「ジャッキーがいなければ、この映画は生まれていない」
アラフィフ世代(のたぶんほとんど全員)にとって最愛の映画人、ジャッキー・チェンの新作が劇場公開される。まずはそれが素直に嬉しい。
「ジャッキー・チェン50周年記念アクション超大作」というコピーも昔ながらのイズムを感じさせる本作のタイトルは『ライド・オン』。ここでジャッキーは伝説のスタントマンであるルオ・ジーロンを演じる。
訳あって貧しい暮らしを余儀なくされているルオ。離れ離れになっていた娘との再会を機に、愛馬チートゥとともにスタントの最前線にカムバックしていく――。父と娘の“家族愛のドラマ”であり、ジャッキーと馬の変則バディものでもあり、何より映画界を舞台に危険を顧みないスタントマン魂が描かれる。
監督はラリー・ヤン。前作『モフれる愛』(2019年)はペットをテーマにしたオムニバスで、決してアクション畑ではない。が、インタビューしてみると“ジャッキー愛”にあふれた人物だった。伝説の老スタントマンという役柄はジャッキー自身を思わせる。実際、本作はジャッキーありきでスタートしたそうだ。
脚本を書く前、プロットの段階でジャッキーと会って話すことができたんです。ジャッキーは物語の方向性を支持してくれ、そこから人物をどう描いていくかについて議論を深めました。だから本作の脚本は、私とジャッキーの共同創作と言えるもの。主人公のキャラクターも、いわばジャッキーの“オーダーメイド”です。ジャッキーがいなければ、そもそもこの映画は生まれていないんです。
そう語るヤン監督は1981年生まれ。ジャッキーの映画を初めて見たのは3歳の時だったそうだ。
確か『プロジェクトA』(1983年)だったと思います。覚えているのは、見ながらずっと笑っていたこと。それこそお腹が痛くなるくらいでした。ということは、3歳の子供でも内容が理解できたんですね。この経験は、自分が映画を作る時にも影響を与えています。ユーモアというものをいかに分かりやすく表現するか。映画監督として、そこを非常に大事にしています。
「“俳優ジャッキー・チェン”への期待は高まる一方なんです」
ジャッキーは今年で70才。初主演から50年というだけでなく『ドランク・モンキー/酔拳』(1978年)の日本公開から45年と節目が重なった。『ライド・オン』撮影時には68才。映画界のレジェンドと、若いヤン監督はどう向き合ったのだろうか。
何も心配はいりませんでしたね。ジャッキーはとても心の温かい人で、周りの人に対しても起きた出来事に対しても、常に受け入れる姿勢がある。我々としては、ジャッキーを前にすると萎縮しがちです。彼はそのこともよく分かっていて、プレッシャーを取り除くようなことを言ってくれました。常に後輩である私たちをサポートしてくれるんです。ジャッキーに「大丈夫、映画を作ることを楽しもう」と言われて、こちらも「大胆にやればいいんだ、面白い映画を作るためにはやっちゃいけないことなんてないんだ」と思えました。
撮影、照明、それに衣装とさまざまなセクションに顔を出し、スタッフを力付けたというジャッキー。アクションシーンにも精力的に取り組んでいる。
68歳といったら、普通に言えばお年寄りですよね(笑)。定年して老後を楽しんでいる年代です。でもジャッキーは、すべてのアクションを見事にやってのけました。また動きがことごとく美しい。芸術の領域というか、まるで舞踊でした。現場で見ていると「もしかしたら生の動きのほうが映像より美しいかも」と思いましたね。
もちろん心配もありました。やりすぎて怪我をしてはいけませんから。でもジャッキー自身が妥協を許さない。問題がなかったのでファーストテイクでOKを出した時も「ダメダメ、もっと完璧にやらなくちゃ」と。本当にカッコよかったですね。観客が見たいものが何か、誰よりも理解しているのがジャッキーなんです。
とはいえ、全盛期のような危険でド派手なアクションができるか(させられるか)といったら、それは当然「NO」である。これまでも「アクションは最後」と宣言した作品があった。この『ライド・オン』も、アクションだけでなくジャッキーの“老い”まで含めて味わう内容になっている。ただ、ヤン監督はそこにもジャッキー・チェンという俳優の可能性があると語ってくれた。
このところの作品で、ジャッキーの映画には明らかな変化があります。以前と比べて、アクションよりも芝居、人物描写の部分が増えている。それは、これまで見落とされてきた魅力ではないでしょうか。ジャッキーといえばアクション、クンフーのイメージですから。でも実際には演技力も素晴らしいものがあるんです。いわゆる演技派の俳優たちと比べても、何ら遜色がない。
今はアクションの割合が減ったことで、演技により力を入れることができている。これからは今までと違うタイプの役もできるでしょうし、イメージを覆すような作品を見られるかもしれない。そう考えると“俳優ジャッキー・チェン”への期待は高まる一方なんです。
『ライド・オン』
香港映画界伝説のスタントマンと言われたルオ・ジーロン(ジャッキー・チェン)はケガをきっかけに第一線を退き、現在は借金取りに追われながら中国の撮影所に住み込み、愛馬・赤兎(「チートゥ」)とエキストラなどの地味な仕事をこなす日々を送っていた。
ある日、チートゥの元持ち主であった友人ワン(レイ・ロイ)の債務トラブルが原因で、チートゥが借金の肩の一部として連れ去られる危機に。困ったルオは疎遠になっていた一人娘のシャオバオ(リウ・ハオツン)を頼る事にする。法学部の学生であるシャオバオは、恋人の新米弁護士ナイホァ(グオ・チーリン)を紹介。だがシャオバオは、スタントに入れ込むあまり母と離婚した父を受け入れられずにいた。
チートゥに惚れ込んだ大企業の総裁で馬好きのホー(ユー・ロングァン)が、チートゥを買い取りたいと申し出るがルオは請け合わない。昔ながらの体を張った危険なスタントに固執する父の姿に反発したシャオバオとも溝ができてしまう。結局は裁判で負け、チートゥをホーに譲る事になったルオ。シャオバオルオ。シャオバオは、仕事に命がけで挑むことで家族に愛を伝えようとする不器用な父の為に愛馬を返して欲しいとホーに懇願するが……。
監督・脚本:ラリー・ヤン
出演:ジャッキー・チェン リウ・ハオツン グオ・チーリン ユー・ロングァン アンディ・オン ジョイ・ヨン ユー・アイレイ シー・シンユー レイ・ロイ ウー・ジン
制作年: | 2023 |
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2024年5月31日(金)より全国公開