ファン・ジョンミンが語る『ソウルの春』制作秘話
映画『ソウルの春』のポスターに映る横顔を見て、それがファン・ジョンミンだと気づかなかった人もいるのではないか。前頭部が禿げ上がった風貌は毎回4時間かけた特殊メイク。実在の軍人をモデルにしたチョン・ドゥグァンを演じている。
『アシュラ』(2016年)のキム・ソンス監督、チョン・ウソンと再びチームを組んだ『ソウルの春』は、冒頭から緊張感が途切れないポリティカル・スリラー。1979年、独裁者と批判された韓国大統領が暗殺され、民主化への期待の高まりから<ソウルの春>と呼ばれた。
しかし、暗殺の捜査を担当するチョン・ドゥグァンは、陸軍内の秘密組織<ハナ会>を率いて軍事クーデターを画策していく。
「この内容で本当に大丈夫なのだろうかと思いました」
ビジュアルからモデルに寄せていったファン・ジョンミン。
あのメイクをして軍服を着ると、キャラクターに完璧に集中することができました。
しかし、脚本を読んだ時には葛藤もあったそうだ。
映画として、この内容で本当に大丈夫なのだろうかと思いました。描かれるのは韓国の現代史に汚点を残すような事件なのに、果たして観客に受け入れてもらえるだろうかと考えたんです。実在の人物を扱った作品なので、主人公を偶像化しないようにという悩みもありました。
本作で描かれるクーデターの結果生まれた政権は、民主化運動を武力で制圧。多数の死傷者を出すことになる。『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』(2017年)などで描かれた<光州事件>だ。
そんな“汚点”の中心人物をどう演じるか。たとえばファン・ジョンミンが『アシュラ』で演じた悪徳市長のようなエキセントリックな“悪の魅力”は抑えるしかない。
結局、立ち戻ったのは普段と同じスタンスだった。それは「脚本の内容に基づいて忠実に演じる」こと。
キム・ソンス監督はシナリオを受け取った後、一度はオファーを断ったという。「韓国現代史の運命を変えたあの日を、果たして描き切ることができるのか」という思いからだ。
それでもメガホンを取ったキム・ソンス監督は「極限の緊迫感」を観客に体験させることをテーマとした。史実の中にフィクションを織り交ぜ、クーデターを先導した「貪欲なる王」と、彼に最後まで立ち向かった「真の兵士」の闘いを映画の軸とする。そのことで、クーデターの再現というだけではないドラマ性が生まれることになった。
本作品を企画したのは『KCIA 南山の部長たち』で朴正熙大統領暗殺事件の裏側を映画化した制作会社ハイブメディアコープ。同社から提案を受けたキム・ソンス監督は、監督を受任するまで本事件の描き方に頭を抱えた。… pic.twitter.com/TMmZLN0g35
— 映画『ソウルの春』公式 (@19791212theday) August 12, 2024
『ソウルの春』
1979年10月26日、独裁者とも言われた大韓民国大統領が、自らの側近に暗殺された。国中に衝撃が走るとともに、民主化を期待する国民の声は日に日に高まってゆく。しかし、暗殺事件の合同捜査本部長に就任したチョン・ドゥグァン保安司令官(ファン・ジョンミン)は、陸軍内の秘密組織“ハナ会”の将校たちを率い、新たな独裁者として君臨すべく、同年12月12日にクーデターを決行する。一方、高潔な軍人として知られる首都警備司令官イ・テシン(チョン・ウソン)は、部下の中にハナ会のメンバーが潜む圧倒的不利な状況の中、自らの軍人としての信念に基づき“反逆者”チョン・ドゥグァンの暴走を食い止めるべく立ち上がる。
監督:キム・ソンス
脚本:ホン・ウォンチャン、イ・ヨンジュン、キム・ソンス
出演:ファン・ジョンミン、チョン・ウソン、イ・ソンミン、パク・ヘジュン、キム・ソンギュン、チョン・マンシク、チョン・ヘイン、イ・ジュニョク
制作年: | 2023 |
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2024年8月23日(金)より新宿バルト9ほか全国ロードショー