4人の少年少女−LITTLE ZOMBIES−が世界中を席巻。両親が死んで、ゾンビのように感情を失った少年少女たちがバンドを組み、こころを取り戻すために青春を駆け抜ける物語『ウィーアーリトルゾンビーズ』がついに2019年6月14(金)公開!世界の映画祭で話題を呼んだ本作を手がけた長久允監督と、主人公ヒカリの叔母・大田理恵役を演じた工藤夕貴さんに、お二人の出会いや撮影でのエピソード、本作の魅力についてたっぷり伺った。
「幼少期に経験したことやショッキングな事件を全部物語に入れた」
―前作『そうして私たちはプールに金魚を、』は埼玉で起きた実際の事件がモチーフになっていますが、今作の企画はどういった発想から生まれたのでしょうか?
長久允監督:物語には影響していないんですけど、“こういう物語を作りたい“っていう使命感は、2年ぐらい前、ちょうどロシアで<青いクジラ>っていう団体が、子どもたちをゲームで洗脳させて自殺に追い込んでしまう事件があって。そういうニュースを聞いてすごくショッキングに感じて、“子どもたちが絶望しない物語を作れないかな”っていうのが大きな動機ではあります。物語上のインスパイアで言うと、事件というよりも、僕の幼少期に体験したこと考えたことを、物語に入れていく作業が主でした。
―(劇中で)子どもたちの大人に対しての思いは、ご自身が幼少期に感じられたことがベースになっている?
長久:なかなか自分が思っていることと、親や他者が思っていることとの乖離を感じてたりとか。でも、それも良い距離感だと思って、悪いとも思ってなかったりだとか……でも成長していくにつれて感じた、「大人ってなんかすごくムカつくな」とか、そういう自分の気持ちは全部入ってます。
―工藤さんは初めて脚本を読まれたとき、どういった感想を持たれましたか?
工藤夕貴:「なにこれ、めっちゃ面白いじゃん!」って思いました。なんか、想像つかなかったんですよね。完成した時にどんな作品になるのか。ある意味、ここまで想像しがたいのも珍しいっていうぐらい。でも何となくは……前作『そうして私たちはプールに金魚を、』は観ていたので、きっとこんな感じになるんだろうなっていうのはあったんですけど。監督が言っていた“幼少期に感じたもの”って自分も感じてきてたものなので、リンクしやすかったと思うんですよ。実は“自分が子どもになりたかった”みたいなところはあったんですよね。もちろん子どもの役はできないけど、だからこそ、そういう映画の中に身を置きたいって思ったというか。
―編集の前と後で印象は違いましたか?
工藤:「あっ! 私のセリフが消えてる」って思いまいした(笑)。やっぱり、魑魅魍魎なシーンとか、台本で見ると「このシーン、一体どうするんだろう。」って、昔のVFXとかを使ってた時代の感覚で編集後の映像を自分の頭で想像すると、とんでもない出来になるんですけど、完成したものを観ると「あっ、こんなに面白くなるんだな!」って、期待を上回っていてやっぱすごいなって。こんなに面白いものができ得る時代なんだと思ったし、最後まであっという間で、観終わったあとに軽い気持ちになれるっていうか。実はすごく重たい問題なのに、いろんなものを笑い飛ばせるような気持ちになれる、デイトリップみたいな不思議な爽快感を感じて。「ああ、出てよかったな」って思いました。
長久:……ありがとうございます(笑)。
「ベルリンでは毎回“あなたの死生観について聞きたい”って質問された(笑)」
―本作はアメリカのサンダンス映画祭やドイツのベルリン国際映画祭など、世界的にも様々な映画祭で評価されています。各映画祭でのお客さんの反応はいかがでしたか?
長久:すごく面白くて。僕はシナリオに自分がちょっとだけニヤッとできるユーモアを入れて書いてたんですけど、アメリカではゲラゲラ笑いながら観てくれて。ニュージャンルの、新しいブラックコメディとして、新しいエンターテインメントだと思って笑ってくれるんですね。一方、ベルリンではすごく哲学的な……
工藤:質問攻めにされるんじゃないんですか?「きっとこういう裏があるんじゃないか!?」みたいな。
長久:そうそう、「あなたの死生観について、まずは聞きたい」みたいな、絶対にQ&Aの最初に聞かれるんですよ。
工藤:あるある、絶対に聞かれそう(笑)。
―それがアメリカとドイツの違いなんでしょうか。
長久:なんですけど、同じ作品で、どっちもを含有できたことが、僕はすごくうれしくて。そういう多角的な芸術作品が好きなので、その2つの反応が聞けて幸せでしたね。
#ベルリン国際映画祭 で快挙㊗️🎊
— ウィーアーリトルゾンビーズ (@littlezombies_m) February 16, 2019
7人のティーンエイジャー審査員が選出する
🏆スペシャル・メンション賞(準グランプリ)を受賞🏆🎉
ジェネレーション14plus部門長編作品で #日本映画初 ㊗️✨#リトルゾンビーズ#LITTLEZOMBIES #長久允 監督#Berlinale#WEARELITTLEZOMBIES #makotonagahisa pic.twitter.com/g68EtqaDoF
―どういった点が世界的に評価されたと思いますか?
工藤:だって、ないですもん、こういう作品。映画っていうと、どこの国の人も“いかに掘り下げて、どれだけ映画らしく撮るか”っていうことを必死に考えて撮ると思うんですよ。だけど長久さんの映画って、本当に“長久ワールド”の感性で、とにかく1から100まですべて突っ走る。それでも成り立ってしまう、その世界観みたいなものが面白いと思うんですね。もう新しいジャンルとして世界中の人が……日本だけじゃなく色んな国で経験させてもらえた立場から考えると……すごく“悔しい”と思うんですよ、みんな。「こういうとこ気がつかなかったな」っていう。
例えば前作『~金魚をプールに、』もそうですけど、チャプターに分けて、ちょっとテレビゲームのような展開の速さでも、ちゃんと各キャラクターのバックグラウンドにあるフラストレーションみたいなものを描くこともできる。全部セリフにして言わせなくても、飛び跳ねてめちゃくちゃなことを言ってるだけでも、ちゃんと表現しきれるんだなとか……いい意味で“単純な単語帳”みたいな世界ってみんなやってみたかったのかもしれないけど、絶対に想像できてなかったと思うんですよ。だからこそ観た人たち、きっとクリエイターの人たちは悔しがってると思いますね。
他の人が作っても絶対に「長久さんのコピーだ」って、あっという間に言われてしまうぐらいの世界観があるので。それは本当に唯一無二だし。こういうジャンルの新しい映画って、長久さんじゃないと絶対に撮れないと思います。
長久:ありがとうございます! 僕なんかはその……“映画らしさとは違う”みたいなことを工藤さんがおっしゃってたじゃないですか。でも本当に僕、映画を好きがゆえに、映画の懐の深さを信じてるがゆえに、どんなに映画じゃないことをやっても、映画は受け止めてくれるんじゃないかと思って自由にやったところがあって。それが映画として成立できて、客観評価も得られたから、いま「映画、ありがとう!」って、すごい思ってます(笑)。
「今後はラブストーリーもSFもやりたい。ちゃんと世界を視野に入れながら」
―『ウィーアーリトルゾンビーズ』は念願の長編だと思いますが、映画作家としての今後の展望をお聞かせいただけますか。
長久:描きたいもので言うと、どんな人も肯定するような、優しいまなざしで描いていきたいなとは思っていて。現代はシュールレアリスティック(超現実的)な感覚とかが足りてないと思うので、そういうものを描きたいっていう使命感はあります。モチーフに関しては、そろそろ大人もちゃんと描いていきたいなと思っていて。でもたくさんあって、ラブストーリーも作りたいし、SFもやりたい。僕のスタイルって、まあまあ突飛なので、日本だけのマーケットだとハマらないところもあって、この先は世界もちゃんと視野に入れながらものづくりをしたいなと。
―工藤さんは世界で活躍されていますが、長久さんのように日本の監督がどんどん世界に出ていくことをどう思いますか?
工藤:絶対に面白いと思うし、長久さんが大人をどう撮るのかめちゃくちゃ見てみたい気もしますし、自分もその映画の中にいたいなと思います。2作ともこういうタイプの映画だから、次はどういう映画を撮るのかなって。きっとご自身が一番大変だと思うし、ある意味みんな期待するところがあるから……頑張ってくださいね(笑)。
長久:はい、自分が一番興奮するシナリオを書くだけなので。自分と向き合うだけだから大丈夫、楽しいです。
<「えっiPhoneで映画撮るの?」35mm世代の工藤夕貴と新星・長久允監督『ウィーアーリトルゾンビーズ』を語る>
『ウィーアーリトルゾンビーズ』は2019年6月14日(金)より全国ロードショー