『トップガン マーヴェリック』でお馴染み“あの技”も!
本作に登場する戦闘機は、すべてマレーシア空軍の機体です。防衛装備品(兵器)輸入を1か国に限定すると自国の政治が制約を受ける危険性がある、との考えからマレーシア空軍は、アメリカ製とロシア製の戦闘機を導入しているのです。またマレーシア陸軍も、戦車はポーランド、装甲車はトルコ系と韓国系、野砲は欧州共同開発、南アフリカ、イタリアと、これまたバラエティに富んでいて、補給や整備は大丈夫なのかと心配になるほどです。
さて、Su-30MKMフランカーの元はソ連時代の1980年代に開発されたSu-27フランカーです。なので、この系列を引っ括めて「フランカー・シリーズ」と呼んだりします。
Su-27フランカーは優れた機動性を持つ迎撃戦闘機でして、『トップガン マーヴェリック』(2022年)のなかでマーヴェリック(トム・クルーズ)がやって見せる、急激に機首を垂直に上げてから水平に戻す「コブラ機動」も、1989年のエアショーでSu-27が披露して有名となった“技”でした。
このSu-27の発展型が「Su-30MKM」であり、「M」は「多用途機」を、「K」は「輸出用」を、「M」は「マレーシア」を意味します。胴体前方のカナード(小翼)と推力偏向エンジンノズルによって、さらなる高機動性を発揮するのです。
ちなみに『トップガン マーヴェリック』に「第5世代戦闘機」として登場するのがスホーイの最新型「Su-57」ですが、これはフランカー・シリーズとはまったく別系統の新型です。
本作でのSu-30MKMは多用途機の名の通りに味方地上部隊のための近接支援攻撃に活躍、なぜか対装甲車両用クラスター爆弾(※)まで投下するというサービスぶりです。
地上部隊に目を転じると、特殊航空隊はM4系カービンとSIG556系アサルトカービンを持っていますが、レイル・システムはもちろん、照準器としてホロサイトと可倒式ブースターも載せているという、なかなかの充実ぶりです(※下記場面写真奥)。近距離射撃に有効なホロサイトですが等倍(倍率がない)なので、中/長距離射撃には向きません。そんな時にはホロサイトの後方にブースターを当てて望遠照準器として使うわけです。
一方の武装勢力は、お馴染みのカラシニコフ突撃銃やG3バトルライフル、SVDドラグノフ狙撃銃を使用。狙撃兵の恐ろしさを見せつけます。
(※)放出された缶詰状の子弾が旋転しながら地上を自動捜索、装甲車両を探知すると低空で起爆して自己鍛造体を射出する。
経済の低迷と政局の混乱……マレーシア社会の背景
マレーシアは南シナ海を挟んで、ボルネオ島北部の「東」とマレー半島南部の「西」に分かれています。その領地/領海はタイ、インドネシア、ブルネイ、シンガポール、フィリピン、ベトナムと複雑に接しています。宗教問題や民族問題を抱えているうえに、近年では経済の低迷と政局の混乱が顕在化しています(これはいまやどの国も同じですが)。
The reaffirmation of Malaysia’s sovereign credit ratings and positive economic outlook showcase the government’s responsible economic management, said Prime Minister Datuk Seri Anwar Ibrahim. #NSTBusinessTimes https://t.co/FUv6X6jFPu
— Business Times Malaysia (@MYBusinessTimes) June 28, 2024
映画『エアフォース』は、ナイジェリアを舞台にした『ティアーズ・オブ・ザ・サン』(2003年)やアフガニスタンを舞台にした『スペシャル・フォース』(2011年)、ベトナム戦争の『デンジャー・クロース 極限着弾』(2018年)や『イントルーダー 怒りの翼』(1990年)などなどのネタをミックス盛りにした1本であり、ストレートに楽しむことができるでしょう。
同時に、マレーシアが「北と南に分裂したナンブリ国」を想定して軍の広報的映画を製作した背景を考えてみるのも、興味深いことと思います。
文:大久保義信
『エアフォース』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2024年7月放送
『エアフォース』
太平洋にあるナンブリ国では、北部と南部の内戦が続いていた。停戦中、マレーシアの特殊航空隊は傷を負った南部軍の兵士を助ける。だがそのせいで北部軍の怒りを買い、撤退中にミサイル攻撃を受けてしまう。レジェン隊長率いる部隊はパラシュートで降下するが、そこは両勢力のぶつかる激戦地だった!
監督:ズルカルナイン・アズハル フランク・シー
出演:アイマン・ハキーム・リザ ダト・アディ・プトラ ナス‐T
制作年: | 2022 |
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CS映画専門チャンネル ムービープラスで2024年7月放送