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【追悼 ドナルド・サザーランド】 なぜ「CIAの監視対象」だった? 戦後79年目の戦争映画【8/15は終戦の日】

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ライター:#谷川建司
【追悼 ドナルド・サザーランド】 なぜ「CIAの監視対象」だった? 戦後79年目の戦争映画【8/15は終戦の日】
ドナルド・サザーランド『戦略大作戦』パンフレット(筆者私物)
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ハチャメチャ展開な反戦ブラックコメディ『M★A★S★H マッシュ』

そんなハチャメチャな戦争アクション映画で頭角を現したドナルド・サザーランドだが、よーく考えると戦争のバカらしさこそを描きたいのだとわかる『特攻大作戦』、『戦略大作戦』のようなタイプの映画ではなく、ストレートな反戦映画にも同時期に出演している。それが、朝鮮戦争を背景としたブラックコメディ『M★A★S★H マッシュ』(1970年)と、第一次大戦を背景とした『ジョニーは戦場へ行った』(1971年)だ。とはいえ、その2作は描き方の方向性は真逆と言っていい。

ロバート・アルトマン監督の『M★A★S★H マッシュ』は、サザーランドとエリオット・グールド、トム・スケリット扮する三人の軍医が、将軍と女性将校が一夜を共にする様子を隠しマイクで中継したり、不能に陥ったと悩む歯科医を睡眠薬で眠らせている内に女性将校とベッドインさせて治療したりと、やりたい放題で過ごす陸軍移動野戦病院モノ。ハチャメチャな点では『特攻大作戦』、『戦略大作戦』を上回るが、誰が見ても反戦の立ち位置がわかる確信犯的な反戦ブラックコメディだった。

Mash

PrimeVideo『Mash』

主人公の心の中にいるキリストに扮した『ジョニーは戦場へ行った』

片や、『ジョニーは戦場へ行った』の方は直球勝負の反戦映画の名作だ。第一次大戦に出征して塹壕の中で敵の砲弾を受けた主人公ティモシー・ボトムズが、命は助かったものの、視覚・聴覚・嗅覚を失い、喋ることもできなくなり、壊疽した両手両足まで切断され、生きた肉塊と化してしまう。自分にまだ意識があることをどうにかして周囲に伝えたい彼が、頭を動かしてモールス信号で「殺してくれ」という意思を伝えようとするものの、軍は戦争の悲惨な現実の証として、彼の存在を隠してしまう。

ジョニーは戦場へ行った [DVD]

『ジョニーは戦場へ行った [DVD]』©ALEXIA TRUST COMPANY LTD.

ここでサザーランドが演じるのは、主人公が夢想する情景の中で、戦地の休息時間にトランプをしている彼の傍にたたずむ、“キリスト”と呼ばれる男。それは生きた肉塊と化してしまった主人公が救いを求めて問いかけた幻想の存在なのだが、「私は非現実の存在だ」と言って救いを授けてはくれない。

背景となっているのは第一次世界大戦だが、ここで監督のダルトン・トランボ(言わずと知れた、ハリウッドを代表する名脚本家。これが唯一の監督作)が訴えているのは、ヴェトナム戦争の無意味さにほかならない。だからこそ、反戦活動家であるドナルド・サザーランドが現代のヒッピーそのままのいでたちで“キリスト”として登場したのは明白だ。

『ジョニーは戦場へ行った』パンフレット(筆者私物)

イーストウッドが挑んだ『硫黄島からの手紙』&『父親たちの星条旗』二部作

一方で、サザーランドとコンビを組んでまんまと金塊強奪に成功した『戦略大作戦』の主演クリント・イーストウッドもまた、その後監督として直球勝負の反戦映画に取り組んでいる。それが、『硫黄島からの手紙』『父親たちの星条旗』の二部作(2006年)だ。

『硫黄島からの手紙』© Warner Bros. Entertainment Inc. © DreamWorks Films L.L.C.
『父親たちの星条旗』© Warner Bros. Entertainment Inc. and Dreamworks LLC

ここでは第二次世界大戦末期の硫黄島での戦いを、アメリカへの留学経験もあって戦力差を熟知していることから、むざむざ全員を死なせることになる葛藤の中で、それでも戦いの指揮をとらねばならなかった栗林陸軍中将(渡辺謙)など日本人の側から描いた前者。

『硫黄島からの手紙』© Warner Bros. Entertainment Inc. © DreamWorks Films L.L.C.

そして、激戦を制して敵地に星条旗を掲げたことでヒーロー視されたものの、戦場の実態とのあまりのギャップに心の平穏を失っていくアメリカ兵たちの視点で描いた後者。この2作は合わせ鏡のように、観る者に戦争の愚かしさをダイレクトに訴えかけてくる。

『父親たちの星条旗』© Warner Bros. Entertainment Inc. and Dreamworks LLC

隠れた傑作『鷲は舞いおりた』では戦争を継続する男?

もう一本、ドナルド・サザーランドの出演した戦争映画を語る上で欠かせないのが、『大脱走』(1963年)の巨匠ジョン・スタージェス監督の久々の作品『鷲は舞いおりた』(1976年)だ。戦時中の英首相チャーチルの暗殺を計画したドイツ軍人たちの側を描いた作品で、マイケル・ケインロバート・デュバルといった英米のスターたちがドイツ軍人を演じるのだが、チャーチルが暗殺されなかったという誰もが知っている事実を踏まえた上で、どうサスペンスにするのか? という難題を見事にクリアーした隠れた傑作である。

鷲は舞いおりた [Blu-ray]

『鷲は舞いおりた [Blu-ray]』© ITC Entertainment Group Limited 1976

サザーランドが演じるのは、この計画に協力するアイルランド独立運動の活動家で、チャーチルが静養にやってくる英国東海岸の小さな村に沼地管理人に化けて先に潜入する。スパイとしての正体がバレるものの村の娘ジェニー・アガターに愛されるという儲け役で、暗殺工作が不首尾に終わったラスト、彼はひとり己の戦争を継続させるために立ち去っていく。……それは、IRA(アイルランド共和軍)としての英国との闘いに他ならない。

『鷲は舞いおりた』パンフレット(筆者私物)

おそらく、サザーランドがハリウッド・スターの中で誰よりも戦争というものに反対している俳優だからこそ、戦争を継続し続ける男を演じることで、逆説的に戦争の愚かさを訴えたかったのだろう。そして、スタージェス監督のキャスティングの狙いもそこにあったのだろう。

文:谷川建司

『ナバロンの要塞』『荒鷲の要塞』『シーウルフ』『硫黄島からの手紙』『父親たちの星条旗』はCS映画専門チャンネル ムービープラス「特集:終戦の日」で2024年8月放送

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