強く生きるんだ、それがお前の生きる道だ『新しき世界』
ファン・ジョンミンが演じるのはヤクザのチョン・チョン。その弟分であるイ・ジャソンを演じるのはNetflix『イカゲーム』で世界的な知名度を得たイ・ジョンジェだ。
ジャソンは実は潜入捜査官であり、自分をモノ扱いする組織に辟易しながらも「犯罪組織を一掃する」という警官としての職務と、10年以上の潜入で育まれたチョンとの友情の間で葛藤し続ける。
チョンは普段はナイスガイだが、ある日、ジャソンと同じく潜入捜査をしていた女性刑事を強姦したうえにドラム缶に詰め込み、喜々とした表情で「ブラザー、知ってたか? その女はデカだ」と、どのように拷問したかジャソンに解説。他の潜入捜査官に至っては、スコップでぐちゃぐちゃになるまで殴りつける。
このシーンの怖さは、滝のような汗を流すイ・ジョンジェのナイスアシストもあり、狂気に満ちている。血まみれで捜査官を殴りつけるファン・ジョンミンを見て、「この人はプライベートでも3人くらい家の庭に埋めているのでは」と思ってしまうほどだった。
「強くなれ、強く生きるんだ。それがお前の生きる道だ」
とくに好きなのは劇中終盤、抗争で瀕死の重傷を負ったチョンが、力を振り絞って「ブラザー、苦しんでるみたいだな。そんなに悩むな。兄貴の言うことを聞け。強くなれ。強く生きるんだ、俺の舎弟よ。それがお前の生きる道だ、わかったか?」とジャソンに語りかけるシーンだ。
その後、チョンから聞いた通りに金庫を開けると“警察官ジャソン”に関する書類が。他の潜入官に対しては容赦なく拷問して殺したチョンだが、ジャソンについては正体を知った上で「友として」彼を愛していた。
ジャソンは彼の言葉を反芻する。正義のためとはいえ人道に反する警察組織に葛藤していたジャソンに、チョンの漢気が生きる道を示したのだ。
映画の最後、出会った頃の二人が無駄口を叩きながら殴り込みに行く回想シーンが、また泣ける。はじめて観賞してから10年以上になるが、ここまで素晴らしいハードボイルド作品はなかなか出てこない。本作のファン・ジョンミンは「良くも悪くも圧倒的な男の生き方」を教えてくれた。