A24が放つ“プロレス映画”の新たな傑作
現在の映画界で最も勢いのあるスタジオ<A24>から、プロレス映画の新たな傑作が誕生した。
『マーサ、あるいはマーシー・メイ』(2011年)などで知られるショーン・ダーキン監督の最新作『アイアンクロー』のモデルになったのは、名レスラーだったフリッツ・フォン・エリック(演:ホルト・マッキャラニー)とその息子たち。得意技でありキャッチフレーズでもある“アイアンクロー=鉄の爪”は、プロレスファン以外にも知られているのではないか。
フリッツは息子たちを鍛え上げ、自身の団体・WCCWで活躍させる。最大の目標は、自分が獲得できなかった業界最高峰、NWA世界チャンピオンのベルトを息子に巻かせることだ。実際、四男ケリー(演:ジェレミー・アレン・ホワイト)が王者となっている。
On May 6, 1984, Kerry Von Erich won the NWA Worlds Heavyweight Championship from Nature Boy Ric Flair in front of 40,000 people in Irving, TX. #TenPoundsOfGold pic.twitter.com/P6XSe61eIA
— NWA (@nwa) May 6, 2020
なぜ名門プロレス一家は「呪われた一族」と呼ばれたのか?
そんな名門ファミリーは“呪われた一族”としても知られることになってしまう。三男デビッド(ハリス・ディキンソン)は日本遠征中に急死。ケリーはバイク事故で右足を切断、義足で復帰したものの拳銃自殺という最期を迎えた。さらに五男マイク(演:スタンリー・シモンズ)も服薬自殺。
兄弟で今も存命なのは次男ケビン(演:ザック・エフロン)だけ。長男ジャック・ジュニアは幼少期に事故で亡くなり、(映画では描かれていないが)六男クリスも自殺している。
悲劇の背景として映画が突きつけるのは、父フリッツの“強さ”、“男らしさ”。彼の息子たちへの愛情とは、一流のレスラーに育てることでしかない。それぞれに対する期待値に順位づけをし、リングで結果を出しても誉めるより先に課題を指摘する。
デビッドの葬儀の日ですら、悲しみにくれる息子たちに「サングラスを外せ。男なら顔を隠すな」と言い放つ父エリックに、ケビンたちの心は引き裂かれる。それでもなお父を尊敬し、兄弟を愛してプロレスに打ち込むしかない。
A24はアカデミー作品賞を受賞した『ムーンライト』(2016年)、アリ・アスター諸作、ヨルゴス・ランディモスの『ロブスター』(2015年)に『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』(2017年)など、どんなジャンルでも斬新で作家性の強い作品を多数、製作してきた。
この『アイアンクロー』も、まさしくA24作品。“プロレス映画”でありつつ、濃厚な家族のドラマを描き出す。
『アイアンクロー』
1980年初頭、プロレス界に歴史を刻んだ“鉄の爪”フォン・エリック家。父フリッツ(ホルト・マッキャラニー)は元AWA世界ヘビー級王者。そんな父親に育てられた息子の次男ケビン(ザック・エフロン)、三男デビッド(ハリス・ディキンソン)、四男ケリー(ジェレミー・アレン・ホワイト)、五男マイク(スタンリー・シモンズ)ら兄弟は、父の教えに従いレスラーとしてデビュー、“プロレス界の頂点”を目指す。しかし、デビッドが日本でのプロレスツアー中に急死する。さらにフォン・エリック家はここから悲劇に見舞われる。すでに幼い頃に長男ジャックJr.を亡くしており、いつしか「呪われた一家」と呼ばれるようになったその真実と、ケビンの数奇な運命とは――
監督・脚本:ショーン・ダーキン
出演:ザック・エフロン、ジェレミー・アレン・ホワイト、ハリス・ディキンソン、モーラ・ティアニー、スタンリー・シモンズ、ホルト・マッキャラニー、リリー・ジェームズ
制作年: | 2023 |
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2024年4月5日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほかロードショー