4人の少年少女−LITTLE ZOMBIES−が世界中を席巻。両親が死んで、ゾンビのように感情を失った少年少女たちがバンドを組み、こころを取り戻すために青春を駆け抜ける物語『ウィーアーリトルゾンビーズ』がついに2019年6月14(金)公開!世界の映画祭で話題を呼んだ本作を手がけた長久允監督と、主人公ヒカリの叔母・大田理恵役を演じた工藤夕貴さんに、お二人の出会いや撮影でのエピソード、本作の魅力についてたっぷり伺った。
「子どもたちに“なんだこの大人!?”って思われるキャラクターにしたかった」
―これまで工藤夕貴さんが出演されている作品で印象に残っている作品は?
長久允監督:やっぱり『台風クラブ』(1985年)にめちゃくちゃ影響を受けて映画を作っているところもあるので、それこそ(高見)理恵役の工藤さんが大好きで。もちろん『逆噴射家族』(1984年)や『ミステリー・トレイン』(1989年)も好きだし、好きな作品はたくさんあります。
工藤夕貴:私、恥ずかしかったんですけど、クランクアップの日に自分の名前が「あっ!『台風クラブ』のときの私の役名じゃないですか!?」みたいな話になって。……なんか、気が付かなくてすみません(笑)。
長久:いやいやいや! ちゃんと言ってなくてすみません!
工藤:さんざん台本読んできてるのに、なんで最終日に気が付くんだよ、みたいな。「高見……理恵?“高見理恵”って(『台風クラブ』のときの)私の役名じゃん!」って。
長久:ま、その、ファンタジックなパラレルの未来として、同じ役名になってて、実は。
工藤:そうなんですよね……笑っちゃいました、あの時は。
長久:最終日に「ハッ!」と、ラストカットで気づいてましたよね。
工藤:まさかの大逆転みたいなかんじで。全然そう思ってなかったので。
―工藤さんが長久監督をお知りになったのは、前作の短編(『そうして私たちはプールに金魚を、』2016年)でしょうか?
工藤:私、たまたまYoutubeで監督の作品を観たんですけど、金魚……私、子どもの頃ずっと好きだったんですよ。その“金魚をプールに放したら”っていうタイトルが、そのまま「私がやってみたかったことじゃん!」って思って。ここ(※頭を指さして)にひっかかったんで、ちょっとYoutubeで観てみたら、「あー、こんな面白い撮り方ってあるんだなぁ」っていう。私ははもともと長編を多くやってきてるので、こういう切り口で映画って撮れるんだなっていうのが、すごく新鮮で。「へ~、いいなぁ、私も女子高生だったらこういうの出てみたかったなぁ」って思って観てたんですけど。
―撮影の現場で初めてお会いした時、どんな印象を持たれましたか?
長久:最初は衣装合わせの時ですよね。「はじめまして」みたいな感じで。思っていたよりもエネルギッシュな方なんだと思って、すごくビックリしましたけど(笑)。
工藤:え、そうなんですか!?
長久:「この服が着たい!」「これがいい!」とか言って(笑)。でもそれは、その役を読み込んでもらって、ご自分の中で“こういうイメージ”っていうものを作ってきて、ご自身でセレクトをガンガンされていたから、そういう役作りのやり方がすごい面白いなと思って。
工藤:よかった(笑)。
―工藤さんはご自身で衣装を選ばれたりして、役を作っていくことが多いのでしょうか?
工藤:台本を読んでいて、理恵というキャラクターは、子どもに「なんだこいつ?」「この大人、なんなんだろな……」って思われたいっていうのが、すごくあったんですよ。なので、どうせだったら「自分はアーティストだ、すごくスタイリッシュだ」と思い込んでいるんだけど、なんか1枚違ってるっていう。本当はすごく普通なのに“普通じゃなくなりたい症候群”のアーティスト希望な大人。監督の前作を観ていても、そんな感じだったら大人として出てもちょっと面白いかなとか、自分なりに探ってた部分があったんです。でも現場に行ったら、すごくサイケな色のものがたくさんあって。「こっちの方向の人なら、ちょっとノッてくれるかもしれない!」という一縷の望みにかけて、「監督どう思います!?」みたいな。利重(剛)さんもすごく普通の役を演じているので、なんでこんな人を奥さんに選んだんだろう!? って、その普通さまでも異様に感じるような、そういう空気感が出せたらなぁと思って、監督にお話させていただいて。年下なのをいいことに(笑)。なんなら監督が着ていたタイガーのTシャツを「監督、それ貸して!!」くらいになって。
長久:「じゃ、脱ぎますか」なんつってね(笑)。
工藤:初日の衣装合わせをしつつお話をする機会があって、監督のTシャツを脱がして衣装合わせで着たっていうこともありました(笑)。
「撮影現場はめちゃくちゃ新鮮で面白かったけど、役者としては悩んでいた」
―長久監督は、ルックス的にも内面的にも個性のある方だと思いますが、どんな印象を持たれましたか?
工藤:“薄いのに濃い”って思いましたね(笑)。薄口のたまりソースみたいな、本当にすごく独特な方で。でも、これだけ長いこと仕事をしていると、この人が面白い人か面白くない人かは、どんなに見た目が面白そうでも、“ニオイでわかる”みたいなところがあって。(監督は)面白いニオイがするなって思って。
長久:よかった(笑)。
工藤:すみません! 生意気なこと言って。私<UCLA>のエクステンション(※映画製作志望者が資格取得を目指しワークショップやチームによる映画制作に取り組むプログラム)に行ってたんですけど、そのときに感じた、面白いクリエイティブな人たちが集まってものを作るときに出る、すごく良いエネルギーを、(今作の現場に)行った瞬間にすごく感じて。「あ、こういうスタイルだったら一緒に作っていきたいと思う気持ちが空回りせずに、良い形で組み込んでもらえるのかも」という良い空気感を感じたんですよね。
長久:楽しかったですよね。
工藤:めっちゃくちゃ楽しかったです。
―長久監督の撮影現場や撮影手法で、特筆すべき点や変わった点はありましたか?
工藤:基本的には全部変わってるというか、何一つ普通ではないと思うんですよ。私は35mmフィルムで撮影している時代から始まってるので、本番になるまでの時間のかかり方がハンパじゃないっていう時代から仕事してるじゃないですか。だから、ある意味、今はすっごく面白くてしょうがないんです。「えっ、iPhoneで撮っちゃうんだ~」とか、そういうのはすごく新鮮です。ホントに……ねぇ(笑)。いろんな人がカメラ持って歩き回るんですよね。それをすべて素材にしていくので、何が起きているのか分からなくなるところもあって。めちゃくちゃ新鮮で面白いんですけど、あの……実は結構、撮影中は悩んでいたことがあって。
―それはなんですか?
工藤:役者って……“役者”だとつまらないところがあると思うんです。どうやったら“役者”じゃなく演じられるのか? っていうことにすごくこだわるようになっていくんです。だけど、監督の持っている世界観にピッタリくる喋り方がすっごく難しくて。それで、しつこく監督に「ここ、どう言ったらいいんでしょう」って、大したことのないセリフなんだけど、ものすごい指導してもらったんですよ。
長久:でもね、すごく大事なシーンでしたもんね。
工藤:そうなんですよね。
長久:葬儀場で甥っ子のヒカリくんに対して「感情ないの?」とか、そういうことを言うシーンの“喋り方の模索”が難しくて。
―そこから物語が進んでいく、キーになるシーンですよね。
工藤:難しかったんですよね、言い回しとか……自分にとっては“いかに普通でいられるか?”が重要なポイントだからこそ、すごく難しいんです、逆に。でも、本当に楽しい現場でした。
―長年演技をされていると、そういった悩みというか、そこに行きつく方が多いんでしょうか?
工藤:どうなんですかね。そういう機会がいっぱいあると、そういう風になるんだろうなと思って。
<Part2に続く>
『ウィーアーリトルゾンビーズ』は2019年6月14日(金)より全国ロードショー