「気鋭」から「盤石」のA24に
2012年に設立されたアメリカの映画会社A24。米アカデミー賞作品賞に輝いた『ムーンライト』や日本でもバズった『ミッドサマー』を世に送り出し、いまやもう説明不要の“イケてるスタジオ”へと瞬く間に上り詰めた。
10周年を越えても勢いはとどまらず、2023年の第95回アカデミー賞では『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』が作品賞、監督賞、主演女優賞、助演男優賞、助演女優賞を含む最多7冠、『ザ・ホエール』が主演男優賞を含む2冠と主要部門を独占。直近でもNetflixシリーズ『BEEF/ビーフ~逆上~』やアジア系監督・俳優による『PAST LIVES(原題)』が賞レースで強さを発揮し、来年度も映画ファンからの信頼は揺らぎそうにない。もはや気鋭ではなく、盤石の存在といえそうだ。
「A24作品」には2種類ある
ちなみに、A24の作品には大きく分けて2種類あり、一つは買い付けて配給(北米・全世界)を行うもの、そしてもう一つは製作も兼ねている(つまり制作資金を提供している)もの。例えば映画祭で新鋭の監督を発掘し、1本目は配給、2本目以降は製作も携わるというのは定石のパターンだ。
日本ではすべてひっくるめて「A24作品」と呼ばれることが多いが、全作品に共通するものはクリエイターを拾い上げる“目利き”の部分だろう。好みの差や興収・評価的な浮き沈みはあれど、斬新な特徴を備えた生きのよい作品を次々に送り出しているという特徴は揺らがない(A24に拾い上げられた監督に話を聞くと、脚本を読まずにGOサインを出すこともしばしばなのだとか。作り手の個性を信じ抜くスタイルは創業以来貫かれているように感じられる)。
2023年の日本公開作品を振り返ってみても、『エブエブ』『ザ・ホエール』に加えて『レッド・ロケット』『aftersun/アフターサン』『マルセル 靴をはいた小さな貝』『Pearl/パール』『CLOSE/クロース』とジャンルはバラバラだが、記憶にしっかりと残る濃い作品が並ぶ。
プロモーションもオリジナリティが高く、作品に合わせて予告編内でのA24のロゴデザインを変える遊び心や、センスあふれるポスター、Tシャツやフィギュア、香水等々のグッズ制作等々でしっかりとブランディングを行ってきた。既存の映画会社のイメージにとどまらず、ある種のファッションブランドやセレクトショップ的な側面を持っているのはA24の大きな特徴といえる。
The classic A-Twenty-Four Crewneck (née The A/C Sweatshirt) is back with an embroidered update. Also in the shop: Logo Motion Print restock and new Cream Logo Cap. https://t.co/GdHu1dn0Dc pic.twitter.com/O8AFinftDh
— A24 (@A24) November 15, 2023
日本未公開のA24作品を一挙上映
そのA24の新作が12月、なんと計13本も日本で一挙上映(12月22日~)。A24ホラー史上最高ヒットをたたき出した『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』、名匠ケリー・ライカート監督による西部開拓時代の友情物語『ファースト・カウ』に加えて、U-NEXTが全国5劇場と組んで行う特集上映企画「A24の知られざる映画たち presented by U-NEXT」も開幕する。
劇場でも配信でも!「A24の知られざる映画たち」開幕
特集上映企画「A24の知られざる映画たち presented by U-NEXT」は、劇場公開期間後にはU-NEXTでの独占配信に移行し、劇場派と配信派どちらのニーズにも応えてくれるのがうれしいところ。
A24作品といっても日本では劇場公開しない(配信スルー)ものも当然あり、個人的に傑作だった『セイント・モード/狂信』や、本国で話題となった『BODIES BODIES BODIES/ボディーズ・ボディーズ・ボディーズ』等がそれにあたる。そんななか、今回のU-NEXTによる11作品一挙公開はファンにとっては嬉しい悲鳴といえるのではないか。
簡単に作品ラインナップを紹介すると、ライカート監督がミシェル・ウィリアムズと組んだ新作『ショーイング・アップ』(Indiewireが発表した、世界の批評家158人の投票によって選出された2023年の映画ベスト50では12位にランクイン)や、ティルダ・スウィントンが一人二役を務め、マーティン・スコセッシが製作総指揮を手掛けた『エターナル・ドーター』、ヴァル・キルマーが自らプロデュースし、咽頭がんと闘う姿を収めたドキュメンタリー『ヴァル・キルマー/映画に人生を捧げた男』等々、個性の際立った作品が多数。スラッシュホラーからサスペンス、ヒューマンドラマにコメディとジャンルも幅広く、多様性にあふれた作品群は流石A24といったところ。
クリエイター見本市としても楽しめる? 新たな才能に注目!
『ムーンライト』のバリー・ジェンキンス監督がプロデュースを務めた『オール・ダート・ロード・テイスト・オブ・ソルト』や『グッド・タイム』のサフディー兄弟がプロデュースした『ファニー・ページ』のように、A24とコラボレーションしてきた監督たちが、次世代にバトンをつないだ作品も多く、今後かれらがA24の担い手として継続的に組んでいく可能性も考えるとA24の未来を予見する面々ともいえ、クリエイター見本市としても楽しめる。
また、『アース・ママ』を手掛けたサバナ・リーフは英国インディペンデント映画賞2023でダグラス・ヒコックス賞(新人監督賞)を受賞しており、今回の特集上映は、後々の布石となるメモリアルな場といえそうだ。
また今後、日本公開が決定している作品でいうと、1月19日にはジェシー・アイゼンバーグが監督デビューを果たし、エマ・ストーンがプロデュースしたビターな親子ドラマ『僕らの世界が交わるまで』、2月16日にはアリ・アスター監督×ホアキン・フェニックス主演『ボーはおそれている』、4月4日にはソフィア・コッポラ監督がエルヴィス・プレスリーの元妻を描いた『Priscilla(原題)』が公開予定。
さらに前述の『PAST LIVES』や『シック・オブ・マイセルフ』監督×アリ・アスター監督プロデュース×ニコラス・ケイジ主演『DREAM SCENARIO(原題)』も控えている。概要を聞くだけでも猛者ばかりだが、来年に入ればまた新たな日本公開作が発表されるはず。
さらに、直近の動きでいうと『エクス・マキナ』『MEN 同じ顔の男たち』のアレックス・ガーランド監督との最新コラボ作『CIVIL WAR(原題)』ではA24史上最高額の製作費が投入され(7500万ドルとのウワサも)、IMAX上映向けの映画を生み出した。また、ゲームクリエイターの小島秀夫率いるKOJIMA PRODUCTIONS と人気ゲーム『DEATH STRANDING』実写映画化において国際共同製作契約を締結。業界の改革者的存在のA24、そのピークはまだまだ先といえるかもしれない。
文:SYO
『僕らの世界が交わるまで』は2024年1月19日(金)、『ボーはおそれている』は2024年2月16日(金)より全国公開
「A24の知られざる映画たち presented by U-NEXT」は2023年12月22日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町・渋谷ほかにて4週間限定ロードショー、2024年1月26日(金)よりU-NEXTにて独占配信
「A24の知られざる映画たち presented by U-NEXT」
2023年12月22日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町・渋谷ほかにて4週間限定ロードショー、2024年1月26日(金)よりU-NEXTにて独占配信