30年後の『レザボア・ドッグス』
『レザボア・ドッグス』が新年早々デジタル・リマスター版でリバイバル上映されると聞いて感慨もひとしおである。日本での劇場公開は30年ぶりだそうだが、初めて見たときの衝撃が鮮明に残っているので、歳月の長さをあまり感じない。
いや、監督のクエンティン・タランティーノを始め、出演の俳優たちはそれなりに年をとっている。元締めジョーのローレンス・ティアニー、ナイスガイ・エディーのクリス・ペン、ミスター・ブルーのエディ・バンカーは鬼籍に入ってしまった。それでも映画自体は年をとらない。今もピカピカに新しく、十二分に衝撃的だ。
今でもよく覚えている。1992年のカンヌ国際映画祭で、朝8時30分のコンペ作品の上映が終わり、主会場のリュミエールを出ようとしたときにフランスの映画批評家の重鎮ミシェル・シマンに、誰かが『レザボア・ドッグス』を見るべきか尋ねたのだ。「絶対に見た方がいい」という返事を聞いて、私はその足ですぐ上映会場へ向かった。ミシェル・シマンが太鼓判を押す映画なら間違いない。そして、間違いなかった。
ガラガラだったカンヌの記者席が2年後には超満員に
映画の内容については改めて触れるまでもないだろう。レストランで強面の男たちがマドンナの「ライク・ア・バージン」のおかしな解釈を披露し、ウェイトレスにチップを払うかどうかで一悶着する冒頭の長回し。ジョージ・ベイカーの「リトル・グリーン・バグ」に乗って黒いスーツで決めた男たちがスローモーションで歩くオープニング。一転、銀行強盗が失敗に終わり、落ち合い場所である倉庫に逃げてくる。どこで失敗したのか。仲間に対する信頼が崩れ、疑心暗鬼で互いに腹を探り合うなか、裏切り者の存在が浮かび上がってくる――。
香港ノワールや日本のヤクザ映画の影響を感じさせつつ、個々のキャラクターの練り上げ方が見事で、台詞も面白く、テンポよく最後まで一気に見せてしまう。こんなカッコいい映画は久しぶりだ。私はティム・ロスのファンだったので、彼を見に記者会見に顔を出してみた。出席者は製作・主演のハーヴェイ・カイテルを中心に、タランティーノ、ティム・ロス、製作のローレンス・ベンダー、モンテ・ヘルマンと超豪華。
ところが、記者席にはジャーナリストが20人もいたろうか、まるでガラガラ。質問もあまり出ず、私の隣にいた友人の音楽プロデューサー、ブライアン・Jが(映画を見てもいないのに)2度も質問していた。「だって、誰も質問しないと可哀想じゃないか」というのがブライアンの弁だった(そんな彼もその数年後に亡くなってしまった)。私は真っ赤な顔をして、下を向きながら熱弁を振るうタランティーノにちょっとびっくりしたのを覚えている。このガラガラだった記者会見場が2年後の『パルプ・フィクション』のときには立錐の余地もないほど満員の記者で埋まるのだから、タランティーノは映画史に残る出世頭だと思う。
A young Quentin Tarantino talking about Reservoir Dogs at the 1992 Cannes Film Festival.
— FilmFreeway (@FilmFreeway) July 15, 2020
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『レザボア・ドッグス』
計画を遂行するためだけに集められた6人の男たち。
狙いは宝飾店。準備も万全だった。
しかし、襲撃と同時に彼らは罠にハメられていたことに気づく。
男たちは集合場所にたどり着くが、ある疑いを捨てきれない。
裏切者がいるのではないか?
男たちはぶつかり合い、やがて予想しなかった結末を迎える。
監督・脚本:クエンティン・タランティーノ
出演:ハーヴェイ・カイテル ティム・ロス
マイケル・マドセン クリストファー・ペン スティーヴ・ブシェミ
ローレンス・ティアニー カーク・バルツ エディ・バンカー
クエンティン・タランティーノ
制作年: | 1991 |
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2024年1月5日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開