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「添加物まみれの人糞」はハエをも殺す?映画『うんこと死体の復権』の“グレートジャーニー”関野吉晴がうんこと虫、性と死、呪術と即身仏を語る

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ライター:#遠藤京子
「添加物まみれの人糞」はハエをも殺す?映画『うんこと死体の復権』の“グレートジャーニー”関野吉晴がうんこと虫、性と死、呪術と即身仏を語る
©2024「うんこと死体の復権」製作委員会
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「南米の人たちには“七色の職業を持ってる”と言われていた」

―舘野(鴻/絵本作家)さんの章でも、とても面白いところがあって。舘野さんと話していらっしゃったときに、まさにキャッチコピーとなっている台詞が出ましたが、そのときに「去年くらいから、こいつらすげえなと思いはじめた」と仰っていたんですよ。こうした感銘は、映画を撮りはじめて観察が進んでから生まれてきたんですか?

関野:その前に高槻さんとトラップをかけてマウスを使ったりしてたんだけど、すぐに蛆虫がすごい来るわけです。すげえなと思っていたのはそれで、ずっと前ですね。

―同じ章で、毛についた虫を集めていたときに舘野さんが大興奮してらっしゃる横で、監督は「ふーん」みたいなフラットな相槌で、「もっと喜んでくださいよ!」と言われていて。

関野:違う(笑)。向こうがノッちゃってるから、こっちはノれないわけですよ。だって、ものすごく喜んでるわけ。その「食べてくれた」ということ以外に、その虫自体が珍しいものだから興奮しちゃって、こっちは冷めちゃうよ。「それで?」って(笑)。

だって「自分の体を虫が食べてくれる。でも、毛は食べてくれないんじゃないか。毛だけ残ったらイヤだな」と彼は思ってたんですよ。だから「俺の毛も全部食べてくれるんだ!」って喜んでるんだけど、別に毛もね、骨と違って埋めれば無くなるんですよ、微生物が分解してくれるので。と、僕は思っていたから。それは言わなかったけどね、すごく喜んでるのに……(笑)。

©2024「うんこと死体の復権」製作委員会

―そういう感じで、監督のお人柄が出てくるところも面白かったです。先ほどの玉川上水について監督は、いま保護活動もされていますけれども、都知事選の結果もあり、今後こうした政治状況、都民の意識で、私たちは今後どのように自然を守っていけるでしょうか? どのような展望をお持ちですか。

関野:いまやっているのは反対運動じゃないんですね。もちろん道路は造ってほしくないんですけど、とにかく都知事に(現場を)見てほしい。玉川上水の、とくに小平の橋を造る計画がある部分がいちばん自然が残っているところなので、興味はないだろうけれど、それを見てきてほしい。それと、アセスメントをやり直してほしい。一回やっているんですよ。だけどそれは官製のアセスメントで、道路建設ありきでやっているんですよね。

―御用アセスメントですね。

関野:だからちゃんとしたアセスメントをやってほしい。東京都は、市民と専門家が一緒になって調査することが必要だとか、良いことはいっぱい言っている。それに準じてやってくれと言ってるんですよ。で、そのための署名運動をやっているんですね。そこが焦点だった選挙だったんだけれども……。

©2024「うんこと死体の復権」製作委員会

―焦点だったはずの自然保護が論点にならなかった残念な選挙戦でした。ところで監督は、学生のころからアマゾンに通い続けて、アマゾンの方々の役に立とうとお医者さんになられて、その後グレートジャーニー(※自身の脚力と腕力だけで遡行する旅)に44歳で出発されて、映画も監督なさってという、もう4人分ぐらいの人生を送ってらっしゃる感じなんですけど、その原動力は何だと思っていらっしゃいますか?

関野:原動力、原動力……。あ、病気!(ニッコリ)。

―えっ、なぜですか?

関野:僕、作家の高野秀行と仲がいいんだけど、あるとき「関野さん、もしかして注意欠陥多動性障害(ADHD)じゃないですか?」って言われたんですよ。「じつは僕もそうなんです」と。で、角幡(唯介)という探検家がいて、彼もそうなんだ。共通点があって、一つのものに気を取られると、それ以外に興味がなくなる。過集中で、ほかはどうでもよくなる。だから片づかない。片づけてる暇があったら好きなことをやりたいから、そのうち床が見えなくなる、とかね。それが三人とも共通点だということがわかって、きっとほかにもいっぱいいるだろうなって。

僕はそれ、自分で気がついてて、学生のころジャン・ジャック・ルソーの「告白録」を読んだんです。“若者の人生を変えちゃう本”とよく言われている、いっとき麻疹みたいになっちゃう本が3冊あって、それがルソーの「告白録」と、ドストエフスキーの「地下生活者の手記」と、太宰治の「人間失格」なんです。その「告白録」に<あることにとらわれると、地球が何かしようがどうでもよくなって>という文章があって、「えっ、これ俺のことじゃないか!」と(笑)。

ところが集中して、終わると冷める。でも、次に何か待っているわけです、集中するものが。常に(興味の対象が)変わるので、「この人、何なの?」と。南米の人たちは(僕の)そういうところを知っているわけですよ、いろんなことに手をつけるっていうのは。だから僕は“七色の職業”を持っている、虹のような職業を持っていると言われていて。だから説明するのが非常に難しくて。娘が保育園に行っていたころに困ったみたいで、「お父さん何やってるの?」って聞かれるじゃないですか。「うん、いまは自転車に乗ってるけど、その前はね……」と(笑)。

―でも、すごくユニークな人生ですよね。いまは映画ですか?

関野:<地球永住計画>でいろんな人と対談していて、自分の肩書きは大体「探検家、医師」にしてるんですけれども、今度は「『うんこと死体の復権』の監督、医師」(笑)。

前田:いまは旧石器生活に夢中になっていて、『うんこと死体~』の取材中も本当によく通っていたんですよね。

©2024「うんこと死体の復権」製作委員会

「大好きな黒曜石に失礼しちゃったなって(笑)」

―前田さんに「そういえば75歳おめでとうございます」と言われているのも、とても印象的でした。

関野:あれ、やめてほしかったんだけど(笑)。

―しかも、しっかりした歯で鹿の燻製にかぶりついているときにそう言われていて、世の中の同世代の方々に比べて、このたくましさはなんだろう? と。とても印象的でしたし、皆さん元気づけられると思います。

関野:(笑)。あのとき「ナイフなんかいらねえよ」って言っちゃってるでしょ。あれは失敗だったなって。黒曜石のナイフは使ってるわけですよ。大好きな黒曜石に失礼だなと。

前田:あれはでも、石じゃないですか。だから“ナイフなしで山に入る”と。

関野:ナイフは自分で作っているわけですけど、「鉄のナイフ」って言えばよかったんだよね。黒曜石に失礼しちゃったな。

―(笑)。鹿は罠か何かで獲るんですか?

関野:罠は、木の棒で穴を掘るのが大変なんですよ。1ヶ月はかかっちゃう。旧石器時代、実際に大がかりな罠はあったんです。1メートルから1.5メートルくらいの穴と、もう一つ小さな穴を掘らないといけない。大きい穴だけだと、鹿のジャンプ力はすごいですから、2~3メートルはボーンと跳んで逃げちゃうんです。だけど鹿の足が小さな穴に入ると、動けなくなる。そういう罠が遺跡に並んでるんですよ。こう、遺跡があったとしたら、その穴と穴との間を遮蔽して通れなくしちゃって、それでこっちから追いかけると必ず落ちる。それで……(夢中でお話しになり、こちらも聞き入ってしまう)。

前田:そういうのはできなかったから、という話でしたよね(笑)。

関野:できなかったから(笑)、罠猟師にお願いに行って「分けてください」と。一人だから子鹿で良かったのに、食いきれないのに60キロですよ。

©2024「うんこと死体の復権」製作委員会

―とても印象的なラストでした。

関野:ただ、あれに関しては、舘野さんと高槻さんが一緒に試写を観て、二人で話し合ったらしいんです。「いい映画だったね、けど、あれは余計だった」と。僕は最初に「なぜこの映画を作ったか」とプロローグで言っていて、じゃあ最後のエピローグで、3年間彼らと付き合い虫たちと付き合ったことによって、どのように変わったかを書いてくれとプロデューサーが言うので、それをエピローグで読んだんだけど、ああなったわけです。

前田:エピローグのまとめがなくて終わっちゃうと、三人の生き方はわかったけど、我々はどうしたらいいの? という感じになってしまうので、最後にまとめようと。

関野:それで書いたんだけど、観ている人にとってはそれまで“うんこと死体”とか言っていて、(エピローグでは)全然関係ない石器時代に行っちゃったから。本筋とちょっとずれるじゃないですか? だけど、なんか関野さんらしくていいやってことで落ち着いたんだって(笑)。

―確かに、あれをそのまま実践はできないなとなるかもしれませんが、何らかの生き方のヒントを得られるのではないかなと。

関野:共通して、両方ともアマゾンのマチゲンガという先住民の影響なんです。彼らはナイフ1本で生きていけるので。自分もアマゾンならナイフ1本で行けるけど、じゃあ(日本だし)ナイフなしでやろうじゃないかっていうね。いや、ナイフはあるんですけどね。結構鋭いんですよ、黒曜石ナイフ。だけど鉄のほうが使いやすい。鉄ってすげえなって(笑)。

©2024「うんこと死体の復権」製作委員会

取材・文:遠藤京子

『うんこと死体の復権』は2024年8月3日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次ロードショー

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『うんこと死体の復権』

「グレートジャーニー」で知られる探検家で医師の関野吉晴は、アマゾン奥地の狩猟採集民との暮らしを通して、自然とヒトとの関係について考え続けてきた。そして、2015年から<地球永住計画>というプロジェクトを始める。この地球で私たちが生き続けていくためにはどうしたらいいかを考える場だ。関野はそこで3人の賢人に出会う。

野糞をすることに頑なにこだわり、半世紀に渡る野糞人生を送っている伊沢正名。
うんこから生き物と自然のリンクを考察する生態学者の高槻成紀。
そして、死体喰いの生き物たちを執拗に観察する絵本作家の舘野鴻。

3人の活動を通して、現代生活において不潔なものとされるうんこ、無きモノにされがちな死体を見つめると、そこには無数の生き物たちが織りなす、世の中の常識を覆す「持続可能な未来」のヒントが隠されていた……。

監督:関野吉晴
プロデューサー:前田亜紀 / 大島 新
撮影:松井孝行 / 船木光 / 前田亜紀
編集:斉藤淳一

制作年: 2024