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「添加物まみれの人糞」はハエをも殺す?映画『うんこと死体の復権』の“グレートジャーニー”関野吉晴がうんこと虫、性と死、呪術と即身仏を語る

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ライター:#遠藤京子
「添加物まみれの人糞」はハエをも殺す?映画『うんこと死体の復権』の“グレートジャーニー”関野吉晴がうんこと虫、性と死、呪術と即身仏を語る
©2024「うんこと死体の復権」製作委員会
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「チベット医学は東洋医学に似ているけれど、ちょっと呪術も入ってる」

―監督の意識の変化が気になったのは、いま腸の健康が話題になっているからなんです。自分のモノを記録できるアプリが人気だったりします。伊沢さんがお三方の中で一番年上なのに、めちゃくちゃ肌つやが良かったのも印象的で。そうした伊沢さんからの影響は監督にはありましたか?

関野:それはアンチエイジングみたいなことですか?

―いえ、最初はカメラを向けても出ない。でも最終的にはすごく立派だと褒められるようなモノが出る。それは立派なモノを出そうと意識が変化したのでしょうか。

関野:いや、全然たまたま。何もしてないです。

©2024「うんこと死体の復権」製作委員会

―食生活を変えてみたりも?

関野:全然してないですね。別に伊沢さんも正しい食生活をしてるわけじゃないし、むしろ僕のほうが正しいくらいだと思うんです。伊沢さんは歯医者も行かないんですよ、前歯も全部なくなっちゃってるのに。伊沢さん自身は両親とも歯医者で、歯科技工士みたいなバイトもやっていた。それなのに行かないし、病気になっても医者に行かないと言ってますね。

―徹底してますね。

関野:すごいですよ。第一、死を怖がっていない。

―最後、野垂れ死にだとおっしゃってましたね。

関野:彼は火葬にされたくないわけですよ。それで火葬にしないところが京都と奈良にあるよと言ったんです。そこは土葬するために結構しっかりした儀式をやるんですよ。そうすると「そんな儀式なんかイヤだ」と。野垂れ死にしたいって言うから、どうやって死ぬのかなって。普通あんまり考えないですよね、死んだらどうしたらいいのかなっていうことは。僕なんかまだ死ぬ気になっていないから、具体的に自分は本当にどうしたらいいかと聞かれたらやっぱり土葬なんだけど、でも面倒くさいだろうなって。

©2024「うんこと死体の復権」製作委員会

―本当にそういったこともすごく考えさせられまして、じゃあ富士の樹海に入るのかとかは……。

関野:……いつ死ぬか、本当に死期を見定められる人は富士の樹海に入ってもいいけど。いい医者は「この人はいつ死ぬ」とわかる人だって言うんですけども、普通は医者でも結構当たらなかったり。だいたい余命半年とか3か月とか言われて、何年も生きてる人がいっぱいいますからね。

―確かに。じゃあ、むしろ考えなくていいことなんでしょうか?

関野:ただ、真言宗の人たちの死は……チベット仏教もそうなんですけれども、それは見事です。それをこの映画では何も言っていないけれど、実際に見たんですよ。ネパールのチベット圏で、いちばんチベットらしい暮らしをしている人たちのところに4ヶ月いたんですけど、若い女の子の父親が病気になった。彼はお坊さんなんですよ。

チベット医学って漢方に似ていて東洋医学で、やっぱり鍼灸とか薬草、ちょっと呪術も入ってるんですけどね。ただ漢方と違うのは、前世と来世があるということ。西洋医学は病気の原因を科学的に探そうとしていて、東洋医学もそれに近いんですよ。でもチベット医学だと「前世で悪いことをしたから病気になった」とかいうのも出てくる。

で、その病気になった人のところに行ったら、弟子たちや先輩のお坊さんに囲まれて苦しそうに座っている。お坊さんに囲まれている患者を診るなんて初めてでしたよ。聴診器なんかいらない。もう聴診器を当てる前にゴボゴボいってるわけ。それは肺に水が溜まっているんですね。肌が土色になってお腹が膨らんでいて、完全に肝臓がやられてるんですよ。すぐ「この人は長くないな」と。

僕は彼の死の瞬間には立ち会えなかったんだけど、彼のお兄さんが高僧で死の瞬間に立ち会ってるから、「誰が死を確認したんですか?」と聞いたら、誰もしてないって言うんですよ。高僧になると自分がいつ死ぬかわかるんです。手助けさせて瞑想の姿勢を取って、家族とか弟子や先輩たちを集めて最後の言葉を言うんです。それで「行きます」と言って、“死”なんですね。誰かが看取るとかじゃなくて、「本人が決めること」だと。

日本でも、空海がそれをやっているわけです。彼はまず最初に、いつ死ぬか、「春分の日に死ぬ」と計画を立てるわけですね。何をするかというと、まず五穀断ち。穀物、食事をやめるってことですね。だんだん弱ってくるわけですが、その後に水を断つ。でも長くないんです。水を断てば病人だったら3日で死にます。そういうことを、じつは真言宗はやってきた。即身仏もみんなそうなんです。

空海もやっぱり「行きます」って最後の言葉を遺すんですけど、その伝統がずっと東北、山形県とかを中心にあったんですね。でも100年くらい前に即身仏は禁止されたんですよ。みんな食事を持って行ったり、姿勢が崩れたら直したり介護しないといけない。そうしないと自殺幇助罪になっちゃうんですよ。それで100年くらい前に、医者が“死”を決めることになったんです。本人が決めちゃいけない。

そのころ(死の)指標はしっかりしてたんですね。それは「息が止まる」「心臓が止まる」「瞳孔が開く」なんですよ。だから医者でなくても誰でもわかることなんです。それが最近になって、ここ20~30年で変わったのが“脳死”。医者でもわからない、特別な医者じゃないと。……で、僕が言いたいのは、自分で死を決められて「いいなあ」って。

©2024「うんこと死体の復権」製作委員会

「うんこにハエがついたら、そのハエが死んじゃった」

―映画の話に戻りますけれども、伊沢さんの章で、ご友人が出したモノによってセンチコガネ(本作中で“最強の悪食”と称される昆虫)が死んでしまったことが私は結構ショックで、やっぱりああいうことには添加物とか家畜の飼料のホルモン剤とかPFAS(※新たな環境汚染源としての報道が増えている有機フッ素化合物)とか、様々な背景があるのかなと思ったんですけれども。

関野:うーん、でもねPFASなんてみんな平等に影響を受けてるわけで、まあ多重に受けてるかもしれないけれど、食べ物のなにか(が原因)ですよね。なんか変なもの食べたんですよ。でも、それで言ったら高槻さん、保全生態学の先生が見たのは、うんこにハエがついたら、そのハエが死んじゃった。

―ああ……(絶句)。

関野:食べ物っていうのは、もろに影響するわけですから。

©2024「うんこと死体の復権」製作委員会

―虫が死ぬような毒を排泄している人体があるということに非常にショックを受けました。

関野:だって人工添加物なんか我々ものすごく食べてるんだよね、キロ単位で。気をつけてる人だって、ものすごい量を摂ってますから。

―そういった問題提起にもなりそうですね。

関野:それをやろうとしたんですよ。コンビニ食とか、めちゃくちゃ食べたの。ほんとに添加物実験をして、そのあと学生も参加して一緒にやっていたんですけど、あんまり変わらなかった。(虫が)コロっと死ななかったし(笑)。第一それは、あんまり科学的じゃないんですね。どのぐらい食べたらいいか? とか。だって1年経てば細胞も全部変わるわけで、結構影響を受けると思うんですけども、やっぱり1週間くらいではね。

―そうですね。ハエが死ぬようなモノが出るようになるまでには相当、体がボロボロになりそうな気がします。

関野:みんなすごい量の添加物を食べてるわけです。でも、みんな元気で働いてるじゃないですか。だからすぐには影響はないけれども、じわじわときていて、たぶん長生きできないんじゃないかな。それは西丸震哉(1923 – 2012)さんという、作家で農林省の役人でもあって栄養のことをずっとやっていて、パプアニューギニアに行ったりする探検家でもあって、いろんな作品を作っていて、オーケストラも自分で持っていた人がいて。(当時)その人が「いまの若者たちは平均寿命41歳になるだろう」って。ならなかったんですけどね(笑)。

©2024「うんこと死体の復権」製作委員会

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『うんこと死体の復権』

「グレートジャーニー」で知られる探検家で医師の関野吉晴は、アマゾン奥地の狩猟採集民との暮らしを通して、自然とヒトとの関係について考え続けてきた。そして、2015年から<地球永住計画>というプロジェクトを始める。この地球で私たちが生き続けていくためにはどうしたらいいかを考える場だ。関野はそこで3人の賢人に出会う。

野糞をすることに頑なにこだわり、半世紀に渡る野糞人生を送っている伊沢正名。
うんこから生き物と自然のリンクを考察する生態学者の高槻成紀。
そして、死体喰いの生き物たちを執拗に観察する絵本作家の舘野鴻。

3人の活動を通して、現代生活において不潔なものとされるうんこ、無きモノにされがちな死体を見つめると、そこには無数の生き物たちが織りなす、世の中の常識を覆す「持続可能な未来」のヒントが隠されていた……。

監督:関野吉晴
プロデューサー:前田亜紀 / 大島 新
撮影:松井孝行 / 船木光 / 前田亜紀
編集:斉藤淳一

制作年: 2024