「タイパ」って何?800キロ“歩いて”会いたい人がいる!『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』は「ゴースト・オブ・ツシマ」作曲家による音楽も必聴

「ゴースト・オブ・ツシマ」作曲家が贈る、繊細で慎ましやかな音楽
本作の劇伴を作曲したイラン・エシュケリは、ビデオゲーム「ゴースト・オブ・ツシマ」(2020年)の音楽を梅林茂と共に担当したことで、日本でも注目を集めた作曲家だ。
エシュケリはマシュー・ヴォーン監督作『レイヤー・ケーキ』(2004年)の音楽で高く評価され、『スターダスト』(2007年)と『キック・アス』(2010年)でも同監督とタッグを組んだ。梅林茂との初コラボとなった『ハンニバル・ライジング』(2007年)や、異色和風ファンタジー『47RONIN』(2013年)の音楽が「ゴースト・オブ・ツシマ」に繋がったようにも感じられるが、同作の製作チームによれば、エシュケリ招聘の決め手となったのは、シェイクスピアの戯曲「コリオレイナス」を映画化したレイフ・ファインズ監督/主演作『英雄の証明』(2011年)の独創的な音楽だったという。
上記のような重厚な音楽で映画ファンや製作者たちの心を掴む一方、エシュケリは『アリスのままで』(2014年)で室内楽(ピアノ四重奏)形式の繊細な劇伴を作曲しており、本作でも慎ましやかな音楽でハロルドの内面の変化を描き出している。ヴァイオリンとピアノ、シンセサイザーを中心とした小編成の劇伴には、「余計な物は持たずに歩く」というハロルドの意思も反映されていると考えられる。しかし、大きな感情のうねりが生じたとき、深みのあるストリングスが加わり、静かな感動とカタルシスを呼ぶ。華美ではないが、ジワリと心にしみる音楽と言えるだろう。
“旅人”ハロルドの姿と重なる、漂泊民の伝承音楽を基にした挿入歌
劇中ではエシュケリの劇伴のほかに、UKトラッド・フォーク界の人気シンガーソングライター、サム・リーの歌曲が4曲使われている。「トラヴェラーズ」と呼ばれるブリテン諸島の漂泊民の伝承歌をベースにした彼の楽曲は、文明の利器を手放し、野草や木の実を食べ、野宿しながら歩き続ける“旅人”ハロルドの姿と重なって強く心に残る。本作のサウンドトラックアルバムには、エンドクレジットで流れるリーの歌曲「Sweet Girl McCree」と「McCrimmon」も収録されているので、こちらもぜひチェックして頂きたい。
文:森本康治
『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』は2024年6月7日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋ほか全国公開
『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』
定年退職し、妻のモーリーンと平凡な生活を送るハロルド・フライ。ある日、北の果てから思いがけない手紙が届く。差出人はかつてビール工場で一緒に働いていた同僚クイーニーで、ホスピスに入院中の彼女の命はもうすぐ尽きるという。ハロルドは返事を出そうと家を出るが、途中で心を変える。彼にはクイーニーにどうしても会って伝えたい“ある想い”があった。ホスピスに電話をかけたハロルドは「私が歩く限りは、生き続けてくれ」と伝言し、手ぶらのまま歩き始める。歩き続けることに、クイーニーの命を救う願いをかけるハロルド。目的地までは800キロ。彼の無謀な試みはやがて大きな話題となり、イギリス中に応援される縦断の旅になるが──!?
監督:へティ・マクドナルド
原作・脚本:レイチェル・ジョイス
出演:ジム・ブロードベント、ペネロープ・ウィルトン、アール・ケイヴ、リンダ・バセット
制作年: | 2022 |
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2024年6月7日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋ほか全国公開