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『エイリアン』クリーチャー・デザイナー、H・R・ギーガーは生涯ずっと恐怖と向き合っていた

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ライター:#市川夕太郎
『エイリアン』クリーチャー・デザイナー、H・R・ギーガーは生涯ずっと恐怖と向き合っていた
『DARK STAR/H・R・ギーガーの世界』©2015 T&C Film ©HR Giger Estate

あの『エイリアン』の恐ろしい宇宙モンスターを創造しアカデミー賞視覚効果賞を受賞。その後も多くの映画作品のコンセプトアートやレコードのカバーアートを手がけ、さらにビデオゲームのデザインにも影響を与えてきた伝説のアーティスト、H・R・ギーガーの生涯に迫るドキュメンタリー『DARK STAR/H・R・ギーガーの世界』がホワイトシネクイント にて12/25(金)よりリバイバル上映される。

世界は「ギーガー前・ギーガー後」で間違いなく変わった

画家、H・R・ギーガー。たとえその名を知らなくても、映画ファンならば彼の作品を見たことがあるはずだ。なんといっても『エイリアン』(1979年)は、クリーチャーから惑星、風景に至るまでギーガーの描く世界を映像化したものだった。機械的でありながら生物を感じさせる美しい曲線、散りばめられた性的なモチーフ、充満する死の匂い。それらが有機的に絡み合ってできる唯一無二のオリジナリティ。

『DARK STAR/H・R・ギーガーの世界』©2015 T&C Film ©HR Giger Estate

世界は間違いなくギーガー以前、ギーガー以後で分けられる。ギーガーが生み出した絵、デザインは、そのすべてが世界中のカルチャー、アートの世界に影響を及ぼした。『DARK STAR/H・R・ギーガーの世界』(2014年)は、そんなギーガーの自宅にカメラが潜入し、死の直前までを追ったドキュメンタリーだ。

無数の本や絵、不気味なオブジェ、そして愛猫! 夢の“ギーガー邸”の内部へ

まず映しだされるのは、スイスにあるギーガーの自宅。一軒家だがそこまでの大豪邸でもなく、めちゃくちゃ古い。庭には背の高い木々が森のように生い茂り、ギーガーの手がけたオブジェだらけ。そこを這うようにレールが牽かれ、ギーガーお手製の「幽霊列車」なる小さい列車が走る。さながらギーガー・テーマパークだ。遊び心満点だが、モチーフがモチーフだけにちょっと怖いけど。渡辺篤史だったらなんて言うだろう?

カメラが家の中に入ると、まず目に飛び込んでくるのは黒く塗られた壁、そこにビッシリと貼られたポスターや絵、高く積まれた無数の本、オブジェ……なかなか乱雑気味だが、いちいち一時停止して確認したくなる。そして家の中を我が物顔で闊歩するシャム猫、ムギ三世。かわいい……!

『DARK STAR/H・R・ギーガーの世界』©2015 T&C Film ©HR Giger Estate

そんな夢のような自宅公開を経て、ギーガーご本人はもちろん、身の回りの関係者の証言がはじまる。妻、元妻、元助手、代理人、精神科医、仕事仲間……。アーティストとして、夫として、友人として、あらゆる角度から語られていくギーガー。

なかでも興味深かったのが、ギーガーの秘書であるトーマス・フィッシャー(別名:トム・G・ウォリアー)の登場。実は彼、番組中ではあまりちゃんと説明されていなかったが、「セルティック・フロスト」というバンドを率いたことで知られるメタル界の超大物。もともとギーガーの大ファンであり、レコードを送りつけたところから、ギーガーも「同じ匂いを感じる」と親交がスタート。ギーガーがジャケを手がけたりして今に至るという。

ちなみに本作とは全然関係ないが、ニコラス・ケイジの『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』(2017年)で、劇中ケイジ扮する復讐鬼が自作する斧は、セルティック・フロストのロゴを模している。

 

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「おそろしい絵を描き続けることで、内なる恐怖心が和らぐんだ」

もちろんギーガー本人の数々のありがたきお言葉も大変興味深い。とくに、幼少期に魅了されたという博物館のミイラのエピソードはさすがだった。

幼ギーガーは、近所の博物館に展示されているミイラが怖くてしょうがなかったらしい。それを姉にバカにされてからというもの、その恐怖を克服するために毎週ミイラを見に博物館へ通い続けたという。そしてギーガーは言う「おそろしい絵を描き続けることで内なる恐怖心が和らぐんだ」。ギーガーは生涯にわたって恐怖と向き合い続けていたのだ。

語られる様々なエピソード、膨大な過去のインタビュー映像、貴重なものばかりが映しだされる本作だが、もっとも胸を打つのはサイン会のシーンだった。身体中タトゥーだらけのおっかない顔をした屈強な男が、生ギーガーを目の前に言葉を失い、胸がいっぱいになっている。そして彼は腕にサインをしてもらい、巨体を震わせて会場をあとにした。きっと彼はその足でタトゥースタジオに行き、ギーガーのサインを身体に刻んだんだろうな。

本作の撮影後、2014年5月12日にギーガーは74歳でこの世を去った。番組の終盤で放った「見たいものは見たし、やりたいことはぜんぶやった。心残りはない。幸せだった」という言葉。そんなことを言えるアーティスト人生とはいったいどういうものだったのか。このドキュメンタリーを観れば、その一端がちょっとだけ理解できるはずだ。

文:市川力夫

『エイリアン』CS映画専門チャンネルムービープラスで2022年1月ほか放送

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『DARK STAR/H・R・ギーガーの世界』

『エイリアン』の造形でアカデミー賞視覚効果賞を受賞したスイス出身の画家・デザイナーのH・R・ギーガー。その作品は世界中のアーティストを魅了し影響を与えてきた。創作の源泉となった、幼少期に頭蓋骨に触れた体験。さらに3人の女性のパートナーとの出会いや『エイリアン』誕生秘話も語られる。

制作年: 2014
監督:
出演: