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“輝き”を封印した稲垣吾郎と新垣結衣、二人の“核”が微かな光をもたらす『正欲』 考えることを放棄しない、観る前には戻れない衝撃作

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ライター:#石津文子
“輝き”を封印した稲垣吾郎と新垣結衣、二人の“核”が微かな光をもたらす『正欲』 考えることを放棄しない、観る前には戻れない衝撃作
『正欲』東京国際映画祭 ©2023 TIFF 撮影:石津文子
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”普通”に擬態して息を潜めるように生きる

自分の欲望は、誰かの欲望とは違う。当たり前のようで、見過ごされがちなことだ。映画『正欲』の中で、新垣結衣が演じる桐生夏月は寝具店に勤めているが、その理由は「睡眠欲は裏切らないから」というもの。この指摘にハッとした。ある事象に性的な欲望を感じる彼女は、世の中の大多数の人とは同じ感覚を共有できず、”普通”に擬態して息を潜めるように生きている。

©︎ 2021 朝井リョウ/新潮社 ©︎ 2023「正欲」製作委員会

人間の三大欲求は、食欲、性欲、睡眠欲だというが、夏月は行きつけの回転寿司はあるものの、美味しそうに食べない。それは明日も生きていたい、という欲求がないからだということがわかってくる。この寿司を注文して食べる時の、新垣結衣の曇ったような目、表情、声が、素晴らしい。ずっと「地球に留学しているような感覚」で生きてきた彼女にとって、睡眠だけが地球人と共有できる欲望なのだろう。

一方で、普通を是とするマジョリティに属している人間にも、揺らぎが生じる。その象徴が、稲垣吾郎が演じる検事の寺井啓喜だ。正しさを重んじる彼は、息子の不登校に悩み、妻と衝突する。

©︎ 2021 朝井リョウ/新潮社 ©︎ 2023「正欲」製作委員会

「(Ab)normal Desire」という英語題名を象徴するこの二人に加え、同窓会で夏月と再会する佳道(磯村勇斗)、学園祭でダイバーシティ・フェスを開催しようとする八重子(東野絢香)とダンスサークルの大也(佐藤寛太)が中心となって話が進む。

© 2021 朝井リョウ/新潮社 © 2023「正欲」製作委員会

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『正欲』

横浜に暮らす検事の寺井啓喜は、息子が不登校になり、教育方針を巡って妻と度々衝突している。広島のショッピングモールで販売員として働く桐生夏月は、実家暮らしで代わり映えのしない日々を繰り返している。ある日、中学のときに転校していった佐々木佳道が地元に戻ってきたことを知る。ダンスサークルに所属し、準ミスターに選ばれるほどの容姿を持つ諸橋大也。学園祭でダイバーシティをテーマにしたイベントで、大也が所属するダンスサークルの出演を計画した神戸八重子はそんな大也を気にしていた。

出演:稲垣吾郎 新垣結衣 磯村勇斗 佐藤寛太 東野絢香

監督・編集:岸善幸
原作:朝井リョウ『正欲』(新潮文庫刊)
脚本:港岳彦
音楽:岩代太郎
主題歌:Vaundy『呼吸のように』(SDR)

制作年: 2023