『キングコング2』を彷彿させる珍シーン「コングの虫歯治療」
いよいよ歯痛が限界突破したコングは地下空洞世界から地上にワープして、アイリーンやジアたちにSOSを要請。ここから映画は全長約102メートルの巨大怪獣の虫歯治療という、怪獣映画的には人跡未踏ゾーンに踏み込んだ映像がお披露目される。詳しい言及は避けるが、ワゴン車級サイズのコングの犬歯を、大掛かりなマシンを使って治療するシーンは、『キングコング2』(1986年)で描かれたコングの心臓移植手術シーンを凌駕する素晴らしい珍シーンになっているので期待してほしい。
ちなみにこのシーンはウィンガード監督のアイデア。彼が『サプライズ』(2011年)の撮影中、原因不明の歯痛を我慢しながら監督業を遂行しなければならなかった、というハードな体験を経て虫歯の恐ろしさが骨身に染みた結果、「怪獣も虫歯になったら大変なはずだ……。それなら『ゴジラxコング』で、コングの虫歯を治療するシーンを描こう!」と、ひらめいたという。
『ゴジラxコング』は観客がカタルシスを感じる映画にしたかった。歯医者に行って虫歯を治療してもらう行為は、誰もが共感できるスリルとカタルシスがある。それを全長103メートルのコングで描くことができれば、観客は度肝を抜くはずだ、と思ったんだ。このシーンは、僕が本作の監督を引き受けた時から描きたかった事なんだよ(笑)。
ウィンガード監督の真心とオタク心が炸裂した登場人物たち
映画史上最もスケールがデカい虫歯治療シーンで主治医を担当するのは、本作初登場のキャラで、モナーク所属の怪獣専門ドクター<トラッパー>。演じるダン・スティーヴンスは、ウィンガードが監督した「ナメてた相手が、実は殺人マシンでした!」サスペンス・ムービー、『ザ・ゲスト』(2014年)で主人公の殺人マシンを演じた御方。
『ザ・ゲスト』の後もダンには、また僕の映画に出演して欲しいと思っていたんだけど、なかなか実現できなくて……。だから、今回のトラッパー役はダンにしか演じることができないキャラクターにカスタマイズした。80年代のアクション・フィギュアのムードを漂わせたキャラクターにしようと思ったんだ。
……という惚れ惚れするくらいチャイルディッシュな意見を述べるウィンガード監督は、これまで何度も映画やコミックになってきたアメリカの人気フィギュア・シリーズ「G.I.ジョー」に登場する、ドレスコードが常に軍パン&アロハシャツという陽気なキャラ、チャックルズをトラッパーのキャラ作りのベースにした。
そんなウィンガード監督の熱意に応えたダンは、さらに『ロマンシング・ストーン 秘宝の谷』(1984年)でマイケル・ダグラスが演じた無鉄砲な冒険家ジャックと、『ゴーストハンターズ』(1986年)のカート・ラッセルが演じた陽気かつドジっ子なトラック運転手ジャックのキャラクターの要素もスパイス。かくして所ジョージ風ファッションの、普段はトボけた人間だがピンチの時には超頼りになる、おいしい新キャラが誕生した。
▂▅▇💥登場人物紹介💥▇▅▂
— 映画『ゴジラxコング 新たなる帝国』公式 (@GodzillaMovieJP) April 14, 2024
👤トラッパー
(#ダン・スティーヴンス/
日本語吹替:#宮野真守)
特務機関モナークに所属する獣医。
虫歯になったコングの歯の治療を行う。#ゴジラxコング pic.twitter.com/l1wL2JECTN
人間キャラを作る際、イイ意味で幼稚な感性をスパークさせるウィンガード監督のセンスは、他のキャラクターにも発揮されている。特に顕著なのが、前作『ゴジラvsコング』からの続投となる、ポッドキャストで怪獣絡みの陰謀論をシャウトし続けているバーニー・ヘイズ(ブライアン・タイリー・ヘンリー)だ。
▂▅▇💥登場人物紹介💥▇▅▂
— 映画『ゴジラxコング 新たなる帝国』公式 (@GodzillaMovieJP) April 11, 2024
👤バーニー
(#ブライアン・タイリー・ヘンリー/
日本語吹替:#尾上松也)
陰謀説を語り続けるポッドキャストのホスト。
アイリーンらとともに地下空洞へ向かうことに。#ゴジラxコング pic.twitter.com/utCB5O5AJu
彼は本作の初登場シーンで、ロバート・ギンティ主演の正義の処刑人ムービー『エクスタミネーター2』(1984年)のポスターアートがプリントされたTシャツを着用! この映画、一般的にはスルーしても無問題だが、「ナメてた相手が、実は殺人マシンでした!」ムービー的には大事な作品。2024年にIMAXスクリーンで『エクスタミネーター2』のポスターアートをアピールして、この映画の素晴らしさを少しでも後世に残そうとするウィンガード監督の志の高さには頭が下がる思いです!
他にも、バーニーの部屋のシーンでは『GODZILLA ゴジラ』(2014年)で主人公フォード・ブロディ(アーロン・テイラー=ジョンソン)が少年時代に暮らしていたの日本の自室に飾ってあった、架空の怪獣映画『カニラ対ハブラ』のポスターが貼ってあることも確認できる。
「カラフルで楽しかった昭和のゴジラ映画のような作品を目指している」
ウィンガード監督の信用できるチャイルデッッシュ感性は当然、人間パートだけでなく随所にわたりスパークしている。怪獣方面での話は後でたっぷり解説するとして、まず紹介しなければいけないのは『ゴジラvsコング』でも楽しませてくれた、まるで夜の新宿歌舞伎町やゴージャスなクラブのようなカラフルでまばゆいネオンカラーが特徴的なカラービジュアル。特にクライマックスの夜の香港でのゴジラ対コング戦は、いまだに繰り返し観てしまうほどウットリする仕上がりだった。
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本作も光の演出が見事。トラッパーやバーニーたち人間チームが地上から地下空洞世界へ旅立つシーンや、地下世界で妖しい光を放つクリスタル、金色の光をスクリーンいっぱいに放つモスラ、背びれや体表がピンク色に光るゴジラなど、うっとりしてしまうシーンが満載。
このカラフルでド派手なカラービジュアルについてウィンガード監督は、こう明かしている。
ビジュアルアーティストと話している時、この映画の色彩感覚は僕が子供だった頃、『戦え!超ロボット生命体トランスフォーマー』(1984~1986年)、『地上最強のエキスパートチーム G.I.ジョー』(1983~1987年)、『サンダーキャッツ』(1985~1989年)などが人気だった、1980年代のネオンカラーに彩られていたオモチャ売り場のムードを手本にして、とお願いしたんだ。当時は『トランスフォーマー』や『G.I.ジョー』などのオモチャの黄金期で、それらの作品から学んだセンスが今も僕の精神に深く根づいている。ゴジラ映画に出会ったのもこの頃だよ。
当時は昼間のテレビでいつもゴジラ映画が放映されていて、『怪獣大戦争』(1965年)、『三大怪獣 地球最大の決戦』(1954年)、『怪獣総進撃』(1968年)といったクラシックなゴジラ映画を楽しんだよ。これらの映画のテクニカラーのサイケデリックなムードは、80年代にオモチャ売り場のネオンカラーを浴びていた僕にはとても心地良いものだった。この頃の体験が僕が映画を作ることになった原点で、そこで培った感覚をモンスター・ヴァースの世界観に取り入れて、カラフルで楽しかった昭和のゴジラ映画のような作品を僕なりに目指しているんだ。
文:ギンティ小林
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