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「添加物まみれの人糞」はハエをも殺す?映画『うんこと死体の復権』の“グレートジャーニー”関野吉晴がうんこと虫、性と死、呪術と即身仏を語る

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ライター:#遠藤京子
「添加物まみれの人糞」はハエをも殺す?映画『うんこと死体の復権』の“グレートジャーニー”関野吉晴がうんこと虫、性と死、呪術と即身仏を語る
©2024「うんこと死体の復権」製作委員会
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ハードコア大自然ドキュメンタリー『うんこと死体の復権』

この映画のタイトルに驚く人も多いだろう。紀行ドキュメンタリー番組『グレートジャーニー』(フジテレビ)などで探検家として知られる、人類学者で医師の関野吉晴さんの初監督作が8月3日(土)より全国で順次公開される。

©2024「うんこと死体の復権」製作委員会

山を購入し何十年もそこで野糞をし続けて水洗トイレに異議を唱える伊沢正名、うんこを食べる虫から生態系を観察する保全生態学者の高槻成紀、死体喰いの虫を美しく描く絵本作家の舘野鴻という三人のプロフェッショナルを追った映画だ。

制作意図は、自然界の命の循環を見せるため。このハードコア大自然ドキュメンタリーを撮った関野監督にお話をうかがった。映像制作会社ネツゲンのプロデューサー、前田亜紀さんも同席したインタビューの話題は、うんこと死体から即身仏へ、石器文化からアマゾン先住民族へと限りなく広がっていくのだった――。

©2024「うんこと死体の復権」製作委員会

「“どういう映画ですか?”って聞かれて、タイトルを言うと……」

―やっぱり資金を集めたり制作に協力してくれる人を探すのに苦労なさいましたか。

関野:いや、僕はしてない。「ネツゲンやってくんない? 一緒にやらない?」と(笑)。最初は(同社の前田亜紀さんと)共同監督だった。じゃあ安心していられるなと思って(笑)。

前田:「なんとかしてくれるわ」って(笑)。でも、そうですね、形にするまではそれほど苦労っていうのはなかったと思うんですけど、劇場を探すときと、あと配給をお願いするときとかに。

関野:そうそう、いつもやってくれてる劇場からね。

前田:(支配人が)「気持ち悪くなっちゃった」というんですね。

関野:(上映から)30分で。カレーライス食べてたんだよ。

前田:それもよくなかったと思うんですが、虫がイヤだとか、とにかく生理的に受け付けないとか。いままで一緒にお仕事をしていた方がとんでもなく虫嫌いだなんて知らなかったんですが、初めてこの作品で「ごめんなさい。ちょっと無理」という方がいらっしゃるんだなって。

関野:そう、うんこもそうだけど虫が嫌いな人がいるんですね。僕は「何やってんの?」ってよく聞かれるわけです。「いつもなんかやってるけど、いろんなことをやってるから、今いちばん興味を持ってるのは何?」と聞かれて、映画を作ってると言うと「どういう映画ですか?」と聞かれて、タイトル(『うんこと死体の復権』)を言うわけですよ。そうするとみんなすごく敏感に反応して、「誰が見るの、そんな映画?」っていうのと、「わあ面白そう!」っていうのに分かれちゃう。でも半分もいるんだからいいかって。

©2024「うんこと死体の復権」製作委員会

―メインのお三方が本当に独特で、こんなに面白い方たちとどのように知り合われるのかということにも興味があります。著書や論文との出会いが先なのか、あるいは何かの会合とかでお会いになるんですか?

関野:まあ“集まり”ですね。伊沢(正名)さんとは、彼の講演を聞いたことがあるんです。同じところで講演を二人で頼まれたり、自分の主催しているプロジェクトの<地球永住計画>で2回ぐらい呼んでいる。彼も<糞談(ふんだん)>という対談企画をずっとやっていて、いろんな人を呼んでるんだけど、僕は2回も出てる。

保全生態学の高槻(成紀)さんは、玉川上水の自然観察会の指導者なんですよ。哺乳類と植物の関係を研究してる高槻さんが小平市に引っ越してきたので、小学生たちと一緒に自然観察会したい、指導してほしい、一緒にやりましょうということになって。僕もたまたま武蔵野美術大学で教えるようになったんですが、学生は教室で話を聞くのが好きじゃないんです。じゃあ玉川上水でやろうか、ということで。

でも、ただ行っても「いっぱい花が咲いてるな」で終わっちゃう。たとえば“糞虫”というのは、歩いている人の99%は見たことがないと思います。それはやっぱり、ちゃんとした指導者に聞いて初めてわかることなので。トラップをかけなきゃ見られないし。でも簡単な道具で誰でもできると聞いたら、すごく熱くなってやる気になった。

―じゃあ学生さんの様子を見て、ニーズを汲み取られて……。

関野:いや、全然(笑)。僕がやりたくてやったので、学生はついでです。

©2024「うんこと死体の復権」製作委員会

―玉川上水のことを調べようとなさったときに、高槻先生を指導者としてお呼びになった?

関野:じつは僕も55年ぐらい前かな、小平市に住んでたんですよ。玉川上水にはトレイルがあったんです。一橋大学から朝鮮大学まで3キロくらい毎日のように往復して、走っていたランニング道路だった。一橋大学は昔、1~2年生は小平の分校でやってたんですね。そのあとムサビ(武蔵野美術大学)で教えるようになったときは通勤路だった。だけど自然は全然、意識して見てなかったわけですね。

やっぱり知っている人が一緒にいると全然違うんですよ、見え方が。「えっ、こんなとこだったんだ!」って。アマゾンとか、すごい自然があるところに行っているので、「玉川上水は40何キロつながっていて、緑道として貴重なんだ」「あ、そうなの? でも大したことないな」という感じで。でも専門家と一緒に見てみると、それまで見えなかったものがいっぱい見えてくるわけです。

―はい。まさに虫の目という感じでした。

©2024「うんこと死体の復権」製作委員会

「なぜ自然界は“性”をつくったのか? それは“多様性”だと思う」

―<地球永住計画>という素晴らしいプロジェクトをやっていらっしゃいますね。試写会後のスピーチでも人間が自然界最大の害獣だと、だからといって滅亡していいことにもならないということも仰っていますけれども、やはり問題は欲望とお考えですか?

関野:まあ、欲望は大切なもんですよね。活力の源というか、欲望がなかったら人間の活動は全然違ったものになるし、欲望は旧石器時代にもあったと思うし、猿人たちにもあったと思うんですけども。ただ、いまの欲望は肥大した欲望なので、それがいけない。それに煽られてますよね。広告代理店がデカい顔して「買え! 買え! 買え!」って。「こんなのもいいな」「もっと便利なものあるよ」とかね。本当にほしいというより、煽られて買っている面もあるわけです。それが大量生産・大量消費・大量廃棄を産んで、地球を壊してきたので。

―その一方で、コロナ禍でお金への欲望よりも生存欲が優って、「とにかく除菌して!」みたいなことも増えましたよね。この作品をそうした社会へのアンチテーゼのように観る人もいるのではないかとも思ったんですが。

関野:いや、欲望に関して言うと、虫にも欲望があるわけで、あのオスの糞虫ですらメスのかわいい子を探しているわけでね。それはやっぱり生命の歴史を見れば、オスとメスが生まれたことによって“性”というものが出てくるわけですけれども、でもそこで生まれたのが“死”なんですね。

死はなかったんですよ、それまで。だって(細胞)分裂すればいいんだもの。(自然は)なんで性を作ったんだろう? と。なんでだと思います? だって余計なことじゃないですか。分裂したり芽出したりすれば簡単だし、ぜんぜん面倒くさくないじゃないですか。ところが、それができなくなっちゃったんですね。性をつくることによって相手を探さなきゃいけない。それも大変なのに、やっと探しても「イヤよ」って言われたら終わりですから。なんでそんなことやったのか? ですよね。

それは、やっぱり多様性だと思うんです。分裂したら同じものしかできないので、なにか異変が起こったら全滅しちゃう。でも多様性を持って遺伝子が全部違うものになるようにしておけば、どれかが生き残るわけですよ。だから性をつくったんじゃないかなと思うんです。例えば人類というものが生まれた場合に、これが分裂で増えていくとしたら全部同じなので、クローンばっかりですよね。そこに一発寒波がくれば、バーンと全滅する恐れがある。でも全部違ったら、どれかが生き残る。生物的にはどれか残ればいいわけですよね。

©2024「うんこと死体の復権」製作委員会

―その生物というテーマを考えながら、この映画を撮られていると思うんですけれども、監督の撮影中のお気持ちが気になるシーンがあちこちにありまして。まず冒頭(一同笑)、まさにあのポスターのあのカットを撮られていらっしゃったとき、どんなお気持ちだったんですか?

関野:「やめてくれよ!」って(笑)。俺を撮るんじゃないだろう、伊沢さんだろう、と。

―しかも当初はご自分のモノもお見せにならなかったんですけど、伊沢さんを取材なさっていて、意識が変わってきたところがあったのでしょうか?

関野:いや、慣れですね。慣れてきて別に緊張しなくなってきた。カメラを向けられても、別にいいかって。でも、使われたくなかったけどね(笑)。

前田:(笑)。でも「使われたくない」って言わないんですよ。最後に「じつはイヤだったんだ」「あ、そうだったんですか?」って。

関野:一応、監督ですからね。やっぱり作品にとってはあった方がいい。でも俺じゃなくてもいいな(笑)。

©2024「うんこと死体の復権」製作委員会

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『うんこと死体の復権』

「グレートジャーニー」で知られる探検家で医師の関野吉晴は、アマゾン奥地の狩猟採集民との暮らしを通して、自然とヒトとの関係について考え続けてきた。そして、2015年から<地球永住計画>というプロジェクトを始める。この地球で私たちが生き続けていくためにはどうしたらいいかを考える場だ。関野はそこで3人の賢人に出会う。

野糞をすることに頑なにこだわり、半世紀に渡る野糞人生を送っている伊沢正名。
うんこから生き物と自然のリンクを考察する生態学者の高槻成紀。
そして、死体喰いの生き物たちを執拗に観察する絵本作家の舘野鴻。

3人の活動を通して、現代生活において不潔なものとされるうんこ、無きモノにされがちな死体を見つめると、そこには無数の生き物たちが織りなす、世の中の常識を覆す「持続可能な未来」のヒントが隠されていた……。

監督:関野吉晴
プロデューサー:前田亜紀 / 大島 新
撮影:松井孝行 / 船木光 / 前田亜紀
編集:斉藤淳一

制作年: 2024