「ピンヘッド」は誰が名付けた? シリーズの方向性を変えた強烈なキャラ立ち
バーカーとブラッドレイはピンヘッドの威厳を表現するため、舞台劇での演技を参考にした。動きやジェスチャーでピンヘッドがその場を完全に支配しているように見せるため、稽古を繰り返した。またその過程で、ピンヘッドたちが元は人間であった等、後のシリーズにもつながる魔道士たちの設定も現場で詰められていった。
もともとブラッドレイは、映画冒頭のマットレスを持ってくる引っ越し業者役とピンヘッドの2役だったが、あまりにハマり役だったのでピンヘッドのみを専門に演じることになった。
ただ、ピンヘッドを演じるのは相当大変だったようだ。メイクには毎日6時間かかり、メイクの付け外しがうまくなったブラッドリーは他の役者の作業も手伝えるようになり、アシスタントメイクアップとしてクレジットされている。撮影中も、黒目のコンタクトのせいで周囲はロクに見えず、拘束衣的衣装は歩くのにも苦労したそうだ。
それだけ苦労したというのに、完成披露パーティーでブラッドレイは門前払いを食わされそうになった。皆にメイクなしの彼の素顔を知られていなかったからである……。
Doug Bradley en proceso de maquillaje para HELLRAISER, 1987. pic.twitter.com/tNIlPUTIOn
— MUBI Latinoamérica (@mubilat) October 26, 2022
そもそもの話だが、実はブラッドレイのキャラは脚本には「プリースト=司祭」、ないしは「セノバイトリーダー」としか書かれていない。ピンヘッドは単なるあだ名で、一説にはメイキャップが付けた名前だと言われている。作中でその呼称が用いられるようになったのはバーカーが離れた『ヘルレイザー3』(1992年)以降で、バーカー自身はこの呼び名を嫌っているそうだ。実際、彼の手がけたコミックなどではピンヘッドではなく「司祭」の呼び方を使っている。
また『ヘル・レイザー』制作中に、すでにバーカーが構想していた『ヘルレイザー2』(1988年)では、『1』でもその妖艶さを発揮している悪女、ジュリアが悪と快楽の女王としてさらに活躍する予定だったのだが、あまりにピンヘッドがキャラ立ちしていたので、そちらに方向転換したという。バーカーとブラッドレイは、シリーズの方向性を変えてしまうほど強烈なキャラの造形に成功したのだ。
余談だが、ジュリア役のクレア・ヒギンズは大のホラー嫌いで、いまだに本作を見たことがないそうである。
今見ても恐ろしい“肉体復活”SFX「ほかの映画で見たことのないシーンを作りたい」
実は『ヘル・レイザー』はかなりの低予算で、余裕のない状態で撮られている。確かに舞台はほとんど1軒の家、それどころかたいていのことは2階の1部屋のみで起こる物語展開になっている。さらにコストを削減しようとしてくる映画会社に対し、現場スタッフは知恵と熱意で作品を作り上げていった。
ピンヘッドがヒロイン、カースティーの頭上にヌッと登場するシーンは実は非常に原始的で、ブラッドレイがシーソーに乗り、反対側にスタッフたちが乗って持ち上げてバランスを取っているという驚きの撮影方法だ。
もちろんピンヘッドたちのメイクも印象的だが、この作品でのもう一つの特殊撮影の見所は、ボックスによって肉体を失ったフランクが、犠牲者の血を得て次第に失った肉体を蘇らせるシーンだろう。もともとはフランクの顔が壁に浮き上がりしゃべる、という感じでパペットで撮影するつもりだった。しかしSFX班は「ほかの映画で見たことのないシーンを作りたい」と奮起し、あのシーンを作り上げた。
異なる温度で溶ける蝋を組み合わせて骨格を作り、それが溶けていく映像を逆回転させ、肉が盛られていく課程を表現。脈打つ心臓や内臓、メーキャップにはローションや潤滑油、コンドームなどを多用することで、ヌメヌメと濡れた感じをキープした。スタッフはそこら中の薬局やアダルトショップでコンドームを買い占めたので、何かそういう大規模な性的な催しがあるのかと勘違いされたりもしたそうだ。
その甲斐あって、このシーンは制作側、特にスポンサーの度肝を抜いた。もともとはカルト映画的な小規模公開の予定だったが大規模公開にプランが変更され、低予算ながら破格の大ヒットになった。実際、今そのシーンを観ても、安っぽさは少しも感じない。低予算や恵まれない現場環境の中でも、バーカーの作り上げた世界観や、スタッフたちの情熱が名シーンの数々を作り上げたと言えるだろう。
https://twitter.com/bja_samuel/status/1576900115406548992
『ヘル・レイザー〈4K〉』
とある屋敷に引っ越して来た夫、ラリーと妻のジュリア。ある日、屋根裏でラリーが怪我をしたことによりおどろおどろしい姿の男が出現する。男はラリーの兄のフランク。実はフランクは極限の快楽をもたらすという謎のパズル・ボックスを手に入れ、そのパズルを解いたことで魔道士たちによって八つ裂きにされ肉体を失っていたが、ラリーが流した血によって覚醒したのだった。フランクはかつて愛人だったジュリアに生贄の血肉を捧げて復活しようと目論むが、ラリーの先妻の娘カースティは、継母の怪しい行動に勘付いていた……。
監督・原作・脚本:クライヴ・バーカー
出演:アシュレイ・ローレンス アンドリュー・ロビンソン クレア・ヒギンズ ダグ・ブラッドレイ
制作年: | 1987 |
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2023年12月8日(金)よりシネマート新宿ほか全国順次ロードショー
『ヘルレイザー2:ヘルバウンド』『ヘルレイザー3:ヘル・オン・アース』『ヘルレイザー4:ブラッドライン』
2024年1月12日(金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋にて日替わり上映、ほか順次公開