言葉に頼らないユニバーサルなユーモア
本作で特筆すべきなのは、言語や時事ネタに依存しない可笑しみを提供するコメディーとしての質です。コメディーはインドでも愛されているジャンルで、またアクション映画やロマンス映画にもきっちりコメディー・パートがあり、専業のコメディー俳優も言語圏ごとに分厚い層をなしています。
彼らのお笑いは、物まね、過去の映画作品からの縦横の引用、掛け言葉や洒落などの翻訳困難な言語的ユーモア、流行りのTVコマーシャルから政治に至るまでのあれこれを俎上に載せた社会風刺、変顔やドタバタの身体表現などからなりますが、最後のものを除くと外国人には理解不能なものが多く、よくても考えオチにしかなりません。
しかし本作のユーモアは上に挙げたいずれでもなく、あくまでもシチュエーショナルなもの。主人公は短期記憶喪失とともに若干の幼児退行が起きたものとして描かれ、頭に浮かんだことをそのまま口に出すようになってしまい、それが笑いとハラハラする緊張感をもたらすのです。そして等距離に見えた3人の仲良しに序列があったことが分かるむごい展開もあり、笑いに泣きに、見ている方も翻弄されます。
最後に用意されたツイストにも注目
VJSは、『ピザ 死霊館へのデリバリー』でのそれ以上に、全編を通して特定のセリフを繰り返し口にしながら飽きさせることがありません。そのセリフが次にどのタイミングでどのように出てくるか、観客は固唾をのんで待ち構えながらもVJSの演技力に圧倒されることでしょう。
Prem might’ve forgotten but we didn’t 🙋♂️
10 years ago, Balaji Tharaneetharan made his directorial debut with this black comedy about a man who gets short-term memory loss just before his wedding day@VijaySethuOffl @SGayathrie
🎬: Naduvula Konjam Pakkatha Kaanom | @sunnxt pic.twitter.com/1r6AIFzd6j
— IMDb India (@IMDb_in) November 30, 2022
驚くのは本作のエンディングロールでの楽屋オチ的映像で、特に撮影を担当したC・プレーム・クマールに関してのエピソードです。プレーム・クマールはのちに監督となって、VJS主演の『’96』(2018年)を大ヒットさせた人。ロマンチックな『’96』の監督と本作がどう関わるのかは、見てのお楽しみです。
文:安宅直子
『途中のページが抜けている』はCS映画専門チャンネル ムービープラス「ハマる!インド映画」で2024年5月放送
https://www.youtube.com/watch?v=YGwtlJjMmCo
『途中のページが抜けている』
プレーム、バグス、サラス、バッジは仲のいい4人組。プレームの結婚式前日、彼らが草クリケットで遊んでいるとプレームが転倒。頭を打って記憶喪失になってしまう。その症状を明かせば結婚自体がお流れになってしまうかもしれない……。3人の友人たちは知恵を絞り、式を挙行しようと画策する。
監督・脚本:バーラージ・ダラニダラン
出演:ヴィジャイ・セードゥパティ ガーヤトリ バガヴァティ・ペルマール
制作年: | 2012 |
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CS映画専門チャンネル ムービープラス「ハマる!インド映画」で2024年5月放送