エマ・ストーンとヨルゴス・ランティモスが語る
まるで脳みそが吹き飛ばされるような、衝撃的な作品だ。『哀れなるものたち』を観た観客は、この監督の頭のなかを覗いてみたいと思うに違いない。
アラスター・グレイのゴシック小説を、『ロブスター』(2015年)『女王陛下のお気に入り』(2018年)で知られるヨルゴス・ランティモス監督が映画化した本作は、どこを切り取っても斬新なアートワークと言える。天才外科医により蘇った女性ベラは、偏見や因習をなぎ倒しながら、世界を知るための旅に出る。
プロデュースも引き受け、惚れ惚れするほどパワフルな演技を見せるエマ・ストーンとランティモス監督に、文字通り奇想天外な本作について語ってもらった。
「彼女はどんなトラウマも持ち合わせていない」
―『女王陛下のお気に入り』に続くおふたりのコラボレーションは、驚くほど大胆でアーティスティックですが、どのようにして始まったのでしょうか。
ヨルゴス・ランティモス:彼女とは初めて会ったときからウマがあった。『女王陛下~』を作るまで2、3年掛かったから、撮り始める頃にはとても親しくなったし、なんでも話し合うようになっていた。実際あの作品の経験がとても楽しかったから、自然に次も一緒にやろうという感じになった。それで僕の方からアラスター・グレイの原作を提案したんだ。彼女とは、そんなに話し合う必要すら感じない。ただ頷いたり、ジェスチャーだけで通じてしまうところがある。時間やエネルギーを節約できる。(エマに)そうだよね?
エマ・ストーン:お互い本当に信頼し合っているし、理解している。それに、アーティストとしてリスペクトと憧憬があると思う。わたしから見て、彼は監督として、コラボレーターとして完璧に信頼できるから、すべてを出し切れるし、安全な手の中にいると思える。何より一緒に仕事をするのがとても楽しい。それに彼はスタッフとも、時間を掛けてそういう信頼関係を築いていて、それが現場でも感じられる。
―あなたの演じるベラ・バクスターは、外科医(ウィレム・デフォー)の手により蘇生した後、赤子のようにすべてをゼロから学び、因習にとらわれることなく、最終的に自立した逞しい女性に成長します。その長いプロセスを演じるにあたって、どのようなアプローチをしましたか?
エマ:なるべく羞恥心や先入観を取り払うように心がけた。それこそベラにはないものだから。立ち振る舞いやどのような喋り方をするかというのは、ものすごく研究して生み出した。それによって、彼女の成長ぶりが逐一わかるようにね。
でも何よりも大事なのは手綱を緩めるというか、自然に身を任せることだった。というのもベラは好奇心の塊で、喜びに満ち、どんなトラウマも持ち合わせていないから。考えることなしに条件反射的に反応する。そういうキャラクターを演じるのは素晴らしい経験だった。彼女にとってはすべてが新しい経験。演じる上でそれを忘れないようにしていた。
―ベラのキャラクターについて、何か参考にしたものはあったのでしょうか。
ヨルゴス:これまで見たことがないようなキャラクターにしたかったから、とくに参考にしたものはなかった。ある時点でエマに、ヴェルナー・ヘルツォークの『カスパー・ハウザーの謎』(1974年)を観てくれと言ったけれど、ただ人間らしさとはかけ離れたユニークなものという点で、インスピレーションになればと思っただけで。
エマ:“真似をする”という意味じゃなく。
ヨルゴス:そう。僕らはむしろリハーサルを沢山して、ベラのような人間はどう動いたり反応するだろうと想像しながら作りあげていった。
『哀れなるものたち』
自ら命を絶った不幸な若き女性ベラ(エマ・ストーン)が、天才外科医ゴッドウィン・バクスター(ウィレム・デフォー)の手によって奇跡的に蘇生することから始まる。蘇ったベラは“世界を自分の目で見たい”という強い好奇心に導かれ、放蕩者の弁護士ダンカン(マーク・ラファロ)の誘いに乗り、壮大な大陸横断の冒険の旅へ出ていく。やがて貪欲に世界を吸収していくベラは、平等と自由を知り、時代の偏見から解き放たれていくのだった。
監督・脚本・製作:ヨルゴス・ランティモス
出演:エマ・ストーン マーク・ラファロ ウィレム・デフォー ラミー・ユセフ ほか
制作年: | 2023 |
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2024年1月26日(金)より全国公開