原子力潜水艦「クルスク」
K-141<クルスク>は、949A級攻撃型原子力潜水艦の2番艦です。そしてこれがデカイ! 水中排水量が1万8300トン!! 米英の攻 撃型原子力潜水艦の水中排水量が7000~8000トンですから、2倍以上の大きさです。
何故こんな巨体になったかというと、アメリカ海軍の空母戦闘群を撃破するための対艦巡航ミサイルP-700<グラニート>を24発も搭載したためです。このグラニートが全長10m、全重約7トン、弾頭重量750㎏とこれまたデカイ! 西側標準の<ハープーン>対艦ミサイルの全長4.6メートル、全重約0.7トン、弾頭重量220㎏と比べると、重量で10倍です。
冷戦期ソ連軍にとって、アメリカ空母戦闘群は脅威そのものであり、その水上艦・潜水艦・航空機による防御範囲460キロメートルの外側からの長射程ミサイルによる攻撃を図っていました。949A級原潜は、ハイテク技術の遅れからコンパクト化できず、ミサイルも船体も異常に大きくなってしまったのです。
魚雷もアメリカ空母のため長射程・高速・大威力を追求した<6576>魚雷を搭載しましたが、製造精度も保管環境も低質だったため推進剤の高濃度過酸化水素が漏出、爆発沈没という悲劇を招くのです。
このあたりは、過剰な重武装を追求した結果、荒天で転覆(友鶴事件)や船体破断(第四艦隊事件)事件を起こした日本海軍に重なるものがあります。まぁさすがに自衛隊で給与未払いはありませんが、予算不足のため筆記具やトイレットペーパーなどを隊員が自腹で購入していたのは、有名なオハナシ……。
潜水艦乗員に国境はない
クルスクの海中爆発事故を察知したイギリス海軍のデイビッド・ラッセル准将(コリン・ファース)が救出支援を即断し行動を起こす姿は映画的ヒーローのようですが、これも事実。
実はラッセル准将もサブマリナー(潜水艦乗り)なのです。海洋国家文化に馴染み薄い我々日本人には“世界共通文化のひとつ”とも言われる海軍軍人の「ネイビー・シップ」は馴染み薄ですが、そのネイビー・シップのなかでもサブマリナー同士には国家国境を越えた友情があると伝えられています(※1)。
一方で、事故など起きていないと言い張り、隠蔽できないとなると、データを偽り、米英潜水艦からの攻撃あるいは衝突(※2)という陰謀論を流し、他国からの救出支援を拒否し、家族の口封じを図ったのも、事実です。ロシア上層部を糾弾する女性に注射(鎮痛剤? 麻酔剤?)を打って連れ出したのも事実で、その様子は米<CNN>などでも伝えられました。当時、その映像を見た筆者も「怖ぇぇぇ~っ」と震え上がったものです。
(※1)中国海軍を除く。中国海軍の独善的・排他的体質は世界で顰蹙を買っている。
(※2)衝突説は、上記した排水量の差から勘案すれば、普通乗用車とダンプカーが衝突してダンプカーが横転したと言うに等しい。
奇しくもこの事故は、ウラジミール・プーチンがロシア大統領となって3か月後の出来事でした。現場部隊や将兵の劣悪な環境はすでにソビエト連邦時代の1980年代に慢性化していたので、プーチンの責ではないでしょう。
けれども「大国ロシア」を誇示し、陰謀論を振りかざして欧米を非難、反対者を薬物で黙らせる体質はプーチン政権で強化(悪化)の一途を辿り、「我々は被害者」と主張して軍事侵攻を繰り返しています。『潜水艦クルスクの生存者たち』のドラマは、まだ続いているのです。
文:大久保義信
『潜水艦クルスクの生存者たち』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2024年1~2月放送
『潜水艦クルスクの生存者たち』
艦員118名を乗せて、軍事演習のために出航した原子力潜水艦クルスク。だが艦内の魚雷が突然、暴発。司令官ミハイルは脱出を模索するが、艦体は北極海の海底まで沈み、わずか23名が生き残った。一方、この事故を察知した英国の海軍准将デイヴィッドは救援を表明するが……。
監督:トマス・ヴィンターベア
出演:マティアス・スーナールツ レア・セドゥ
マックス・フォン・シドー コリン・ファース
制作年: | 2018 |
---|
CS映画専門チャンネル ムービープラスで2024年1~2月放送