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名作『いまを生きる』との共通点と大きな違い オスカー受賞『ホールドオーバーズ』が描く“持たざる者”への優しさ

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ライター:#齋藤敦子
名作『いまを生きる』との共通点と大きな違い オスカー受賞『ホールドオーバーズ』が描く“持たざる者”への優しさ
『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』Seacia Pavao / © 2024 FOCUS FEATURES LLC.
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名作『いまを生きる』との共通点と、大きな違い

この映画を見て、すぐ頭に浮かんだのはピーター・ウィアー監督の『いまを生きる』(1989年)だった。設定は『ホールドオーバーズ』より約10年前の1959年、舞台もバートン校に似た全寮制の一貫校だ。そこに優等生の兄を持つ新入生(イーサン・ホーク)が転入してきて、新任の英語教師キーティング(ロビン・ウィリアムズ)と出会うところから物語が始まる。

いまを生きる (字幕版)

PrimeVideo『いまを生きる (字幕版)』

 

今回、改めて『いまを生きる』を見直してみて、似ているかと思ったキーティングとハナムが、まったく別次元の教師だということに気がついた。

詩の美しさを教え、既成の権威を嫌い、教科書を破かせ、生徒たちに自立を促すキーティングに対して、外見もいまいち(斜視で体臭が強いというコンプレックスあり)、知識は抜群だが教育には情熱がなく、生徒に容赦なく辛口の点数をつけるハナム。

『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』Seacia Pavao / © 2024 FOCUS FEATURES LLC.

「慕われるエリート先生(キーティング)VS 嫌われる落ちこぼれ先生(ハナム)」――違いがありすぎて、“感動の学園もの”とひとくくりにはできない。

作り方にも違いがある。ピーター・ウィアーがかっちりセットを組んで撮影している正統派であるのに対し、アレクサンダー・ペインは得意のアマチュアイズムあふれるロケ・セット方式。永遠の映画愛好家(アマチュア)であるペインだからこそで、その手作り感覚が映画に柔らかな風を行き渡らせている。

『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』Seacia Pavao / © 2024 FOCUS FEATURES LLC.

『サイドウェイ』がそうだったように、ペインの映画はどれもロード・ムーヴィーの側面があるように思う。目的地があろうとなかろうと、道を進んでいくうちに登場人物たちの心が交叉し、触れあいが生まれる。それを見せること。目的地に着くことがテーマではなく、そこまでの旅(ロード)が見どころだ。『ホールドオーバーズ』も、学校からどこかへ出掛ける(一度だけボストンの街に行く)わけではないが、ハナム、アンガス、メアリーの2週間の心の旅を描いたロード・ムーヴィーのように私は思う。

『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』Seacia Pavao / © 2024 FOCUS FEATURES LLC.

ペイン監督が“希望”を託したのは?

さて、この映画の核心、3人の登場人物の要になっているのは、実は料理長のメアリーである。60年代に盛り上がった公民権運動は数々の弾圧と指導者の死によって下火になり、黒人の期待は打ち砕かれて、70年代を迎える。シングルマザーのメアリーが手塩にかけて育てた一人息子は、優秀なばかりに大学の学費のためにベトナム戦争に志願して戦死する。

『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』Seacia Pavao / © 2024 FOCUS FEATURES LLC.

“持たざる者”の悲運を一手に引き受けた、彼女の深い悲しみ。演じるダヴァイン・ジョイ・ランドルフの諦めと怒りがないまぜになった視線に、多くのアメリカ人は心を痛めただろう。そして、この映画が最高にステキなのは、そんな苦渋と絶望のどん底にいる彼女に、とある形で“未来”を与えるところにある。

『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』Seacia Pavao / © 2024 FOCUS FEATURES LLC.

ストーリーの本筋は、クリスマスにボストンに遊びに出掛けたハナムとアンガスが、ある事件をきっかけにそれまでとは違う人生を歩み出すところにあるのだが(そのエピソードもとても感動的だが)、私が一番心を打たれたのは、悲しみの固まりのようなメアリーに“希望”をもたらすアレクサンダー・ペイン監督の優しさだった。

アレクサンダー・ペイン監督 『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』Seacia Pavao / © 2024 FOCUS FEATURES LLC.

文:齋藤敦子

『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』は2024年6月21日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー

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『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』

1970年、ボストン近郊。名門バートン校の生徒たちは、誰もが家族の待つ家に帰り、クリスマスと新年を過ごす。しかし、留まらざるを得ない者もいた。
生真面目で融通が利かず、生徒からも教師仲間からも嫌われている古代史の教師ハナム(ポール・ジアマッティ)。勉強はできるが反抗的で家族に難ありの生徒アンガス(ドミニク・セッサ)。ベトナム戦争でひとり息子カーティスを失ったばかりの料理長メアリー(ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ)。
雪に閉ざされた学校で、反発し合いながらも、孤独な彼らの魂は寄り添い合ってゆく――。

監督:アレクサンダー・ペイン  
脚本:デヴィッド・ヘミングソン 
出演:ポール・ジアマッティ、ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ、ドミニク・セッサ

制作年: 2023