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最恐に愛らしい“ボクっ娘”殺人鬼の「ヤバさ」を紐解く!『夏目アラタの結婚』が〈モンスター・品川真珠〉を見事に実写化

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ライター:#関口裕子
最恐に愛らしい“ボクっ娘”殺人鬼の「ヤバさ」を紐解く!『夏目アラタの結婚』が〈モンスター・品川真珠〉を見事に実写化
©︎乃木坂太郎/小学館 ©︎2024映画「夏目アラタの結婚」製作委員会
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見る者を吸い込む瞳と薄汚れた歯…品川真珠の抗えない“魅力”

現行犯逮捕時の報道写真の真珠は、スウェットにニット帽、ピエロのメイクでだらしなく太っていた。そこからついた異名が《品川ピエロ》。小中学校では学業についていけず、看護高校も2年で中退。彼女に関する世間の印象はそこで定着していた。だからアラタは、面会室に入ってきた真珠の姿に動揺した。登場したのは、殺人犯だとはみじんも感じさせない、少女のように華奢で超絶可憐な女性。痛々しささえ味方につけ、アラタを見上げる何も映し出さないブラックホールのような瞳が、強化アクリル板の向こうで妖しく光る。

©︎乃木坂太郎/小学館 ©︎2024映画「夏目アラタの結婚」製作委員会

だが口を開いた途端、その印象は変わる。可憐な印象を吹き飛ばすのは、ガタガタでうす汚れた歯。その歯は、真珠の生い立ちが壮絶であったことを教えてくれる。真珠は、たぶん歯が人々に与える印象に気づいている。そしてそれを逆手に取る。この歯が、人の心を震え上がらせるのに、ひと役買っていることに気づいているから。可愛い、のにおぞましいという大いなるギャップを持つ真珠。アラタがプロポーズしたのは、使命にかられただけではなく、このギャップもあるだろう。可憐なのに、手に余る恐怖を繰り出す“怖可愛さ”というギャップに魅了されたのだ。

©︎乃木坂太郎/小学館 ©︎2024映画「夏目アラタの結婚」製作委員会

「ボク、誰も殺してないんだ」 その“言葉”は真実か?

真珠の人生は、ゲームのようだ。彼女は、言葉で、ギミックで、アラタを翻弄し、優位に立とうとする。「運命の女」などと簡単に口にするアラタの本心を探るように私選弁護人の宮前(中川大志)に彼の自宅を訪ねさせ、夏目アラタ名で出した少年の手紙の誤字で本人確認をしようとする。先を読み、動揺させ、その揺らぎから真実を見出す洞察力。とても学業不良で落ちこぼれていたとは思えない怜悧さ。報道とは、別人のように違う。彼女は一体何者なのか? 真珠は本当に猟奇的連続殺人犯なのか? とアラタを困惑させる。

©︎乃木坂太郎/小学館 ©︎2024映画「夏目アラタの結婚」製作委員会

そんな彼女が「ボクっ娘」であるという意外性も、アラタの心をざわつかせる。「あたし」「わたし」ではなく、「ボク」。理由はどうあれ、真珠が自らの意思で選んだ一人称代名詞だ。そんな真珠が「ボクのとっておきの秘密、教えてあげる」とアラタに告白する。「ボク、誰も殺してないんだ」と。この言葉は、“出所することは決してない”と高をくくっていたアラタを動揺させる。

彼が恐怖を顔に出さずに真珠と話せるのは、2人の間には面会室のアクリル板があるからだ。“人喰いハンニバル”ことレクター博士と対面した、『羊たちの沈黙』(1991年)のクラリス・スターリング捜査官のように。とはいえ、2018年には大阪で面会室のアクリル板を外して容疑者が脱走する事件もあった。「出るね」とアラタにささやく真珠の言葉が現実になるかもしれない恐怖を、我々観客もアラタと一緒に味わう。

黒島結菜が“一瞬に注ぎ込む演技”で観る者の魂を震わせる

最後に、その品川真珠を演じる黒島結菜の、俳優としての成長の“恐ろしさ”について少し。2019年に公開された周防正行監督『カツベン!』で、ヒロインである俳優を目指す少女・梅子役をオーディションで勝ち取った。黒島は当時、その役を得たことを、自分になぞって喜んでいた。

梅子は、恋をしながら俳優業に取り組むが、やがてどちらを選ぶか問われ、一世一代の恋を手放す。その決断を、一瞬の表情で表現するという難しい場面に、黒島は苦労していた。

あれから5年、本作でも黒島が、“その一瞬”に全てを注ぎ込む様を見ることができた。魂を震わせる演技とは、こういうことなのだろう。その一瞬の表情は、生きることの意味を問いかけてきた。映画の持つ力が魂を震わせるとはこういうことなのだ。ぜひ多くの観客に、その瞬間を味わってもらいたいと思った。

文:関口裕子

『夏目アラタの結婚』は2024年9月6日(金)より全国公開

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『夏目アラタの結婚』

元ヤンで児童相談員の夏目アラタ(柳楽優弥)が切り出した、死刑囚への”プロポーズ“。その目的は、“品川ピエロ”の異名をもつ死刑囚、真珠(黒島結菜)に好かれ、消えた遺体を探し出すことだった。毎日1回20分の駆け引きに翻弄されるアラタは、やがて真珠のある言葉に耳を疑う——「ボク、誰も殺してないんだ。」プロポーズからはじまった、予想を超える展開。日本中を震撼させる2人の結婚は、生死を揺るがす<真相(シーソー)ゲーム>の序章にすぎなかった…。

出演:柳楽優弥 黒島結菜 中川大志 丸山 礼 立川志らく 福士誠治 今野浩喜 平岡祐太 藤間爽子 / 佐藤二朗 / 市村正親

監督:堤 幸彦
原作:乃木坂太郎「夏目アラタの結婚」(小学館ビッグコミックスペリオール刊)
脚本:徳永友一
音楽:Gabriele Roberto A-bee ノグチリョウ
主題歌:「ヴァンパイア」オリヴィア・ロドリゴ(Universal International)

制作年: 2024