ガイ・リッチーが実写版『アラジン』で目指した“多様性”とは
そもそもクライムアクションやミステリーを得意とするガイ・リッチーが、愛と夢がたっぷり詰まったディズニー映画を手がける……ということ自体が挑戦的だ。この実写版『アラジン』でリッチーは、アラビア文化を取り入れた物語を実写化するにあたり、ハリウッドで問題視されているホワイト・ウォッシュ路線に走らないよう注意したそうで、「僕は特定の文化や肌の色、民族にスポットを当てることが大嫌いなんだ。なぜならそれは、作品の間違った部分に光を当てると思うからさ。問題にすべきは、人に対してきちんと敏感でいられるかどうかだ」と語っている。
実際、本作はエジプトやインド、チュニジアなど多様なルーツを持つキャストで構成され、美術や衣装も様々な国の文化が反映された。ラブコメ要素だけでなく、リッチーお得意のアクションや、ラストにはボリウッドを彷彿させるシーンまで飛び出すなど、カオスな世界観に仕上がっているのだが、この“カオス”こそが物語にパワフルな魅力を与え、観客を魅了する要因となっている。文化的差異を超えて誰もが楽しめるエンタメ作品を作り上げること、それこそがガイ・リッチーが目指した新生『アラジン』なのた。
たくましい“フェミニスト” ジャスミンの誕生
実写版『アラジン』がアニメーション版と違う最大のポイントは、何と言ってもヒロインのジャスミンだろう。彼女はアニメーション版においても、初の有色人種のヒロインでパンツスタイル、勝気な性格……など、それまでにないプリンセスだったが、今回の実写版ではよりパワフルな“フェミニスト”として描かれている。父親や国務大臣のジャファーに政略結婚を迫られれば「結婚する必要がある? 私が国王になってはいけないの?」と食ってかかり、女性がトップに立つこと、女性にも能力があることを切々と訴える。そして想いを寄せるアラジンに対しても「私はリーダーになりたい」と堂々宣言するのだ。
これ、従来のディズニープリンスならば(アラジンは王子ではないが)、ヒロインに突然バリキャリ発言をされたら引いてしまいそうなものだが、アラジンはよき理解者として、ときにメンターとして「君ならリーダーになれるよ!」とジャスミンを鼓舞する。そんな理想的なパートナーに励まされ、たくましいフェミニストへ成長を遂げたジャスミンが、アニメーション版では描かれなかった初のソロナンバー「スピーチレス」を歌い上げるシーンは、最高の“フェミモーメント”。いまだ根強い男性優位社会で日々キツい思いをしている人は、ハンカチなしでは観られないだろう。
ウィル・スミス版ジーニーがアニメーション版のあの名曲をヒップホップ風味に!
https://www.youtube.com/watch?v=EaxTJIGvlEU&feature=youtu.be
ちょっと社会派な面を紹介してきたが、とはいえ堅苦しい映画ではないのでご安心を。作曲家アラン・メンケンがアニメーション版で生み出した名曲の数々を、新たなアレンジを加えて生まれ変わらせた珠玉のサウンドトラックも大きなの魅力のひとつだ。
特に、かつてザ・フレッシュ・プリンスの名でラッパーとして活躍していたウィル・スミス演じるランプの魔神・ジーニーが「フレンズ・ライク・ミー」を歌う場面は、オリジナルの陽気なサウンドを踏襲しつつもヒップホップ要素を加えることで、極上のエンタメシーンに仕上がっている。ディズニーらしからぬノリノリのヒップホップソングや、重厚なアンサンブルが轟く魅惑のアラビアンナンバーまで、多彩な楽曲が多くの観客の心を躍らせてくれることだろう。
なお、本作は3Dでの鑑賞をぜひオススメしたい。ジーニーの魔法がかかる華やかなダンスシーンや、空飛ぶ絨毯に乗って名曲「ホール・ニュー・ワールド」を熱唱するあの伝説的名場面など、マジカルな世界観を立体で体験する時間は、至福のひと時となるはずだ。
『アラジン』は2019年6月7日(金)より全国公開
https://www.youtube.com/watch?v=EbsZrpwmsq0