映画・ファッション・音楽業界の一流が集結した話題作
『君の名前で僕を呼んで』『サスペリア』のルカ・グァダニーノ監督の最新作『The Staggering Girl』は、ジュリアン・ムーア、カイル・マクラクラン、マルト・ケラー、ミア・ゴス、アルバ・ロルバケルら贅沢なキャストを集めて撮影した37分の中編で、「ヴァレンティノ」オートクチュールのクリエイティブ・ディレクターであるピエールパオロ・ピッチョーリがコスチュームを担当し、音楽はグァダニーノがファンだという坂本龍一が手がけている。残念ながら坂本はカンヌに来られなかったものの、ピッチョリとグァダニーノ、さらに主演のムーアとケラーが駆けつけ、記者会見をおこなった。
企画の発端は、ピッチョーリとグァダニーノ、若手脚本家のマイケル・ミトニックの間で持ち上がった話だとか。グァダニーノは、「僕は長年ピエールパオロのファンなんだ。あるときピエールがショーに招待してくれて、マイケルと一緒に観に行ったところ、僕らはすっかり感動して、彼の洋服を使って何かやりたいという話になった。それで3人で話し合っているうちに本作のアイディアが生まれたんだ」と語った。
ピッチョーリは、「ストーリーは3人で話し合っているうちに自然に出てきたんだよ。僕はファッショについての映画にしてもらいたくはなかった。ドレスやアクセサリーを見せることに興味があったわけじゃない。僕の興味は、エモーションと夢が与えるパワフルなインスピレーション、そして表現の自由だった。それは洋服を作る上でも同じだ。ファッションはこの映画において要素のひとつであって、あくまでキャラクターをよく表現するものに過ぎない。みんなでどんなキャラクターにするか、ということを考えたとき、パゾリーニの『王女メディア』やギリシア神話のようなイメージが浮かんだ。このプロジェクトの一部に加われたのは本当に光栄だったよ」と明かした。
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物語は、画家の母を持ち、今はニューヨークで作家として生活している娘が、久しぶりにイタリアにいる母を訪ねるという設定だ。我儘でアーティスティックな母親に大人になっても振り回されている娘の、母に対する複雑な感情をベースに、フラッシュバックや幻想的なシーンを混ぜながら、ひとときの夢のような詩情のある作品になっている。コスチュームはすでにあるヴァレンティノのコレクションから選ばれているが、坂本はわざわざ同じ生地を使って、衣擦れの音を連想させるような音楽を仕上げたという。
ムーアが本作への出演の理由を、「ルカとピエールパオロの仕事を普段からとても敬愛していたので、純粋に興味と楽しみのために、すぐにやりたいと思ったの。マルトと共演できたことも素晴らしい経験だった」と語れば、ケラーも、「脚本を読む前にやると決めていたわ。ふたりとも才能に溢れた人材だし、ジュリアンと共演できるのも楽しみだったし、中編だから撮影も短いと思ったから(笑)。実際撮影は4日だけだったけれど、素晴らしい時間を過ごすことができた。話全体をよく理解できたかどうかわからないけれど(笑)、キャラクターにとても共感できたし、何よりこの才能ある集団に参加するこができただけで光栄だった」と、そのユニークな体験を振り返った。
「The Staggering Girl」は、中編というフォーマットゆえに今後どんな形で本作が一般に披露されるのかはわからないが、アーティスティックな作品であるだけに、美術館などで映像のインスタレーションのように発表しても面白そうである。
写真・文:佐藤久理子
カンヌ映画祭スペシャル2019
<日本オフィシャル・ブロードキャスター>CS映画専門チャンネル ムービープラスにて
2019年5月25日(土)カンヌ映画祭授賞式 日本独占生中継ほか、受賞作&関連作計6作品放送