『チャリチョコ』はじまりの物語
2023年のクリスマス・シーズンに、家族や友達、あるいは恋人を誘って見るのにぴったりな映画が登場した。『チャーリーとチョコレート工場』(2005年)の主人公、ウィリー・ウォンカの青春時代をミュージカルに仕立てた『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』である。
まずは簡単なストーリーを。世界一のチョコレート職人になることを夢見る青年ウィリー・ウォンカ(ティモシー・シャラメ)が、一流のチョコレート店3軒が競い合う街にやってくる。今は無一文だが、ウォンカは自分の作った魔法のチョコレートで人々を夢中にさせる自信があった。しかし、警察署長(キーガン=マイケル・キー)を大好物のチョコレートで抱き込み、街を牛耳るチョコレート組合3人組の妨害に遭い、ウォンカはやむなく1泊だけミセス・スクラビット(オリヴィア・コールマン)が経営する宿屋に泊まることに。
ところが、スクラビットの悪巧みで一夜にして莫大な借金を背負わされてしまったウォンカは、宿屋の下働きとして奴隷のように働かされている人々の仲間に加わる。そこで孤独な少女ヌードル(ケイラ・レーン)に出会う。果たして少女を救い出し、亡き母(サリー・ホーキンス)との約束通り、世界一のチョコレート店を開店することが出来るだろうか――。
ページ分割:原作者は誰?『ウォンチョコ』は過去映画化作と何が違う??
いま再び旬? 原作者ロアルド・ダールの数奇な半生
原作者のロアルド・ダール(1916-1990)は英ウェールズのカーディフ生まれ。両親ともにノルウェー移民で、第二次大戦はイギリス空軍のパイロットとして従軍した。飛行機のパイロットで児童書を書いた作家といえば「星の王子さま」のアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリがいるが、サン=テグジュペリが偵察飛行中に墜落、戦死した(2004年に地中海の海底から残骸が回収された)のに対し、ダールはエジプトの砂漠に不時着するも生還した。
Fighter pilot, spy and best-selling author - Roald Dahl's life was often just as amazing as the stories he wrote! 📖 #RoaldDahlDay2018 #RoaldDahlDay pic.twitter.com/vtnmPCiX4K
— BBC Bitesize (@bbcbitesize) September 13, 2018
戦後、パイロット時代の体験を書いた短編集「飛行士たちの話」を出版し、作家デビュー。以後、大人向けの小説と児童書を交互に書いている。小説としては、ウェス・アンダーソン監督が短編4作を『ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語』などに映像化し、今年9月からNetflixで配信されている。
ダールにはアメリカの女優パトリシア・ニールとの間に5人の子がいて、その子どもたちのために楽しいストーリーを生み出してきたことは想像に難くない。これまで映画化されたものだけでも『ファンタスティック Mr.FOX』(2009年)、『ジャイアント・ピーチ』(1996年)、『BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』(2016年)、『魔女がいっぱい』(2020年)、『マチルダ』(1996年)などがある。そんな子ども思いのダールだからこそ、ニールと1983年に離婚したときに、子どもたち全員が父親の側についたのも頷ける。
Roald Dahl was married to Patricia Neal for 30 years, from 1953-1983 (divorced, 5 children) pic.twitter.com/flRwP9aGt8
— Classic Movie Hub (@ClassicMovieHub) September 14, 2019
4度目の映画化『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』は何が違う?
原作の「チョコレート工場の秘密」はアニメを含めて4度目の映画化だが、他の3作との大きな違いは、主人公ウィリー・ウォンカのキャラだけを借り、まったくのオリジナル・ストーリーで、すべてを作り直しているところだ。これは私の想像だが、製作側が一番気を遣ったのは前作からいかに離れるか、ではなかったかと思う。
ジョニー・デップがウォンカを演じたティム・バートン監督の『チャーリーとチョコレート工場』は、ダール的な奇妙さとバートン的な奇妙さがあいまって、実に奇妙な映画になっていた。もちろん、そこが映画の魅力でもあるのだが、大人はともかく感受性の豊かな子どもが、この奇妙な味を消化できるかどうか、ちょっと危ういところがあった。その危うい奇妙さは、ウォンカを演じたジョニー・デップに一番よく現れていたように思う。
それが、今回の主演は、現ハリウッドのプリンスことティモシー・シャラメである。奇妙なところなど微塵もない、正真正銘のハンサムだ。物語の設定を昔に戻し、おとぎ話風のタッチを加えたところもいい。何より一番効果的だったのはミュージカルにしたことだろう。魔法とミュージカルは相性抜群。不思議で、華やかで、ウキウキする。
私的に一番受けたのは、ウンパルンパ役のヒュー・グラントだった。何とかウォンカを出し抜き、チョコレートを盗もうとする小悪党だが、実際に小さいので少しも恐くない。出てくるだけで、とにかく可笑しい。
プロデューサーは『ハリー・ポッター』シリーズ(2001年~)のデイヴィッド・ヘイマン。監督は『パディントン』シリーズ(2014年~)のポール・キング。撮影は『オールド・ボーイ』(2003年)などのパク・チャヌク作品で知られる韓国出身のチョン・ジョンフン。音楽は『SING/シング』(2016年)などのジョビィ・タルボット。撮影はハンガリーで行われたようで、画面にヨーロッパの雰囲気が漂っているのが、おとぎ話度をさらに強めている。
文:齋藤敦子
『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』は20232年12月8日(金)より全国ロードショー
『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』
世界中を虜にしたファンタジー『チャーリーとチョコレート工場』で有名な工場長ウィリー・ウォンカの若き日の物
語。夢見ることを禁じられた町で、ウォンカは亡き母と夢見た世界一のチョコレート店をつくることができるのか
―?「ハリー・ポッター」シリーズのプロデューサーが、次世代のジョニー・デップとの呼び声高いティモシー・シ
ャラメ、名優ヒュー・グラントら超豪華キャストを迎えて贈る、歌と魔法と感動のファンタジー超大作!
監督・脚本:ポール・キング(『パディントン』(16)『パディントン2』(18))
製作:デイビッド・ヘイマン(「ハリー・ポッター」シリーズ)
原案:ロアルド・ダール
出演:ティモシー・シャラメ/ヒュー・グラント/オリビア・コールマン、サリー・ホーキンス/ローワン・アトキンソン
制作年: | 2023 |
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20232年12月8日(金)より全国ロードショー