1993年『レザボア・ドッグス』日本公開時の反応は……
さて、『レザボア・ドッグス』が超気に入った私は、普段は絶対にやらないことをやってしまった。日本配給が親しかったヘラルド・エースと決まったと知り、字幕翻訳をやりたいと自分を売り込んでみたのだ。意外にもそんなお願いが通って、今に至るまで私の翻訳を使っていただけることになった。翻訳者冥利に尽きると思っている。
今では傑作と名高い『レザボア・ドッグス』だが、公開はまったく上手くいかなかった。試写の評判は真っ二つで、悪い方が多かった。芳しくない試写の反応を聞くうちに、「このままだとカルト映画にされてしまう」と不安が募ったが、予感が的中、興行は散々な結果に終わった。実は、タランティーノ作品が受け入れられるようになったのはトニー・スコットが監督した『トゥルー・ロマンス』(1993年)がヒットしてからだった。ある意味、トニー・スコットの職人技で、見事にエンターテイメント化された『トゥルー・ロマンス』を経由することで、癖の強いタランティーノ・ワールドに観客が接近しやすくなったと言えるのかもしれない。
純粋無垢なタランティーノ・ワールドをスクリーンで
30年を経て、改めて『レザボア・ドッグス』を見てみると、そこに純粋無垢なタランティーノ・ワールドがあることに気づく。
『レザボア』以後のタランティーノは、ひたすら映画のサブカル化、饒舌化に邁進していく。今のところ最後の監督作品である『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年)は上映時間2時間41分(2時間51分のエクステンデッド・カット版あり)、その前の『ヘイトフル・エイト』(2015年)は2時間48分、『ジャンゴ 繋がれざる者』(2012年)は2時間45分と、軒並み3時間近い。映画の知識が豊富で、語りたいものが山ほどあるタランティーノならでは長さであり、長くても濃密でダレないところはさすがだ。
だが、それに比べて『レザボア』の1時間40分は奇跡のように短い。短く、切れ味鋭い。その後の映画で発展することになるネタが、そこここに散見される。今のタランティーノを知らなかった30年前には、見てとることの出来なかったタランティーノがそこにいる。この機会に、ぜひ大きなスクリーンで。
文:齋藤敦子
『レザボア・ドッグス』は2024年1月5日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開
『レザボア・ドッグス』
計画を遂行するためだけに集められた6人の男たち。
狙いは宝飾店。準備も万全だった。
しかし、襲撃と同時に彼らは罠にハメられていたことに気づく。
男たちは集合場所にたどり着くが、ある疑いを捨てきれない。
裏切者がいるのではないか?
男たちはぶつかり合い、やがて予想しなかった結末を迎える。
監督・脚本:クエンティン・タランティーノ
出演:ハーヴェイ・カイテル ティム・ロス
マイケル・マドセン クリストファー・ペン スティーヴ・ブシェミ
ローレンス・ティアニー カーク・バルツ エディ・バンカー
クエンティン・タランティーノ
制作年: | 1991 |
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2024年1月5日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開