「朝鮮の歴史に興味を持ってほしかった」
―ドラマともサスペンスともホラーとも思えるエンターテインメント映画でした。とても楽しんで拝見しました!
ありがとう!
―もともと「盲目の主人公が何かを“目撃”する」というプロットから脚本を作り上げていったとのことですが、歴史物となったきっかけは?
最初、私に提示されたプロットがそれだったんだ。盲目といっても特殊な病気でね(※ストーリーに関わるため、詳細明記は避けます)、これが凄く興味深くて。この病に合う物語を模索したところ「仁祖実録」にある、ソヒョンの死にたどり着いた。ソヒョンの死は朝鮮史において“最大の謎”と言われていて、その謎を追いかけるように物語を作り上げていったんだ。
―その物語ですが、前半と後半で雰囲気が一変します
知っての通り、雰囲気がガラリと変わるスイッチとなるのは、主人公ギョンスがソヒョンの殺害を目撃するところだ。観客にはそのスイッチが入ったことを体感してほしかった。なぜならギョンスも目撃前と後で全く人生が変わってしまうよね。それを観客の皆さんと共有する形にしたかったんだ。演出で重きをおいた部分は、とにかくギョンスの視点と観客の一体化だね。
―夜のシーンの美しさやメインビジュアルである針の恐ろしさが見事でしたが、どのようなこだわりがありますか?
「とにかく楽しんでほしい」が最優先だったよ。その裏では、朝鮮の歴史に興味を持ってほしかった。映画を見終わったあと、歴史について見聞きすることに関心が向けばいいという思いがあった。だから少し物語に隙間を持たせているんだ。
「監督がスタッフと役者の言うことを聞いていれば巧く撮れる(笑)」
―イ・ジュンイク監督の『王の男』(2006年)では助監督を務めていらっしゃいましたが、本作を撮るにあたって、イ監督からアドバイスなどはありましたか?
イ監督からは「映画はね、監督がスタッフと役者の言うことを聞いていれば巧く撮れるんだよ」とアドバイスを受けたよ(笑)。彼には映画を撮る前に脚本を渡したんだけど、「これは面白くない」と一蹴されたんだ……。でも、完成した作品を観てもらったら「面白いね!」と言ってくれたよ(笑)。
―『王の男』から17年経って、ようやく長編監督デビューとなりました。かなりの期間がありましたが、苦労されましたか?
もう毎日が試行錯誤だったよ。「これだ!」という苦労は思い出せないけど、いつもカフェに行ってシナリオを書いて……の繰り返し。たぶん、普通の人と同じようにルーチン的に淡々と続けていた感じかな。
―俳優への演技指導はどのようなものでしたか?
イ監督からのアドバイスにもあったけど、撮影に入る前からキャストとのコミュニケーションを重要視したんだ。もちろん、リハーサルでも本番でもとにかく会話をして調整していく形式を取った。でもね、みんな演技が上手いから私は「単純にいいテイクを繋げればいい」といった感じでね。本当に恵まれていたと思うよ。
「黒澤明監督をはじめとした“日本の巨匠”の映画をよく観ていた」
―ところで普段、日本の映画はご覧になられますか?
映画の勉強をしていたころは黒澤明監督をはじめとした“日本の巨匠”の映画をよく観ていたね。最近では是枝裕和監督の『怪物』が印象的だったかな。
―本作も『王の男』も歴史物でしたが、本作のどこかファンタジックな雰囲気から、監督はSFがお好きなんじゃないかと思うのですが、いかがですか?
逆に聞きたいんだけど、どのあたりからそう思ったの?
―毒殺のシーンや盲目の幻想的な演出部分です
なるほど、うん。実際にSFには関心があるよ。実は、次に撮ろうと思っている作品は人工知能を扱ったアクションスリラーなんだ。まあ、言い換えればSFモノといってもいいよね。だからいま、人工知能SFの原点『2001年宇宙の旅』(1968)を繰り返し観ているところだよ!
監督が話す通り、『梟―フクロウ―』は歴史物だがSFスリラー好きにもアプローチできるポテンシャルを持ち合わせている作品だ。目に針が突きつけられたメインビジュアルにピンときたら、ぜひ劇場に足を運び、盲目の鍼師が“目撃”する恐ろしい事件を体感してみてほしい。
取材・文:氏家譲寿(ナマニク)
『梟―フクロウ―』は2024年2月9日(金)より全国公開
『梟―フクロウ―』
盲目の天才鍼師ギョンスは病の弟を救うため、誰にも言えない秘密を抱えながら宮廷で働いている。しかし、ある夜、王の子の死を“目撃”し、恐ろしくも悍ましい真実に直面する。見えない男は、常闇に何を見たのか? 追われる身となったギョンスは、制御不能な狂気が迫る中、昼夜に隠された謎を暴くために闇夜を駆ける――
絶望までのタイムリミットは、朝日が昇るまで。
監督:アン・テジン
出演:リュ・ジュンヨル ユ・ヘジン
制作年: | 2022 |
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2024年2月9日(金)より全国公開