今までのジャッキーはどこへ⁉ 虚ろな目で不気味に復讐し続けるジャッキー
「死んだような目をしたジャッキー・チェンのアクション映画がスゴい」と、話題になった『ザ・フォーリナー/復讐者』(2017年)。
無差別テロで娘を失い、自らの手で実行犯に復讐すべく、それを阻む者を黙々と“仕置”する中華料理レストランのオーナー、クァン(実は元特殊部隊員でゲリラ戦のプロ)を演じるジャッキーは、もはや人間ではなく神出鬼没の幽霊といった不気味さを漂わせていた。
シリアスアクションでもアクションコメディでも、人間味のあるキャラクターが持ち味の彼だけに、虚ろな目で復讐を遂行するクァンの姿には戦慄すら覚えた。
ポリティカルスリラー色の強いストーリー展開や、見方によっては武力による復讐よりも容赦がない、映画終盤のある人物への罪の償わせ方などは、ハードな社会派スリラー「刑事ロニー・クレイブン」(TVミニシリーズ/1985年)やその映画版リメイク『復讐捜査線』(2010年)を撮ったマーティン・キャンベル監督らしさが出ていたように思う。
このようにアクション映画として異質なトーンを持った本作であるから、『ドライヴ』(2011年)や『ネオン・デーモン』(2016年)の作曲家クリフ・マルティネスが音楽を担当したことにも大いに納得がいった。
心が壊れた哀しみを表し“ジャッキー無双”に高揚感をもたらすシンセサウンド
スティーヴン・ソダーバーグやニコラス・ウィンディング・レフンらの監督作品でスタイリッシュなシンセ・スコアを作曲し、個性派監督たちから重用されているマルティネスは、サスペンス/スリラー映画の音楽を得意とする作曲家として知られていた。繊細かつアブストラクトなサウンドが特徴であるがゆえに、アクション映画には不向きと思われていたが、彼に対するそんな認識が変わってきたのが、前述の『ドライヴ』や『友よ、さらばと言おう』(2014年)、あるいはシューティング・ゲーム『Far Cry 4』(2014年)の音楽だったのではないかと思う。
今回マルティネスは「心が壊れ、感情を失ってしまった男の凄絶な戦い」という難しいシチュエーションを、深遠なアンビエント・テクスチャーと低音のパルス、エッジの効いたリズムを織り込んだシンセサイザー・サウンドで見事に描き出している。
感傷に流されないクールネスに貫かれたスコアでありながら、娘を失った父親の悲しみを抑制の効いたトーンで観客に伝え、要所で炸裂する“ジャッキー無双”に高揚感をもたらし、北アイルランド副首相ヘネシー(ピアース・ブロスナン)が直面する泥沼の状況をも示唆してみせる。
感情が消えた男たちを音楽で演出し続けた作曲家
思えばマルティネスは、過去の作品でも「感情が消えた男」の複雑な内面を描いてきた。思いを寄せた人妻とその息子を守るため、マフィアを相手に孤独な闘いに身を投じていく『ドライヴ』の名もなきドライバー(ライアン・ゴズリング)。
娘の死の真相を探るため、英国からはるばるLAまでやって来た『イギリスから来た男』(1999年)のウィルソン(テレンス・スタンプ)。神に代わって悪党に裁きを下す『オンリー・ゴッド』(2013年)の謎の男チャン(ヴィタヤ・パンスリンガム)と、彼に挑む男ジュリアン(ライアン・ゴズリング)。
寡黙な彼らは皆一様に虚無的で、ある者は深い悲しみを心に秘め、またある者は目の中に静かな狂気を宿らせていた。静かさと激しさ、そして悲しさと危うさ――対照的とも言えるこれらの要素をミステリアスな電子音で同時に描けてしまうクリフ・マルティネスは、まさに「鬼才」と呼ぶにふさわしい作曲家である。
文:森本康治
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『ザ・フォーリナー/復讐者』
優しい人が、最恐。
娘を亡くした失意の中、復讐を誓った男により、様々な陰謀が暴かれてゆく!
制作年: | 2017 |
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監督: | |
出演: |
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