• BANGER!!! トップ
  • >
  • 映画
  • >
  • 奇行と暴力を繰り返す夢遊病患者を故イ・ソンギュンが熱演!『スリープ』新鋭監督が語る制作秘話「ホラーというより、ラブストーリー」

奇行と暴力を繰り返す夢遊病患者を故イ・ソンギュンが熱演!『スリープ』新鋭監督が語る制作秘話「ホラーというより、ラブストーリー」

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook
奇行と暴力を繰り返す夢遊病患者を故イ・ソンギュンが熱演!『スリープ』新鋭監督が語る制作秘話「ホラーというより、ラブストーリー」
『スリープ』© 2023 SOLAIRE PARTNERS LLC & LOTTE ENTERTAINMENT & LEWIS PICTURES ALL Rights Reserved.
1 2

「イ・ソンギュンは、まさに役者をやるために生まれてきた」

―本作の劇伴について伺います。相当、緻密に設計されていると感じました。ホラー映画によくあるようなジャンプスケア的な利用はほぼなく、場面にあったサウンドスケープ的な活用や、聞こえるか聞こえないかの繊細な調整が非常に印象的です。

僕はサウンドコーディネーターの仕事をしていたから、とてもこだわりました。サウンドコーディネーターというのは、監督と音楽班を繋ぐ仕事です。以前、ポン・ジュノ監督の『Okja/オクジャ』(2017年)のサウンドコーディネーターを担当したときは、1分、時には1秒単位、さらに観客には聞こえないような音も記載された100ページくらいの指示書があったんですよ。それに倣って……というわけではないですが、『スリープ』の音響指示書も100ページくらいになりました。音楽班はドン引きしていたけれど、ベテランのスタッフばかりだったから、しっかり読み込んでくれましたよ。

音楽の設計については、夫婦を代弁させるような雰囲気作りに徹しました。(他人には)些細なことでも2人にとっては深刻な場面では、音楽を有効に活用して感情を表現しました。さらに本作は章立てになっているんですが、章ごとに音楽のスタイルも変えているんですよ。ぜひ劇場で観るときは意識してほしいですね。

『スリープ』© 2023 SOLAIRE PARTNERS LLC & LOTTE ENTERTAINMENT & LEWIS PICTURES ALL Rights Reserved.

―夫婦役を演じたイ・ソンギュンさんとチョン・ユミさんの印象的なエピソードはありますか?

現場に入ってびっくりしたんですが、2人とも演技に対する姿勢が正反対だったんです。ソンギュンは、脚本が真っ黒になるくらい書き込みをしてきます。そして撮影前に「ヒョンス(夫)なら、この台詞ではないと思う」とか、「このシーンの行動を変えた方がいいんじゃないか」とか、綿密に芝居を構築しようとするんです。まさにヒョンスが憑依しているかのような振る舞いでした。まさに役者をやるために生まれてきた、という感じでしたよ。

一方のユミは、天才肌。最初に「監督、私には1から10まで全て教えてください」と言ってきたんです。僕は監督ですから、スジンというキャラクターの立ち振る舞いやセリフ回しをこと細かに指示するのは、やぶさかではありません。だから彼女の言ったとおりに指示をしたら、完璧に再現するんですよ。言葉を選ばずに言えばロボットのように指示を処理して、アウトプットしてくれる。つまりは2人とも、とても優秀だったということです。彼らの仕事を目の前で見られたのは監督として幸せでした。

『スリープ』© 2023 SOLAIRE PARTNERS LLC & LOTTE ENTERTAINMENT & LEWIS PICTURES ALL Rights Reserved.

―イ・ソンギュンさんの映画をもっと観たかったですね……(同氏は2023年12月に逝去)。

本当に残念ですね……。あ、いま思い出したんですが、ユミが当初「ヒョンスの役は誰が演るのか」と心配していたんです。というのも、スジンは発散型のキャラクターだけれど、ヒョンスは内面の演技が多い。つまり、行間が読める役者じゃないと難しいのではないか? と。でも「ヒョンスを演じるのはイ・ソンギュンだよ」と伝えたら、「彼なら大丈夫!」と飛び上がって喜んでいたんですよ。彼は本当に信頼できる、良い役者です。

『スリープ』© 2023 SOLAIRE PARTNERS LLC & LOTTE ENTERTAINMENT & LEWIS PICTURES ALL Rights Reserved.

――最後はしんみりしてしまったが、ジェソン監督が明るく楽しんで『スリープ』を制作したことが伺えた。彼の考える「正しい夫婦像」とは何か?『スリープ』は、人によっては少し不思議な印象を残すかもしれない。だがイ・ソンギュンの思い出と共に、結婚や夫婦について再考するには『スリープ』が良い機会になるだろう。

ユ・ジェソン監督、チョン・ユミ 『スリープ』© 2023 SOLAIRE PARTNERS LLC & LOTTE ENTERTAINMENT & LEWIS PICTURES ALL Rights Reserved.

取材・文:氏家譲寿(ナマニク)

『スリープ』は2024年6月28日(金)よりシネマート新宿ほか全国公開

1 2
Share On
  • Twitter
  • LINE
  • Facebook

『スリープ』

出産を控え、幸せな結婚生活を送るヒョンス(イ・ソンギュン)とスジン(チョン・ユミ)。ある夜、隣で眠る夫ヒョンスが突然起き上がり「誰か入ってきた」と呟いた。その呟きに呼応するように家を覆い尽くす不穏な気配…。翌朝、下の階に越してきた住人から「明け方の騒音が1週間も続いて、我慢できない」と相談をされるも全く身に覚えがなかった。少しの違和感を抱きながらも夜を迎えたその日から、眠りにつく度にヒョンスは人が変わってしまったかのように奇行を繰り返す。頬を掻きむしる。生魚を丸呑みする。窓から身を乗り出す。その異常行動は日を追う毎にエスカレートしていく。得体の知れない“それ”に恐怖を感じ、怯えながら夜を過ごす夫婦は睡眠クリニックの受診を決意するが、スジンは母から超自然的な力に頼るべきだと、巫女から手に入れた御札を渡される。果たして “それ”は医学で克服できるものなのか、それともー。

脚本・監督:ユ・ジェソン
出演:チョン・ユミ イ・ソンギュン

制作年: 2023