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前科の消し方=自分のクローンを処刑!?『インフィニティ・プール』ブランドン・クローネンバーグ監督「あらゆる“欲求”はフェチ的」

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前科の消し方=自分のクローンを処刑!?『インフィニティ・プール』ブランドン・クローネンバーグ監督「あらゆる“欲求”はフェチ的」
『インフィニティ・プール』© 2022 Infinity (FFP) Movie Canada Inc., Infinity Squared KFT, Cetiri Film d.o.o. All Rights Reserved.
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「作り手と観客のコミュニケーションがエネルギーを生む。それこそが映画だよ」

―クローン生成や処刑シーンなどは相当手間をかけて撮影されたと思いますが。

やっぱり、プラクティカルな特殊効果を生み出すプロセスが好きなんだ。『アンチヴァイラル』の頃から組んでいるカメラのカリム・ハッセン(迷作ホラー『大脳分裂』[2000年]の監督でもある)と何ヶ月もかけて、いかに映像を歪ませるか色々と実験をしたよ。ガラスや液体越しに撮ったり、レンズに仕掛けをしたり、プロジェクション・フィードバック(一度撮影した映像を再撮影する)したりね。この実験過程も『インフィニティ・プール』の“言語”になっていると思う。

『インフィニティ・プール』© 2022 Infinity (FFP) Movie Canada Inc., Infinity Squared KFT, Cetiri Film d.o.o. All Rights Reserved.

―一方で、特殊効果を使わない場面での画角や小道具の設置はかなり計算されていますよね。たとえば前半に、壁を使ってスマホで撮影したような画角になる場面がありますが、これは後半、ジェームズがスマホで撮影されるシーケンスにつながっていたり……。

計算しているというより、ロケ地やキャストを決める前にショットリストは全部作り上げてしまうんだ。現場で調整はするけれどね。でも、僕たちが綿密に計算していても最後に作品を仕上げるのは受け手、つまり君たち“観客”だと考えている。

実は、君が言ったスマホの画角の話、いま初めて気がついたんだ(笑)。でも、そうやって映画が皆の解釈で完成していく。それが僕にとって一番満足感が味わえるところだよ。

『インフィニティ・プール』© 2022 Infinity (FFP) Movie Canada Inc., Infinity Squared KFT, Cetiri Film d.o.o. All Rights Reserved.

―監督は“映画”と“観客”の繋がりを信じてらっしゃるんですね。

もちろん。映画の作り手は観てもらうために映画を作っているからね。僕たちは「感じてほしい」ことを案内していると言っていい。もちろん100%分かってもらえるとは思っていないよ。だけど、表現したいもののリズムを奏でて、観客をのせる。ある種のコミュニケーションじゃないかな。

逆に観客は「これはどういう意図を持っているんだろう?」と思って観てくれていると思う。作品の構造を探って、意味を模索する。直接会うことは出来ない両者のコミュニケーションがエネルギーを生む。それこそが映画だよ!

撮影メイキング 『インフィニティ・プール』© 2022 Infinity (FFP) Movie Canada Inc., Infinity Squared KFT, Cetiri Film d.o.o. All Rights Reserved.

「クローンを沢山作って◯◯◯パーティーはするかも(笑)」

―キャストについて伺います。今回はミア・ゴスとアレクサンダー・スカルスガルドと、いつにも増してクセが強めでしたが。

僕はね、言葉では表現できない輝きを感じさせる、そしてスクリーンを爆発させてくれるような俳優が好きなんだ。だからキャスティングについては凄くシンプルなプロセスといっていい。僕の腹にドンっときた俳優に、それぞれの解釈で役柄を演じてもらうんだ。

実はね、撮影に入る頃には、自分の脚本に飽きちゃってるんだ……何回も書き直しているからね。だから彼らに、脚本に新たな息を吹き込んで欲しいっていうのもある。そうすると撮影がとてもスリリングになるんだ。ミアもアレックスも知っての通りの俳優だから、今回お願いしたんだ。

撮影メイキング 『インフィニティ・プール』© 2022 Infinity (FFP) Movie Canada Inc., Infinity Squared KFT, Cetiri Film d.o.o. All Rights Reserved.

―劇中音楽についてはどうでしょう? 今回はエクスペリメンタル・テクノで知られているティム・ヘッカーを起用しています。

ティムの音楽性が僕の映画のコンセプトにピッタリだったんだ。彼はアナログとデジタルが混在し、混沌とした様々な風景を隆起させるようなサウンドスケープを持っている。彼は映像作品をやらないのかな? と思っていたんだけど、実は『ポゼッサー』の制作陣が手掛けたTVシリーズ『北氷洋』(2021年)で既に映像作品を手がけていたんだ。それで仕事ぶりが素晴らしいと聞きかじってね。今回も良い仕事をしてくれたよ。彼は素晴らしいアーティストだ。

―最後の質問です。もし監督がリ・トルカ島に行ったらジェームズと同じことをします?

えっとね、あんなに残酷なことはしない……と思いたいよ(笑)。でも、クローンを沢山作ってセックスパーティーくらいはするかもね!(笑)。

ブランドン・クローネンバーグ (Photo by Rich Polk/Getty Images for IMDb)

――今回は敢えて、父デヴィッド・クローネンバーグや『インフィニティ・プール』の作品深掘りはしないインタビューを行った。

というのは、『アンチヴァイラル』も『ポゼッサー』も同様だが、『インフィニティ・プール』も色眼鏡無しで観てほしい、ブランドンが紡ぐリズムに身を委ね、混沌とした欲望に身を委ねてほしいからだ。これまでで一番分かり難い作品ではあるものの、一番尖った作品になっている。是非、異様なリズムを体感あれ。

取材・文:氏家譲寿(ナマニク)

『インフィニティ・プール』は2024年4月5日(金)より新宿ピカデリー、池袋HUMAXシネマズ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開

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『インフィニティ・プール』

高級リゾート地として知られる孤島を訪れたスランプ中の作家ジェームズは、
裕福な資産家の娘である妻のエムとともに、
ここでバカンスを楽しみながら新たな作品のインスピレーションを得ようと考えていた。
ある日、彼の小説の大ファンだという女性ガビに話しかけられたジェームズは、
彼女とその夫に誘われ一緒に食事をすることに。
意気投合した彼らは、観光客は行かないようにと警告されていた敷地外へとドライブに出かける。
それが悪夢の始まりになるとは知らずに……。

監督・脚本:ブランドン・クローネンバーグ
出演:アレクサンダー・スカルスガルド ミア・ゴス
    クレオパトラ・コールマン トーマス・クレッチマン

制作年: 2023