格闘家としての集大成!『フィスト・オブ・ザ・コンドル』始動
ロドリゲスによってアクション映画スターの情熱を取り戻したマルコは、その後、インド映画『Sultan』(2016年)、マーベルコミック原作のTVドラマ『ザ・ディフェンダーズ』(2017年)の第1話、『マチェーテ・キルズ』で仲良しになったダニー・トレホ主演のスーパーヒーロー・コメディ映画『The Green Ghost』(2018年:アクション監督も兼任)、ハリウッドでトップクラスの射撃スキルのオーナーであるジョニー・ストロングと共演したSFアクション『アルティメット・ソルジャー』(2020年)等の作品に出演し、ワールドワイドな活躍を見せた。
もちろん高校時代からの朋友エルネスト監督とチリ産アクション映画も制作している。コンビの4作目となる『ザ・リディーマー』(2014年)では正義の仕置人を演じるマルコが、総合格闘技を導入した格闘アクションを披露してくれている。マルコのアクションスターへの道は順風満帆に思えた。
が、しかし……彼の映画街道に大きな壁が立ちふさがった。2020年にはじまった新型コロナウイルス感染症の蔓延によるロックダウンである。隔離生活を送ることになったマルコは、映画が作れなくなった時間をトレーニングと瞑想に費やした。そんな生活を送るうちに彼は、ある考えにとらわれるようになる。
「このまま世界は終わりに向かってしまうかもしれない。もう映画を作ることはできないのでは……」
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そんなことを考えているうちに、マルコは大胆なアイデアを思いつく。
「今こそエルネストと映画を作ろう! 映画館で上映できないのなら、YouTubeで配信できる作品を作ればいい! そして次に作る映画は、チリで生まれた武道家としての僕の集大成となる作品にしよう!」
このアイデアにエルネストは、またしても賛同。かくしてエルネスト監督・マルコ主演の5作目となる『フィスト・オブ・ザ・コンドル』が動き出した。
カンフー映画愛が炸裂した『フィスト・オブ・ザ・コンドル』の魅力
この映画にマルコは、格闘家として培ってきたすべて――武道家としてのスキルだけでなく、武道から学んだ哲学やトレーニング法、最強の肉体を維持するための栄養学、そしてブルース・リーを筆頭とする影響を与えてくれた人たちへの敬意――を叩き込む覚悟でいた。
監督・脚本のエルネストと話し合った結果、格闘家マルコの集大成にふさわしい映画にするため、二人が大好きなカンフー映画愛が炸裂した作品に、デビュー作『Kiltro』(2006年)以上に2人が大好きなカンフー映画愛を炸裂させつつ、チリでしか作れない南米文化をスパイスしたカンフー映画にすることが決定した。
マルコは、カンフー映画の大事な要になる俺ジナル拳法を、チリの国旗に描かれたコンドルをモチーフにすることにした。かくして、「インカ帝国の時代に誕生した必殺の戦闘術」という燃える設定の<コンドル拳>が誕生。本作の武術指導も担当するマルコが編み出したコンドル拳の独特な構えは、映画を観たらイイ歳した大人でも真似したくなる俺ジナリティあふれるカッコよさに満ち溢れている。
そんなエキセントリックな必殺技を体得するために映画では、コンドル拳の修行者マルコが、ジャッキー・チェンの『モンキー』シリーズや70年代ショウブラザーズ映画にリスペクトを込めた特訓をするシーンがいっぱい描かれる。劇中で描かれる数々の特訓メニューのひとつひとつがマルコの武道哲学が注入されたシーンになっているのだが、今どき、凡人の日常生活では絶対に必要がない木製の特訓道具が置かれた野原で、常軌を逸した特訓に明け暮れる屈強な男の姿をスクリーンで拝めるなんて……とにかくカンフー映画の特訓シーン好きが観たらスクリーンに土下座したくなるほど素晴らしいシーンの連続コンボになっているので、期待に胸をパンパンにしていてください!
特訓シーンが多いことからも察することができるように、本作は今どき珍しいくらい超ストイックな映画に仕上がっている。劇中、スキンヘッドにしたことでストイック風味が倍増したマルコ演じる主人公には、『エクスペンダブルズ』のように戦いの後に打ち上げをする仲間はいないし、『ワイルドスピード』のようにファミリーと呼べる親友もいない。双子の弟がいるが、ある理由から彼を恨み、すべてを奪おうとしている……というストイックなだけでなくハードコアな境遇も背負っている。
16世紀のインカ帝国滅亡後、何世紀にもわたり一人しか奥義を継承することができないコンドル拳の秘伝書をめぐり、コンドル拳を修行する戦士(マルコ・サロール)が、双子の弟(マルコ:二役)が率いる格闘家たちと激闘を繰り広げる、という時代錯誤な展開がサイコーに骨太な物語だ。
カンフーの源流!? ヨガみたいな格闘技「カラリパヤット」とは
特訓シーンが素晴らしいことは書いたが、カンフー映画なんだから一番気になるのは格闘シーン。本作のためにマルコは、アクション映画としては珍しい格闘技を使う格闘家を起用。カンフーのルーツとも言われている南インドの伝統武術、カラリパヤットだ。その武術の使い手として出演するエヤル・マイヤーの経歴が独特すぎるので紹介させてください。
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1985年生まれの彼はカラリパヤットのインストラクターをしているが、本職は俳優。チリでは有名俳優である彼の専門はシリアスなドラマやメロドラマ。チリでトップクラスのカラリパヤット使いなのに、これまで格闘アクション映画に出演したことは一度もない……という一時期の岡田准一を思わせる宝の持ち腐れ状態だったところ、マルコから熱いオファーを受けて本作に出演することになった。
マルコの身体能力でなければ体現することができないトリッキーかつアクロバティックなコンドル拳と、ヨガがアグレッシブになったような独特な動きで予測不能な技を繰り出してくるカラリパヤットの対決は、ぜひスクリーンで堪能してほしい!
二人は対決前、『ドラゴンへの道』(1972年)のブルース・リーVSチャック・ノリスのようなウォーミングアップを披露。ストイックなムード満載に描かれているが、「ブルース・リーが好きすぎて仕方がない!」というマルコたちの心の声が聞こえてくるようなシーンになっている。
僕の部屋には今でもブルース・リーのポスターが貼ってあるし、海外で撮影する時には必ずブルース・リーのポスターを持っていくんだよ!
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この想いからもわかるようにチリ映画『フィスト・オブ・ザ・コンドル』は、主人公が常軌を逸した修業の果てに強くなり、クライマックスではトリッキーな戦闘スタイルで宿敵と戦う――という、カンフー映画を愛する人にとってはたまらない、カンフー映画の魂を継承する作品! ぜひ、劇場で観戦してください!
そして最後にひとつ、『フィスト・オブ・ザ・コンドル』の劇場用パンフレットに、今回の原稿とは違う切り口で作品の魅力を解説する原稿を書かせてもらったので、よかったら読んでみてください!
文:ギンティ小林
『フィスト・オブ・ザ・コンドル』は2024年2月2日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
『フィスト・オブ・ザ・コンドル』
16世紀、コンキスタドールの侵攻によりインカ帝国が崩壊。必殺戦闘術「コンドル拳」について書かれた神聖な書物は隠され、コンドル拳の継承者によって何世紀にも渡り大切に守られてきた。
幻の道場で、コンドル拳の師から学んだ戦士は師匠から継承者に選ばれるが、双子の弟に全てを奪われてしまう。手引書を狙う猛者たちからの、弟の手下からの追われる身となった男は、壮絶な闘いに身を投じていくこととなる...。
闘いの火蓋が、今、ここに切られた!
監督・脚本:エルネスト・ディアス=エスピノーサ
出演:マルコ・サロール、ジーナ・アグアド
制作年: | 2023 |
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2024年2月2日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開