原作キャラクターの魅力を倍加するキャスト陣
ユカちゃんは『ブルーピリオド』の物語において最も漫画的でありながら、現在〈いま〉のリアリティを託されたキャラクターでもある。もちろん受け手に委ねられる部分は多々あるが、多様性の“当たり前”をここまでポップに表現してみせた前例は多くないだろう。
高橋のなりきりぶりは素晴らしく、俳優としての存在感は安易な戯画化を許さない。学ラン×金髪ポニーテールをガチでやったら――と心配したが、しっかり現実世界の高校生として存在している。さらに口角が緩んでしまうのが、板垣李光人が演じる天才・高橋世田介のまんまっぷり。 いわゆる“女性ヒロイン”を廃している本作において、もっともそれに近いポジションと言える世田介、そのツンからのデレを三次元で観られる喜びは筆舌に尽くしがたい。
原作でも八虎を覚醒させる役どころを担っていた美術部の先輩・森まるは、桜田ひよりが演じることによって“きゅるみ”100万倍。八虎が一瞬で恋に落ちてしまい……なんて分かりやすいオリジナル展開が追加されていたらどうしようかと思ったが、そこは原作準拠なのでご安心を。あまり言及するとネタバレになるのでほどほどにしておくが、予備校受験を共に戦う橋田(秋谷郁甫)や桑名(中島セナ)らのキャスティングもドンピシャで、原作勢が手を合わせて拝む様子が目に浮かぶようだ。
世代を問わず胸に迫る物語の普遍性
原作漫画は10代の読者に多大な影響を与えているかと思うが、当然ながら様々な世代の支持を得たからこその大ヒット作である。実際、美大・藝大出身者に話を聞くと、とくに予備校編の描写はかなりリアルなのだという。
映画『ブルーピリオド』は、主人公世代の観客は遠くない過去/未来を想って観られるだろうし、親世代の観客にとって矢口家のシーンは号泣必至だ(石田ひかり演じる母の重み&ずんのやすの異様な存在感!)。また、かつての美・藝大生や実際にアートの世界で活躍している人たちが、実写化ならではの演出や物語のハイライト=受験の描写をどう観るかも非常に気になるところではある。
主演の郷敦が、半年間もの絵画練習を経てから撮影に挑んだという事実からは、映画化するうえで根本のテーマに中途半端な覚悟では挑めないという意識の統一がうかがえる。ものづくりの苦しさやもどかしさ、その先にある望外の喜び、イメージや理想を思うままに表現することの難しさは、映画製作者もよく知っていることなのだ。
『ブルーピリオド』は2024年8月9日(金)より全国ロードショー
『ブルーピリオド』
生きてる実感が持てなかった。あの青い絵を描くまでは―これはからっぽだった俺が、初めて挑む物語。
ソツなく器用に生きてきた高校生・矢口八虎は、苦手な美術の授業の課題「私の好きな風景」に困っていた。
悩んだ末に、一番好きな「明け方の青い渋谷」を描いてみた。
その時、絵を通じて初めて本当の自分をさらけ出せたような気がした八虎は、美術に興味を持ちはじめ、どんどんのめりこんでいく。
そして、国内最難関の美術大学への受験を決意するのだが…。
立ちはだかる才能あふれるライバル達。正解のない「アート」という大きな壁。経験も才能も持ってない自分はどう戦う!?
苦悩と挫折の果てに、八虎は【自分だけの色】で描くことができるのか。
眞栄田郷敦
高橋文哉 板垣李光人 桜田ひより
中島セナ 秋谷郁甫 兵頭功海 三浦誠己 やす(ずん)
石田ひかり 江口のりこ
薬師丸ひろ子
原作:山口つばさ 『 #ブルーピリオド 』(講談社「月刊アフタヌーン」連載)
監督:萩原健太郎
脚本:吉田玲子
制作年: | 2024 |
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2024年8月9日(金)より全国ロードショー