死者の日
西洋で死者の日といえば晩秋(万聖節=ハロウィーン)だが、日本では真夏のお盆。お墓参りに行くのも夏、幽霊が出るのも夏。遊園地にお化け屋敷が建つのも、寄席で怪談噺が語られるのも夏の風物である。子供の頃は、お盆になると家の仏壇に提灯を飾り、お供えをし、門口で迎え火を焚いて祖先の霊を招き、棚経をあげ、送り火を焚いて送ったものだった。お盆の間は家のどこかに霊がいるかもしれないと、暗がりがなんとなく薄気味悪く思えた。
そんな経験が下敷きになっているのか、今も夏の夕暮れになると、この世の向こう側へ行ってしまった人々のことが、そこはかとなく思い出される。ただし、この歳になると親しい人が何人も向こう側に逝ってしまったせいで、霊は薄気味悪くも何ともなく、むしろ懐かしく思える。自分が向こう側に近づいた証拠かもしれない。
中国の怪談集を映画化した『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』
さて、『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』は、民間の怪談話を集めた蒲松齢(1640-1715)の小説集「聊斎志異」の1編を映画化したもので、1987年に製作された。借金を取り立てるために旅をしている青年・寧采臣(レスリー・チャン)が、一夜の宿を借りに入った村外れの寺で、琴の音に誘われて美女・小倩(ジョイ・ウォン)に出会い、恋に落ちる。が、実は小倩はすでに1年前に死んでおり、千年樹の妖怪に自分の骨壷を抑えられたせいで、男を誘惑して精気を吸い取る役割を担わされていた。その標的になった采臣だが、寺に住む道士で剣の達人・燕赤霞(ウー・マ)の助けで、妖怪から小倩の骨壷を取り戻し、魂を成仏させる――というのが本作のあらすじである。
当時、香港製怪談映画というと、蘇った死体“キョンシー”とカンフーの達人が対決するコメディタッチのホラー映画『霊幻道士』(1985年)が大ヒットしていた。目端の利く映画監督ツイ・ハークが、このホラー・ブームに乗っかろうとしたとしても不思議はない。が、そこはツイ・ハーク、二番煎じではなく、まったく新しい、エロチックな大人向けのホラーを目指した。ただのカンフーではなく、ワイヤーアクションを大胆に取り入れ、薄物をまとった美女ジョイ・ウォンを宙に舞わせ、かくしてエロス+アクション+ホラー映画『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』が誕生したのであった。
レスリー・チャン主演『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー [2Kリマスター版]』『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー2』、トニー・レオン主演『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー3』
CS映画専門チャンネル ムービープラスで2023年12月放送