まるで普通の低予算映画のよう! 意外なほどの高クオリティ
一言でまとめるならば、バチ当たりな作品である。
ただ単に史実ベースだから悪趣味というだけでなく、かのジェームズ・キャメロン監督作『タイタニック』(1997年)のパロディ要素が随所に仕込まれている(冒頭のゾンビ登場シーンが『タイタニック』ラストのシチュエーションと被っていたり、メインヒロインの名が共に<ローズ>だったりするなど)。その上で当時の犠牲者を悪霊とし、(遺品売買に関わる悪役はともかく)無実かつ善良な一般客まで襲わせているというのは、少々引っかかるところがなくもない。
それでいてアサイラム映画の中では、かなりまともな出来栄えの一本でもある。配信サービス向けに気合いが入っているからなのか、セットは普段よりも(部分的に)ちゃんとしており、エキストラの数も多い。カメラワークなども、まるで普通の低予算映画のようだ。
一方でホラー演出のセンスは壊滅的。お目々真っ黒で埃っぽいスタイルの“典型的ゴースト”が、なにやら獲物から綿菓子のような生気を吸い取ったり、出るタイミングがミエミエのジャンプスケアで無理やり驚かせようとしてきたりと、あまり創意工夫の類いは感じられない。
ほか、序盤に登場するやられ役のインフルエンサー2名は、この手の作品に相応しい、オバカで軽薄な言動を繰り返す。しかし同時に、“自分のリスナーのことは普通に大切にしており、ファンが悪役から愚弄された際には普通にかばおうとする”など、ところどころ常識的で好感が持てる行動も取る。そのため、彼らが退場した際にはスカっとするというよりも、むしろ悪霊の理不尽さに憤慨する思いがやや勝る。このインフルエンサー2名に限らず、本作は全体的に、各キャラクターの役割とその扱いが絶妙にどっちつかずでモヤモヤする点が多い。
と、どうもねちっこいダメ出しの方が多くなってしまったが、それでも前述の通り、アサイラム映画の中では上位に食い込むクオリティのホラー映画である。アサイラム社にはせめてこのレベルの作品を、今後とも安定してお出ししていただきたいものだ。
文:知的風ハット
『シン・タイタニック』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2024年1月放送
『シン・タイタニック』
かつての悲劇から110年後の2022年。最新設備を備えつつ、外見は初代を復元した“タイタニック3号”が大西洋を初クルーズ。かつての遭難現場に近付いた頃、異変は発生した。突然、システムがダウンし、船は制御不能に。さらに乗客たちに不気味な怪奇現象が襲いかかる。
監督:ニック・ライオン
出演:キーシャ・シャープ リディア・ハースト アナリン・マコード
制作年: | 2022 |
---|
CS映画専門チャンネル ムービープラスで2024年1月放送