筋金入りのプロレス者! ショーン・ダーキン監督インタビュー
子供の頃に見ていたのはWWF(現WWE)。<レッスルマニア>3から8の時代が最高でしたね。
ダーキン監督は、インタビューでそう語ってくれた。1981年生まれ、<レッスルマニア3>が1987年だから相当に年季の入ったプロレスファンだ。
でも本当に興味があるのは、70年代から80年代初頭のプロレスなんです。各テリトリーにプロモーターがいて(その連合体である)NWA世界王者が最高の権威だった時代。
極彩色でド派手なWWF/WWEに対し、当時のプロレスからは「荒々しくてザラついた雰囲気を感じました」とダーキン監督。本作はフィルムで撮影されており、プロレスの試合シーン以外でも“時代の空気感”が見事に焼き付けられている。
もちろん、試合シーンが大きな見どころなのは間違いない。ケビンを演じるザック・エフロンはじめ、エリック兄弟を演じる俳優たちは肉体改造をほどこし、ほぼスタントなしで70~80年代のプロレスを再現してみせた。
プロレスはショーであり、でも肉体がぶつかり合っているのはリアル。その“痛み”を伝えるためにも、俳優たちに試合シーンを演じてもらうのは大事でした。
「呪われたプロレス一家」の子供たちは今、なぜリングに立つのか
ブルーザー・ブロディやリック・フレアーといった日本でもおなじみのレスラーたちも劇中に登場、そういう面でもプロレスファンは目が離せない。ちなみに監督が好きなレスラーを聞いてみると……。
ブレット“ヒットマン”ハートですね。そのスタイル、佇まいに共感できるものがあったんです。
個性的なキャラクターが山ほどいるWWFにあって、ブレットは大スターであり実力派。口よりも試合で魅せるタイプだった。『アイアンクロー』で中心となるケビンもマイクアピールが下手だった。筆者のリアルタイムの記憶でも、兄弟の中で特に華があったのはデビッドとケリーだ。
自己主張が絶対に不可欠なプロレス界に、もしかするとケビンは向いていなかったのかもしれない。だからこそ、ケビンは父の影響下から、あるいは“有害な男らしさ”から距離を取っていく。
ただ、エリック家の物語には続きがある。本作にも登場するケビンの息子たちは、現在プロレスラーとして活躍しているのだ。それは一族の宿命なのか? 監督の解釈はこういうものだ。
(ケビンの息子)ロスとマーシャルには映画にもカメオ出演してもらい、仲良くなりました。だから言えるのですが、ケビンは父フリッツとは違う形の子育てをしたんです。その上で彼らはレスラーになった。そこが大事なんだと思います。
プロレスというワイルドな世界での悲劇を描きながら、『アイアンクロー』はセンセーショナリズムを武器にはしていない。プロレスを深く理解するダーキン監督がエリック兄弟に向けるまなざしはあくまで優しく細やかだ。過酷な父と子の物語の中で描かれる、ファンタジックな“救い”の場面にも注目してほしい。
取材・文:橋本宗洋
『アイアンクロー』は2024年4月5日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほかロードショー
『アイアンクロー』
1980年初頭、プロレス界に歴史を刻んだ“鉄の爪”フォン・エリック家。父フリッツ(ホルト・マッキャラニー)は元AWA世界ヘビー級王者。そんな父親に育てられた息子の次男ケビン(ザック・エフロン)、三男デビッド(ハリス・ディキンソン)、四男ケリー(ジェレミー・アレン・ホワイト)、五男マイク(スタンリー・シモンズ)ら兄弟は、父の教えに従いレスラーとしてデビュー、“プロレス界の頂点”を目指す。しかし、デビッドが日本でのプロレスツアー中に急死する。さらにフォン・エリック家はここから悲劇に見舞われる。すでに幼い頃に長男ジャックJr.を亡くしており、いつしか「呪われた一家」と呼ばれるようになったその真実と、ケビンの数奇な運命とは――
監督・脚本:ショーン・ダーキン
出演:ザック・エフロン、ジェレミー・アレン・ホワイト、ハリス・ディキンソン、モーラ・ティアニー、スタンリー・シモンズ、ホルト・マッキャラニー、リリー・ジェームズ
制作年: | 2023 |
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2024年4月5日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほかロードショー