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プリンス殿下×ローファイの伝説!必見の音楽ドキュメンタリー『プリンス ビューティフル・ストレンジ』&『ラウダー・ザン・ユー・シンク ギャリー・ヤングとペイヴメントの物語』

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ライター:#BANGER!!! 編集部
プリンス殿下×ローファイの伝説!必見の音楽ドキュメンタリー『プリンス ビューティフル・ストレンジ』&『ラウダー・ザン・ユー・シンク ギャリー・ヤングとペイヴメントの物語』
『プリンス ビューティフル・ストレンジ』©PRINCE TRIBUTE PRODUCTIONS INC.
『ラウダー・ザン・ユー・シンク ギャリー・ヤングとペイヴメントの物語』
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伝説的ローファイおじさんの泥酔半生!『ラウダー・ザン・ユー・シンク ギャリー・ヤングとペイヴメントの物語』

80年代半ばくらいまではざっくり「ジャンク」と呼ばれていた音楽群は、90年代に「グランジ」という呼称を得て、なんとなく「オルタナ」と総称されることになる。そんなネット以前の音楽ムーブメントのなかで、「ローファイ」という呼称も定着していった。その代名詞的バンドだったペイヴメントの初代ドラマー、ギャリー・ヤングが2023年8月に70歳で亡くなった。

ギャリー・ヤング 『ラウダー・ザン・ユー・シンク ギャリー・ヤングとペイヴメントの物語』

初期ペイヴメントのアーティスト写真でも、ギャリーはそこそこ歳のいったおじさんに見えた。フロントマンのスティーヴン・マルクマスが1966年、ギャリーが1953年生まれだから、叔父さんと甥っ子みたいな関係性だったのかもしれない。マルクマスらメンバーがとくに若々しかったわけでもないが、それでもちょっと浮いているのは明らかだった。

とはいえ、彼が参加した作品は自身のスタジオで一部レコーディングした1stアルバム『Slanted and Enchanted』(1992年)だけだから、そもそも2ndアルバム以降に聴き始めたファンにとっては馴染みの薄い存在だろう。伝説的バンドの、しかしオタクか古参ファンしか認識していないメンバー、そんな男を改めて見つめたドキュメンタリーが『ラウダー・ザン・ユー・シンク ギャリー・ヤングとペイヴメントの物語』だ。

ギャリー・ヤング 『ラウダー・ザン・ユー・シンク ギャリー・ヤングとペイヴメントの物語』

90年代インディーロック好きは感涙モノのドキュメンタリー

本作は、「LSDなら375回はやっている」というギャリーの強烈な自分語りから始まる。薬物に溺れた知人・友人がいる人ならば、ろれつの回らない彼の喋りに不安を覚えるかも。そしてジェリー・アンダーソン風の人形劇? と思いきやセサミ・ストリートに……みたいな妙に凝ったオープニングクレジットから、ニルヴァーナやソニック・ユース、ティーンエイジ・ファンクラブ、スーパーチャンク、バットホール・サーファーズなどなど、90年代に青春を過ごした音楽ファンならば身を乗り出すようなオモシロ・バンド話がガンガン繰り広げられる。

『ラウダー・ザン・ユー・シンク ギャリー・ヤングとペイヴメントの物語』

90年代当時、遠く離れた日本で深夜番組のライブ映像や雑誌のインタビューから抱いたギャリーのイメージが、マルクマスらメンバーの回想によって今さらながら、良くも悪くも崩されていく。メンバーの地元ストックトンにパンクを根付かせた、先駆的人物だったギャリー。まだ若くいっぱいいっぱいだったメンバーが彼から得たものは大きかったが、徐々に荒唐無稽な言動に振り回されるようになり、バンドは健全に回らなくなっていく。

スコット・カンバーグ(ギター)『ラウダー・ザン・ユー・シンク ギャリー・ヤングとペイヴメントの物語』

貴重な過去映像も満載で、メンバー間でジェネレーションギャップに戸惑う様子などは少し物悲しい。とくにパーカッションとコーラスを担当するボブ・ナスタノビッチは、ときに酩酊するギャリーのサポートを一手に引き受けていた。2023年の来日公演でも元気にピョンピョン飛び回り叫んでいたボブの姿は在りし日のギャリーを彷彿させたが、彼がバンドに正式加入することになった脱力エピソードと、その後の苦労、バンド内の不均衡もうっすら浮かび上がる。

ボブ・ナスタノビッチ(パーカッション/コーラス)『ラウダー・ザン・ユー・シンク ギャリー・ヤングとペイヴメントの物語』

スクリーンを凝視したくなる貴重な過去映像が満載!

それでも、とくに名曲「サマーベイブ」のドラムなど世代が異なるギャリーの個性がよく分かるエピソードは感嘆ものだ。ギャリーとの軋轢を気まずそうに話すメンバーからは、一定の成功を手にしたミュージシャンとは思えない気の良さもにじみ出る。とくにイボルドの“いい人オーラ”には磨きがかかっている。

マーク・イボルド(ベース)『ラウダー・ザン・ユー・シンク ギャリー・ヤングとペイヴメントの物語』

セルアウトしたせいで周囲を信用できなくなったり、自らのエゴに飲み込まれていった連中とは違い、あくまで“インディーバンド”のまま伝説になったペイヴメントは、まだ健在だ。……マルクマスはまだちょっとヒネてるみたいだけど。あとギャリーに代わって加入したドラムのスティーヴはやっぱり不憫。

スティーヴン・マルクマス(ボーカル/ギター)『ラウダー・ザン・ユー・シンク ギャリー・ヤングとペイヴメントの物語』

ギャリーは自宅で、若い頃にハッパを売って稼いだ金で買ったというビンテージ機材や楽器に囲まれている。病的なコレクター体質、異常な物持ちの良さ、ウォッカで流し込む抗不安薬……。メンバーが「本物のアル中を初めて見た」と振り返る90年代から、彼のライフスタイルはほとんど変わっていないように見える。

『ラウダー・ザン・ユー・シンク ギャリー・ヤングとペイヴメントの物語』

ともあれ本作は、某日本のロック雑誌の人生相談連載(いま読み返すとギャリーの真面目な回答が泣ける)まで紹介される網羅ぶりで、90年代にペイブメントを聴いていた人たちが当時の彼と同じくらいの年齢になっているであろうことを考えると、バカバカしくも感慨深い。初来日公演でギャリーが観客に配っていたのは、たしかバナナだっただろうか。

「rockin’on」1996年1月号(編集部私物)

2024年現在、ローファイという言葉が一周回るどころかよく分からない方向で“オシャレっぽい何か”として受け入れられている謎現象も、見事にヨボヨボなギャリーによって是正(?)されるかもしれない。過去映像/画像にチラ映りするバンドやレーベルのTシャツなんかもいちいち気になってしまうだろうから、ぜひ劇場で目を凝らして鑑賞したい、なんとも愛おしいドキュメンタリーなのであった。

『ラウダー・ザン・ユー・シンク ギャリー・ヤングとペイヴメントの物語』は2024年6月15日(金)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

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