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インド映画史上最強の<わんこ映画>が日本上陸!『チャーリー』は一途なラブラドール犬が観客の涙を搾り取るカンナダ語映画の秀作

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ライター:#松岡環
インド映画史上最強の<わんこ映画>が日本上陸!『チャーリー』は一途なラブラドール犬が観客の涙を搾り取るカンナダ語映画の秀作
『チャーリー』© 2022 Paramvah Studios All Rights Reserved.

インド映画界に“わんこ革命”

「子供と動物には勝てない」というのは、映画界の鉄則である。インド映画も例外ではなく、かわいい子役がサルマーン・カーン演じる主人公以上の存在感を示す『バジュランギおじさんと、小さな迷子』(2015年)のような作品が結構存在する。だがその一方で、動物を魅力的に描いた映画は、インドではアニメを除き、これまでほとんど作られてこなかった。インド映画はあくまでも人間のスターがメイン、それも男優トップスターが中心で、犬でも象でも猿でもコブラでも、達者な脇役として人間様のスターを彩る存在だったのである。

2022年、そんなインド映画に異変が起きた。本作『チャーリー』(原題:『777 CHARLIE』)の出現と大ヒットである。セリフこそないが、主人公犬チャーリーを演じるラブラドール・レトリーバーの達者な演技は、人間の主人公ダルマ役のラクシット・シェッティを完全に喰っている。特に手……ではない、前足の演技の見事なことと言ったら、まったく「前足は口ほどに物を言い」なのだ。

そんなチャーリーと飼い主ダルマの物語、まずはストーリーをご紹介しよう。

『チャーリー』© 2022 Paramvah Studios All Rights Reserved.

※物語の内容に一部触れています、ご注意ください。

ヒト嫌いの寡黙な男、イヌを拾う

インドの南西部カルナータカ州の都市マイスールに暮らすダルマは、中年に近づきつつある工場労働者。技術者としては優秀で、「最優秀社員」との評価も得ているが、何せ無類の人嫌い。工場でも、そして自宅のある住宅団地でも、“人付き合いの悪い男”で通っていた。

近隣で話しかけるのは、小学生の少女アドリカと、国道に食料品店を出している老夫婦ぐらい。そんなダルマの生活に異変が起きたのは、自宅前に居着いた野良犬がバイクに轢かれて怪我をし、動物病院に連れて行ったのがきっかけだった。

『チャーリー』© 2022 Paramvah Studios All Rights Reserved.

獣医師から「もらい手を見つけるから、しばらく預かってくれ」と言われ、その間に鑑札(※安全な犬であることを証明する標識)を取ったりしていたダルマ。そして、自分が急病で病院に運ばれた時、この犬が必死で追ってきたのをきっかけに、犬への愛情に目覚める。やがてダルマは、自分の好きな喜劇俳優チャップリンの名から「チャーリー」と名付け、このラブラドール・レトリーバーの雌犬との生活になじんでいく。

『チャーリー』© 2022 Paramvah Studios All Rights Reserved.

団地の「ペット禁止」規則も何のその、アドリカと二人で可愛がっていたのだが、ある時具合が悪いチャーリーを動物病院に連れて行ったところ、「血管肉腫」の診断が下される。実はチャーリーは多頭飼いの悪徳ブリーダーから逃げ出してきた犬で、ブリーダーによる遺伝子操作が原因だろうと言われ、余命宣告を受けてしまう。何をしてやればチャーリーが喜ぶのか――テレビで雪山を見て興奮する犬の姿を見たダルマは、チャーリーを雪のある所に連れて行こうと決心するが……。

『チャーリー』© 2022 Paramvah Studios All Rights Reserved.

ページ分割:多才人気俳優と新鋭監督がカンナダ語映画を盛り上げる!

製作者の顔も持つカンナダ語映画の人気俳優

ここまでが前半で、後半はサイドカー付きバイクにチャーリーを乗せ、一路北へと向かう一人と一匹の旅が描かれる。いろんな人と出会い、様々なハプニングに見舞われながら、ダルマとチャーリーは旅を続ける。少々ファンタジー要素も入ってはいるが、きめ細やかな脚本と、一人と一匹の見事な相棒ぶりに引き込まれ、見ている方もマイスールからパンジャーブ州のルディヤーナーを通り、ヒマーチャル・プラデーシュ州の雪山までを共に旅することになる。

『チャーリー』© 2022 Paramvah Studios All Rights Reserved.

主演のラクシット・シェッティは、「サンダルウッド」と呼ばれるカンナダ語映画界ではユニークな俳優兼監督、そして映画製作者として知られている。特に、自分の映画会社の初製作作品『Kirik Party(訳:悪戯仲間)』(2016年/原題)が好評を博し、多くの映画賞を受賞して以降は、製作者としての仕事が忙しくなったものの、映画に主演すればいつも何らかの賞を獲得するという人気俳優である。『チャーリー』も自社製作作品で、国家映画賞のカンナダ語映画部門作品賞のほか、南インド国際映画賞のカンナダ語映画部門で作品賞や主演男優賞を受賞している。

犬派じゃなくても感涙! サンダルウッドの勢いを感じさせる秀作

残念ながら、出演犬には与えられる賞がないが、本作の公開後インドでラブラドール・レトリーバーのブームが起きたり、マイスール警察の探知犬が「チャーリー」と名付けられたりしたというエピソードは、チャーリーを演じたラブちゃんたちへの勲章と言っていいだろう。本作のオープニングとラストでは、犬への理解を深めるための啓蒙アピールがなされているし、犬好きもそうでない人も心を揺さぶられる秀作である。カンナダ語映画歴代興収第6位のヒットとなったのも、大納得だ。

『チャーリー』© 2022 Paramvah Studios All Rights Reserved.

監督のキランラージ・Kは、これが長編劇映画第1作の若手監督。カルナータカ州よりさらに南のケーララ州出身で、カルナータカ州ベンガルールの映画学校で監督コースを修了、テレビ映画や短編映画、ミュージックビデオなどを制作したあと、『Kirik Party』の製作にも参加。本作では脚本も担当し、コロナ禍で製作が一時中断する不幸に見舞われながらも、パンデミック後の人々の心を癒す本作を完成させた。『K.G.F:CHAPTER1&2』を生んだ、サンダルウッドの勢いが感じ取れる1本である。

『チャーリー』© 2022 Paramvah Studios All Rights Reserved.

文:松岡 環

『チャーリー』は2024年6月28日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー

 

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『チャーリー』

職場でも自宅の近所でも偏屈者として知られ、楽しみといえば酒と煙草とチャップリンの映画だけという孤独な日々を送るダルマ。そんな彼の家に、悪徳ブリーダーのもとから逃げ出してきた一匹のラブラドールの子犬が住み着くようになる。犬嫌いのダルマは何度も追い払おうとするが、やがて少しずつ心を通わせ、チャーリーと名付け自分の家に迎え入れる。やんちゃでイタズラ好きのチャーリーに振り回されながらも楽しい日々を送っていた矢先、チャーリーが血管肉腫で余命わずかだと判明する。ダルマは、雪が好きなチャーリーに本物の雪景色を見せようと、サイドカーにチャーリーを乗せ、南インド・マイスールからヒマラヤを目指し、インド縦断の旅に出る――。

監督・脚本:キランラージ・K
出演:チャーリー、ラクシット・シェッティ、サンギータ・シュリンゲーリ、ラージ・B・シェッティ、ダニシュ・サイト、ボビー・シンハー

制作年: 2022