ、ひとりの男の復讐劇と同時に反パージ集団の台頭。3作目『パージ:大統領令』(2016年)ではついに現実世界とがっつりリンクし、公開当時にあった米大統領選をモチーフに、立候補した反パージな女性議員がパージの日に標的になってしまう一夜を描いた。
そして、どんどん規模が壮大になっていくシリーズものの宿命をまっとうしながらも、ついに4作目『パージ:エクスペリメント』では、これまでの3部作の前日譚に。<パージ>という法律がいかに成立したか、その背景を描いていく。
アメリカは経済破綻から株価暴落、失業率の悪化、雇用もグズグズ、治安は超悪化し、国民のフラストレーションはうなぎのぼりになっていった。そんななか、NFFA(新しい建国の父たち)という新政党が政権を握ることに。そしてNFFAは犯罪率を下げるための政策として新法・パージを発表。施行前の実験として、ニューヨーク州のスタテン島だけでパージ法が実施されることになる。
対象被験者はスタテン島の全住民。事前に避難してもOKだが、島に残って参加すればそれだけで5000ドルの報酬がもらえる。さらに、犯罪行為を犯せばプラス報酬が上乗せでもらえるという出血大サービスっぷり。被験者となった市民には、パージ模様の録画のために特製カメラ付きコンタクトレンズの着用が義務付けられ、追跡装置も埋め込まれる。
そんななか、島の黒人系ギャングのボスであるディミトリ(イラン・ノエル)は、縄張り意識が強いギャングゆえに島に残ることを選択するが、パージに関しては不参加を表明。部下たちへも不参加を指示し、自らのテリトリーで家族や仲間を守るために一夜を過ごすことにする。そんなディミトリの元カノ、ナヤ(レックス・スコット・デイヴィス)もパージ絶対反対派。パージ開始直前まで島の住民たちに向けて街頭演説をかまし不参加を促すが、そんなナヤの努力も虚しく低所得者たちは金目当てでひょいひょい参加を決意。富裕層はそそくさと島を出て行ってしまった。
そしてついに第1回<パージ>、はじまりのサイレンが島中に響き渡るのだった……。
『ダイ・ハード』かつ『ブレイド』、そしてまさかのブラックムービー化!
というわけで、全米中が見守る中おっ始まった世紀の大実験パージも、蓋を開ければ参加者たちはその暴力性を順調に全開放。略奪からはじまり、はじめての殺人を心置きなく楽しむ者もいれば、ぬいぐるみに時限爆弾をくっつけて道端に転がして笑う老女なんかも登場。犯罪者が蠢く夜の島、というだけでどこか『ニューヨーク1997』(1981年)なムードがプンプンなわけです。
そして、終盤でディミトリが見せる、敵だらけのアパートに単身タンクトップ一丁で殴り込むシーン。もうこれにはびっくり。だって『ダイ・ハード』(1988年)とウェズリー・スナイプスの大傑作『ブレイド』(1998年)を同時に彷彿させてくれるんですよ……! 演じるイラン・ノエルの次世代アクション俳優としての高いポテンシャルを垣間見ることができるはず!
というわけですが、なによりも重要なのは、本作がシリーズものでありながら今回いきなり黒人監督による黒人俳優が主役の映画という、まごうことなきブラックムービーとなった点。監督のジェラード・マクマリーは、警官による無抵抗な黒人の射殺事件を基にした『フルートベール駅で』(2013年)の製作補佐や、男子大学生の社交クラブでのいじめの実態を描いたNetflix映画『ヘルウィーク』(2010年)の監督を務めた社会派。
なのでトランプ大統領以降に加速する格差社会、人種差別問題から起こるありとあらゆる分断をパージ成立の背景に組み込み、物語は前作同様がっつり実社会とリンク。念押しのように「ブラック・ライヴス・マター」(白人警官による無抵抗な黒人への暴力に対する反対運動)の集会で合唱されてきたケンドリック・ラマーの「Alright」をエンディングテーマにしていることも見(聴)逃せないメッセージのひとつです。
文:市川力夫
『パージ:エクスペリメント』は2019年6月14日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
『パージ:エクスペリメント』
一年に一晩だけ、殺人を含む全ての犯罪が合法になる法律“パージ”の導入前を描く、シリーズ第4弾。
被験者はニューヨーク、スタテン島の住民たち。報酬は5000ドル。人々は生き残ることができるのか?
制作年: | 2018 |
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監督: | |
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