ブランドン・クローネンバーグの猛烈なフェティシズム
人間の欲望ってのはね、全てはフェティシズムから来ていると思っているんだ。それが“並”のモノなのか“苛烈”なモノなのか、程度の差はあれど脳から発せられる“欲求”は全てフェティシスティックなものさ。
ブランドン・クローネンバーグは自身の作品が描くフェティシズムについて淡々と語り始めた。
最新作『インフィニティ・プール』はブランドンのこれまでの作品、『アンチヴァイラル』(2012年)、『ポゼッサー』(2020年)よりも猛烈なフェティシズムを感じる作品となっている。
架空のリゾート地リ・トルカにやってきた夫婦、ジェームズとエム。スランプ真っ只中の小説家のジェームズはリゾートを楽しむわけでもなく、鬱屈とした表情。それにつられてエムも浮かない顔だ。そんな彼らに声をかけたのは、同じ旅行者のガビとアルバン。彼らはジェームズたちをドライブに誘う。海辺でノンビリと酒を飲んだ帰り道、彼らは人を跳ねてしまう。アルバンは“この国の警察は腐りきっているから自首はダメだ”と轢き逃げを提案。冷や汗をかきながらホテルに戻った一行だが、翌日ジェームズは逮捕されてしまう。
リ・トルカにおいて犯罪者は、押し並べて死刑だという。だが、独自の司法制度があり、罰金とともに自身のクローンを生成。そのクローンを処刑することで罪を帳消しにできるという。仕方なしに取引に応じるジェームズだが、自らのクローンの処刑を強制的に見せられたことにより、彼の中に“自分の処刑を観る”行為に特別な快楽があることに気がついてしまう。実はガビとアルバンは “処刑”をジェームズに経験させることが目的だったのだ。そして彼らは次々と犯罪を犯しクローン処刑を楽しむようになるのだが……。
「僕の映画は主観的なものだから、どうしてもフェチ的なものになる」
―これまでの作品すべてにフェティシズムを感じますが、やはり人を描くためには必須というお考えでしょうか?
キャラクターが“何か”に対して欲求を抱いていたり固執していたりするよね。例えば暴力だとしたら、血であったり、内臓的感覚のものであったりする。僕の映画は主観的なものだから、それを描こうとすると、どうしてもフェチ的なものになるんだ。
―心理を描く映画はたくさんありますが、監督は独特の表現をされますね。
僕の映画は内側に“めり込んだ”映画なんだ。心理の変容を追っていくために自分なりのフェティシズムに対するアプローチを提示して、観客にその内なる“変容”を理解してもらいたいと思いながら作っているよ。
―それを体感させるためにCGを多用せず、プラクティカル(物理)な特殊効果を多用しているのでしょうか?
それはあるね。もちろんCGを使うことに抵抗はないし、必要に応じて利用はするよ。でも、プラクティカルな特殊効果でしか得られない質感は絶対的なインパクトがある。それは僕にとっても観客にとってもベターなんじゃないかな。
『インフィニティ・プール』
高級リゾート地として知られる孤島を訪れたスランプ中の作家ジェームズは、
裕福な資産家の娘である妻のエムとともに、
ここでバカンスを楽しみながら新たな作品のインスピレーションを得ようと考えていた。
ある日、彼の小説の大ファンだという女性ガビに話しかけられたジェームズは、
彼女とその夫に誘われ一緒に食事をすることに。
意気投合した彼らは、観光客は行かないようにと警告されていた敷地外へとドライブに出かける。
それが悪夢の始まりになるとは知らずに……。
監督・脚本:ブランドン・クローネンバーグ
出演:アレクサンダー・スカルスガルド ミア・ゴス
クレオパトラ・コールマン トーマス・クレッチマン
制作年: | 2023 |
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2024年4月5日(金)より新宿ピカデリー、池袋HUMAXシネマズ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開