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アンセル・エルゴートが複雑な青年の成長を巧みに演じる逸品『ジョナサン -ふたつの顔の男-』

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ライター:#齋藤敦子
アンセル・エルゴートが複雑な青年の成長を巧みに演じる逸品『ジョナサン -ふたつの顔の男-』
『ジョナサン-ふたつの顔の男-』©2018 Jonathan Productions, Inc. All Rights Reserved
世界中で大ヒットを記録した『ベイビー・ドライバー』を筆頭に、儚げな雰囲気で映画ファンを魅了する若手俳優アンセル・エルゴートの主演最新作『ジョナサン -ふたつの顔の男-』が、2019年6月21日(金)より公開! 12時間毎に人格を入れ替える青年の生活が徐々に破綻していく様子を描いた、新鋭ビル・オリヴァー監督による意欲作だ。

2つの人格を持つ青年の奇妙な二重生活

『ジョナサン-ふたつの顔の男-』©2018 Jonathan Productions, Inc. All Rights Reserved

映画が多重人格をテーマにすると、たいていホラーになる。古くは『ジキル博士とハイド氏』(1932年)、ヒッチコックの名作『サイコ』(1960年)、最近ではM・ナイト・シャマランの『スプリット』(2017年)がある。ところが、ビル・オリヴァー監督の『ジョナサン -ふたつの顔の男-』は、多重人格を扱っているものの、ホラー映画ではない。『スプリット』的な劇画調の世界観とは対極にあり、見終わったときの感触は、サスペンスに近い。が、映画の狙いは、それを超えたところにあるようだ。

主人公のジョナサンは、建築会社で製図士のアルバイトをしている。優秀な彼はフルタイムで働くように要請されるが、それができない理由がある。実は彼は多重人格者で、1つの肉体を7:00AMから7:00PMまでをジョナサン、7:00PMから7:00AMまでをジョンが棲み分けている。

『ジョナサン-ふたつの顔の男-』©2018 Jonathan Productions, Inc. All Rights Reserved

2つの人格を時間で分けるシステムを考え出したのは、赤ん坊の頃に母親に棄てられた彼(ら)を診ているドクター・ナリマン(パトリシア・クラークソン)だ。ジョナサンとジョンは多重人格がバレないよう、様々な決まりを作り、毎日互いに起こった出来事をビデオで報告し合っていた。

ところが、ある日ジョナサンは、ジョンには自分に報告しない秘密があると気づき、私立探偵(マット・ボマー)を雇って素行を調べさせると、ジョンが決まりを破ってエレナという女性(スーキー・ウォーターハウス)と付き合っていることを知る。この日を境に、完璧にシンクロしていたジョナサン/ジョンの二重生活が少しずつ狂い始める……。

ダンス、DJ、俳優……多彩な才能のアンセル・エルゴート

『ジョナサン-ふたつの顔の男-』©2018 Jonathan Productions, Inc. All Rights Reserved

主演は『ベイビー・ドライバー』(2017年)で一躍注目の的となったアンセル・エルゴート。1994年3月14日ニューヨーク州ニューヨーク生まれ。父は高名な写真家、母はバレリーナ出身の舞台演出家。母親の勧めで幼い頃にアメリカン・バレエ・シアター付属のバレエ学校でバレエを学び、『フェーム』(1980年)で有名なアートスクール、フィオレロ・H・ラガーディア高校に進学。

高校卒業後、2013年に『キャリー』で、キャリーをプロムにエスコートする青年役で映画デビュー。2014年から始まる『ダイバージェント』シリーズ3作で、主人公シェイリーン・ウッドリーの弟役を、次いでスマッシュヒットとなった『きっと星のせいじゃない』で再びウッドリーと共演し、末期ガン患者の彼女をひたすら愛し、支える青年を演じた。

『ジョナサン-ふたつの顔の男-』©2018 Jonathan Productions, Inc. All Rights Reserved

日本未公開の『ステイ・コネクテッド~つながりたい僕らの世界』を経て、2017年にエドガー・ライト監督の『ベイビー・ドライバー』でタイトル・ロールの天才ドライバーを演じ、スターの仲間入りを果たす。ダンスの素養があり、“アンソロ”という名前でDJ活動もする彼に、まさにうってつけの役柄だった。最新作となる『ジョナサン』はベイビー役とはまったく違う、内省的で自分に厳しいジョナサンと、外交的で自由なジョンを演じ分ける彼を見るための映画だとも言える。この後、スティーヴン・スピルバーグがリメイクする『ウェストサイド物語』(2020年公開予定)のトニー役や、元読売新聞記者ジェイク・エーデルスタインのノンフィクションを原作にしたTVシリーズ『トウキョウ・バイス(原題)』での主演が決まっている。

監督のビル・オリヴァーはアラバマ州バーミンガム生まれ。プリンストン大学で美術を、アメリカン・フィルム・インスティテュートで演出を学んだ。これまで主に舞台演出家として活躍。映画では短編を3本撮ってロッテルダム映画祭などで上映されているが、これが長編デビューとなる。

単なるスリラーではない!青年時代の二面性や自己形成の物語

『ジョナサン』©2018 Jonathan Productions, Inc. All Rights Reserved

同じ多重人格というキャッチーなテーマを扱いながら、ジェームズ・マカヴォイが24役を変幻自在に演じ分けた『スプリット』や、温厚で知的な紳士ジキル博士が粗暴で容貌魁偉なハイド氏に変身するという『ジキル博士とハイド氏』とも違う。それは、ジョナサンが一人前の大人になる前という微妙な年頃に設定されていることからも分かるように、規則に従って内向きに生きるジョナサンを、自由奔放なジョンが打ち破って外に出て行く物語と捉えることもできるからだ。

ビル・オリヴァーの狙いは、多重人格というテーマを使って、ビルドゥングスロマン(自己形成物語)という、もっと普遍的なテーマへ昇華させることにあったのではないか。そのためにも、アンセル・エルゴートという素材が必要だったのだと私は思う。

猟奇的な犯罪映画を期待すると肩すかしだが、人間の二面性についてじっくりと考えてみたい人にはお薦め。もちろん、アンセル・エルゴートのファンは必見だ。

文:齋藤敦子

『ジョナサン -ふたつの顔の男-』は2019年6月21日(金)より新宿シネマカリテほか全国順次公開

https://www.youtube.com/watch?v=8hoSuba1MxY

Presented by プレシディオ
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『ジョナサン -ふたつの顔の男-』

“午前7時と午後7時”に切り替わる、ふたつの異なる人格。すべては完璧にコントロールされているはずだった…。観る者を翻弄する、脳<ノー>コントロール・スリラー。

制作年: 2018
監督:
出演: