『ジョーズ』のヒットに続け! 完全便乗企画の熊パニック映画
1975年に公開されたスティーヴン・スピルバーグ監督の『ジョーズ』は、その純粋な面白さから世界中で大ヒットを記録した。それを受け、柳の下の二匹目のドジョウを狙うかのごとく急ピッチで製作、『ジョーズ』公開から約1年後に公開したのが本作『グリズリー』(1976年)だ。企画したのは、それまで激安マカロニ・ウエスタンや激安エロ映画を撮っていたプロデューサー、エドワード・L・モントロ。そのスピードは本家『ジョーズ』の続編よりも速いから恐れ入る。
『グリズリー』のお話は単純で、言ってしまえば『ジョーズ』の熊版。キャンプ客で賑わう国立公園で惨殺死体が見つかり、それが熊の仕業ということが判明。しかもその熊、体長5メートル・体重1トンという規格外のジャイアント仕様。タチの悪いことに人の味を覚えてしまい、どんどん人を食う。
そんななか、公園管理官のケリー(クリストファー・ジョージ)は、公園責任者のキットリッジ(ジョー・ドーシー)に公園閉鎖を求むが、キットリッジは利益重視でこれを拒否。そればかりかマスコミは呼ぶわハンターは呼ぶわで、人喰い熊を刺激。人喰い熊は人間たちのいざこざを尻目にどんどん人を喰っていく。そんな状況に業を煮やしたケリーは、「自然のことならなんでもおまかせ!」という自然のプロ(雑だけど本当にそう)である、スコット(リチャード・ジャッケル)ら数名で人喰い熊退治をはじめる!
本物の熊、使ってます! 低予算ならではの工夫や強引なお色気シーンで荒稼ぎ
この映画には、どうしても「B級」「便乗企画」というレッテルがまとわりつく。もちろんそれはそれで間違いない。だが、ある意味では『ジョーズ』以上に映画的魅力が溢れているのも事実だ。
まず『ジョーズ』は機械仕掛けの作りもののサメを使って撮影されていた。いっぽう本作に登場する人喰い熊を演じるのは、本物の熊! もちろん大がかりな仕掛けを作る予算がないから本物を使うしかなかったのだが、「本物の熊が出演!」という危険性は立派な宣伝材料となる。公開当時は「出演者とスタッフの計32名には960万ドルもの生命保険がかけられた」と伝えられた。真偽のほどは不明だが、デキる人間の仕事というのはこういうことだと思い知らされる。
当然、本物の熊を使ったことで演出面には制約が生まれる。しかし、これも『ジョーズ』と同じようになかなか姿を見せず、序盤はあくまで人間を追う熊主観という見せ方と、クローズアップの多用でカバー。さらに熊主観には『ジョーズ』のサメにはなかった「グルルゥ」という唸り声を足して、人喰い熊の息遣いを直接感じさせてくれる。一見どうでもいいことかもしれないけど、全然どうでもよくない。のちの『ハロウィン』(1978年)をはじめ、数々のスラッシャー映画に影響を与えたのでは? 後出しジャンケンにしてはかなり丁寧な仕事だ。
ほかにも、熊捜索中なのになぜか裸になって水浴びをおっぱじめる女性を出して(当然、熊に殺されてしまう)微妙なお色気シーンを入れたり、子どもが熊に襲われて片足がなくなるというショッキング極まりないカットを差し込んだりと、随所に「『ジョーズ』の上をいくんだ!」という気概を感じことができる。二番煎じとはいえ、とにかく好印象な作品なのだ。結果的に、本作は長らく「史上最も経済的に成功したインディペンデント映画」と呼ばれるほどの大ヒットを記録。製作費75万ドルの50倍は稼いだという。
今も映画マニアに愛される“ミスター二番煎じ”の代表作
そんな本作の監督ウィリアム・ガードラーはスティーヴン・スピルバーグの一つ歳下で、当時29歳。『ローズマリーの赤ちゃん』(1968年)の二番煎じ『アサイラム・オブ・サタン』(1971年)でデビューし、その後も黒人キャスト版『エクソシスト』の『アビィ』(1974年)など、とにかく二番煎じ映画で知られるミスター二番煎じだ。
ガードラー監督は31歳のときに事故で亡くなってしまったが、『エクソシスト』で始まって『スター・ウォーズ』で着地するという映画史に残る奇想天外さをみせる遺作『マニトウ』(1978年)は、未観ならなんとしても観てほしい。センス・オブ・ワンダーが炸裂し、本来映画が持つ禍々しさを存分に味わうことができるから。
最後に、本作『グリズリー』のDVDは廃盤で、中古でも狂った高値がつけられている。この機会を絶対にお見逃しなく!
文:市川力夫
『グリズリー[HDリマスター版]』はCS映画専門チャンネル ムービープラスにて2019年9月放送
https://www.youtube.com/watch?v=A12Z4ZgbK44
『グリズリー』
巨大な人喰い熊・グリズリーが襲いかかる!国立公園を舞台に、グリズリーと山岳レンジャーの熾烈な戦いを描く。
制作年: | 1976 |
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出演: |